RIZINフェザー級王者、KNOCK OUT-BLACKスーパーライト級王者・鈴木千裕 RIZINフェザー級王者、KNOCK OUT-BLACKスーパーライト級王者・鈴木千裕

KNOCK OUT-BLACK(キックボクシング)とRIZIN(MMA)の両王者で、"格闘技界の二刀流"として注目を集める鈴木千裕。

4月29日開催のRIZIN.46(有明アリーナ)で迎える初防衛戦への意気込みとさらには自身の歩み、今後についてを語ってくれた。

■初防衛戦の作戦はガーンといってドン

――いよいよ4月29日、RIZIN.46での初のフェザー級防衛戦(vs金原正徳)が迫ってきました。

鈴木 ですね。闘いたかった選手ですし、避けては通れない選手です。これで試せます。いったい、自分がどこまで強くなってるのかを。

――あらためて金原選手はどんな選手でしょう?

鈴木 オールラウンダーなのは間違いないんですけど、すべて突出していて強さのゲージがどれも高い選手です。でも、格闘技って面白くて、全部ができるからこそそれが弱点にもなるんです。なぜなら(鈴木選手が得意な打撃も含めて)全局面で勝負してくるから。であればボクはそこを突いていこうと思ってます。

――鈴木選手に分がある打撃で勝負をかけようと。で、その作戦が、カード発表会見で言われていた「ガーンといってドン」ですか。ガンガン前に出てKOするというか。

鈴木 シンプルだけど、みんなそれを一番見たがってますよね。KOは誰が見ても白黒ハッキリつくんで。

――実際、これまでキックボクシングでもMMA(総合格闘技)でもKOを量産してますよね。

鈴木 もうMMAでも倒し方はわかったんで、そのままいきますよ!

――それにしても、現在KNOCK OUTとRIZINの両王者ということで、二刀流を体現している鈴木選手には取材が殺到しているとか。大変じゃないですか?

鈴木 いえ、ありがたいです。そもそもボクがデビューしたときなんて勝ってもひとつも記事にもならないし、誰も騒がない日常を送ってましたから。それが、チャンピオンになってすべて記事にしていただけるようになって本当にありがたいです。

――では来る者は拒まず?

鈴木 当たり前っすよ! 今まで散々取材してもらってきたのに自分がトップになった途端、「取材、受けないよ」とか「試合前なのに時間を食って、負けたらどうするの?」とかって、考えが浅くないですか? 急に「俺、今このレベルなんで」って偉そうにしたら「そういう(器の小さな)人間ね」って思われますよ。

――二刀流を体現した現状については、ご自身でどう思っているんですか?

鈴木 ここからがスタートです。二刀流の「よーい、どん!」まで来たんで、やっと走り出せますよね。でも、まだ二刀流は未知で全部手探りなんですけど、対戦相手も含めて「これやったらいい感じかな?」とか、これからそれを探るのが楽しみですよね。

■占いは信じるけど"リング上の神"は自分

――今回はそんな鈴木選手の人となりにも迫りたいんですが、まず格闘技を始めたのは3歳ですよね?

鈴木 そうです。ボクってペルーと日本のハーフなんですけど、ハーフはいじめられるし、強くなれということで、物心つく前から父親に空手道場に通わされていました。

――そこから強くなりたい気持ちは途切れませんでした?

鈴木 まったく。これは、コンプレックスがたくさんあるからだと思います。ボクは"普通"を手に入れたかったんです。

家に帰ったら大好きな奥さんがいて、かわいい子供がいて、ちょっといい車や家があるみたいな。そういうのがボクの幼少期にはなかったので。これは格闘技でつかまなきゃというのがありました。

当時は心が貧しかったですよね。両親はずっと共働きだったので、いつもひとりぼっちでしたし。

――それは寂しいですね。

鈴木 今であれば両親は頑張って自分らを育ててくれてたんだなと思えます。ただ、将来自分が親になったとき、子供に同じ思いをさせたくないと思いました。あとは、なんていうんですかね。ある意味、格闘技は子供の頃のボク自身の表現の場所だったんです。

格闘技で勝つことによって両親が試合を見に来てくれたり、優勝したらごちそうを食べに連れてってくれたり。たぶん、子供ながらに気づいていたんだと思います。だから、ある程度の年齢になると優勝か準優勝しか考えていませんでした。

鈴木千裕

――そうして自力で道を切り開いてきたからか、占いは信じないと聞きました。

鈴木 あははは! いや、それは少し誤解もあって。正直、占いって信じちゃうじゃないですか。ボクも気になります。ただリングの上には神はいないよという話なんですよ。

――というと?

鈴木 大一番では神は存在しないんですよね。勝負の土俵に上がった時点で、もう神は消えている。そうじゃなかったらボクはチャンピオンになってないですよ。だって、去年は厄年でしたもん。

――そうだったんですか!

鈴木 そもそも、自分の命をかけてるところを神に委ねちゃうの?と思うんです。ボクは自分の勝負どころは自分で決めたいので、神に「右に行け」と言われてもボクが左だと思ったら左に行きますよ。何にも左右されたくない。"リング上の神"はボクです(笑)。降りたら違いますけど。

――リングを降りたらどんな感じになるんですか?

鈴木 「神様いつもありがとうございます!」です。だってラッキーカラーとかやっぱり気になりますもん(笑)。

■簡単には格闘家と名乗れなかった過去

――ところで、最近はブレイキングダウンのように格闘技に絡むことで、あっという間に有名になれる仕組みが世の中にできてますよね。その風潮はどう思います?

