待望の『コードギアス』新シリーズについても語ってくれた谷口悟朗さん

2017年に誕生から100周年を迎えた日本のアニメ――。日本が世界に誇る一大コンテンツのメモリアルイヤーを記念して、週プレNEWSでは旬のアニメ業界人たちへのインタビューを通して、その未来を探るシリーズ『101年目への扉』をお届けしてきた。

第9回は、アニメ監督の谷口悟朗さん。5月26日より公開中の映画『コードギアス 反逆のルルーシュⅢ 皇道』について語っていただいた連続インタビュー(第1回第2回)の最後は、今後の制作が決まっている待望の新シリーズの展開について伺った。

■最初のバージョンは5時間くらいあった

―前回は元々、アニメ志望ではなかったのに紆余曲折の末、今の立場に至るきっかけをお話しいただきました。今回は『コードギアス』という作品のこれからについてお聞きできればと。劇場版3部作の最後を飾る『皇道』では、しっかり続編に繋がるであろう伏線がありました。この結末を決めてから、逆算して全体を再構成していくという方法をとられたんですか?

谷口 そこはTVシリーズの時の作り方と変わってないですね。ただ、極めて情報量が多い作品なので、辻褄が合うように並べるだけでも大変で。

―最初に繋いでみたら1本あたり5時間くらいになったとか。

谷口 ええ。ダメだこれ、みたいな(苦笑)。ただ、既存のファンの方々だけでなくTVシリーズを知らない人が「どんな内容だったの?」と思って観た時にもわかりやすくするためにまとめましょうという主旨があったので、なんとかして切らないといけない。そこで決めたのは、もうファンの皆さんが怒るのは仕方ないということです。

あなたの好きなキャラクターの出番が減るかもしれない。でも、それはしょうがないんだという決意で構築し直していきました。メインはあくまでもこの新劇場版から『コードギアス』に入ってくる人たちです。もちろん、TVシリーズのファンを否定するつもりはありません。そこで受けた感動も肯定します。ただ、この3部作はこの3部作で新しいものとして接していただきたいということです。

―TVシリーズのダイジェストではなく、あくまで新しい作品として制作したと。

谷口 だから、各キャラクターの性格や捉え方もちょっとずつ変えて、演じ方も変えてもらったりしています。

―新しい作品として『コードギアス』を再解釈した時に作品のメッセージとして変えたところはありましたか?

谷口 根幹は変えていないです。ルルーシュ・ランペルージという主人公がなんのためにこうした行動に至ったのか。そこを変えてしまったらタイトルを変えないといけなくなりますから、そこに手を付けるつもりはありません。

ただ同時に、今の時代に向けてと考えた時にTVシリーズのままだと情報量が多すぎるだろうから、そこを整理して見やすくしたというのはあります。加えて、「ここは情緒で観てください」という部分を増やしましたね。

クールジャパンがダメだという理由

■歌の流れるシーンが増えた理由

―情緒で観る、というと?

谷口 それはTVシリーズが放映された10年以上前と比べると、今の観客が日常で処理しなければならない情報が増えすぎたんだと思うんですよ。スマホのゲームもやらないといけないし、SNSもやらないといかんし、友達付き合いもしなきゃならん。情報でいっぱいいっぱいになっていると思うんです。だからアニメに関しても連続ドラマというより、「出オチ」みたいな作品がどんどん増えていったわけじゃないですか。お笑いでコントよりも一発ギャグが増えていったのと同じことが起こったわけです。

『ポプテピピック』や『けものフレンズ』とか『おそ松さん』みたいな作品が増えたのは、それがダメというわけでは決してなくて、観客が忙しすぎて情報を咀嚼(そしゃく)することができなくなったから、という側面がある。続き話のものよりも一話完結が主流とかね。

そういう時代に合わせていく時に「情緒で観てもらう」というのは、端的に言えば歌が流れるシーンを増やしたんです。あれはわざと増やしました。「理屈ではなくて情緒で観てもらっていいですよ」というメッセージなんです。従来のファンの方に対しても、ある種のミュージックビデオというか「あなたが知っている歌をたくさん流すので、懐かしさで観てください」ということでもあります。

―それが思い当たるシーンがたくさんありました。

谷口 映画の『レ・ミゼラブル』を観た時に、正直に