鈴木 それは美学の問題ですよね。ボクはチヤホヤされるために格闘技をやってないですし、強さを求めることに重きを置いてるんで。でも、知名度欲しさにやっている人たちは違う。そもそも格闘技で食っていこうとは思ってないですよ。

素人の格闘技イベントに出て有名になって、それを使って飲食店やったり起業したり。そういう人たちは格闘技を踏み台にしてやりたいことをやるのがゴール。それはそれでいいと思います。

――格闘技が目的か手段かということですね。

鈴木 そう。ただ、だったらこちら側にケンカ売るなよって話なんです。そこで、たまに勘違いしてラインを踏み越えてくる人がいるんで、そもそもプロの土俵にも上がれないのに何言ってんの?と。ボクはそんなふざけた流れは変えたいなとは思いますね。

試合がない時期でも2部練、3部練が当たり前で、多い日では4部練を行なう日もあるという鈴木。二刀流実現はそれだけの練習量に支えられている 試合がない時期でも2部練、3部練が当たり前で、多い日では4部練を行なう日もあるという鈴木。二刀流実現はそれだけの練習量に支えられている

――さらに最近は、ブレイキングダウンの参戦者で逮捕された人もいるので、ますます格闘技のイメージが損なわれるというか......。

鈴木 格闘技ってやっぱり犯罪者の集まりなんだなとか、そんなレッテルを貼られるのもイヤですよね。というか、彼らは別にプロじゃないんで。「格闘家が捕まりました」と報道されますけど、いやいや、格闘家の枠に入ってないからねと。

――そこも訂正したい。

鈴木 というか、そんなに簡単に格闘家を名乗れて逆にうらやましいですよ。ボク、病院で初診の問診票を書くときにずーっと「フリーター」と書いてましたから。胸を張って格闘家だと言えるようになったのは、チャンピオンになって格闘技で食っていけるようになってからですもん。

■格闘技で答えを出すそれがボクの信念

――そういう意味では、鈴木選手の中で理想の格闘家像みたいなのはありますか?

鈴木 何より子供たちが見たときに「ああいう選手になりたい」と思ってもらえる格闘家になりたいですし、見ている人たちが気づいたら立ち上がって応援していたみたいな、そういう選手でありたいと思ってます。

こう宣言しちゃったら、もう悪いことはできないですからね。例えば運転中の信号無視とか!

――絶対にダメですよ!

鈴木 遅刻しそうなときも「子供の目標になりたいと言ってる人間が信号無視していいのか」「でも時間ねぇし行っちゃおう」「いや、たかが30秒ぐらいだろ?」って。

――踏みとどまるわけですね(笑)。不定期にファイトマネーから子供たちへのお菓子配りイベントや児童養護施設訪問など社会貢献活動もされてますけど、それもその一環ですか。

鈴木 それは、同じジムの渡慶次幸平先輩の影響ですね。先輩が子供食堂のイベントみたいなのをやっていて「よかったらおいでよ」と。その活動を見たときに「格闘家がリング外で強くてカッコよく見える瞬間ってあるんだな」と思って自分でもやるようになりました。

――そこを実行に移せるのがすごいですよね。

鈴木 格闘家って、ボクの子供の頃のイメージですけど"ヒーロー"なんです。強くてたくましい正義のヒーローはフィクションなら悪いシーンは絶対に流さないじゃないですか。格闘家は生身の人間だから、良くないことをするときもきっとあります。SNSも普及したので、処しづらい時代ではあるんですよ。

でも格闘技をやっている間はヒーローだし、格闘技を通じてこういう活動もできるんだというのも伝えたいんですよね。それこそアゼルバイジャンにサッカー場を造るような動きもできますし。

――その話は、鈴木選手が昨年11月のRIZINアゼルバイジャン大会後に現地の子供たちにお菓子配りをした際、子供たちから「サッカー場を造って」と要望されたんですよね。

鈴木 はい。それもけっこう話が進んでいて。だいぶ資金が必要ですけど、やり切りますよ。約束しちゃったんでね。

アゼルバイジャンの子供たちに約束したサッカー場建設も「必ず実現させます!」と気合い十分。「有言実行」が鈴木の決めゼリフだ アゼルバイジャンの子供たちに約束したサッカー場建設も「必ず実現させます!」と気合い十分。「有言実行」が鈴木の決めゼリフだ

――そういうのが鈴木選手のヒーロー像というか。

鈴木 やるって決めたし、ボクもその答えを見てみたいですから。

――ところで、4月22日には初のデジタル写真集も発売されました。タイトルは『HERO』鈴木選手らしいというか(笑)。

鈴木 あははは。面白かったです。これも縁なのでしっかりやり切りました。自分の顔が濃いのは気になりますけど(笑)。どの写真も気に入っていますよ。

――いずれにせよ二刀流もそうですけど、新しい道を切り開くのが好きなんですね。

鈴木 ですね。ボクが今ここから知名度を上げることは簡単なんです。悪いことをすればいいだけなので。正直、自分がやると決めたことを一貫してやり続けても、そこで共感を集めるのはなかなか難しいです。面白みとか話題性がないんで。でも、ボクは格闘技で答えを出すと決めてるんでね。そこは自分でも新しい世界を見てみたいと思ってます。

●鈴木千裕(すずき・ちひろ)
1999年生まれ、東京都出身。173㎝、66㎏。
初代KNOCK OUT-BLACKスーパーライト級王者。
第5代RIZINフェザー級王者。キックボクシングとMMAの両競技で活躍。「稲妻ボーイ」と呼ばれるほど豪快なKO劇が代名詞


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☆鈴木千裕のグラジャパ!プロフィール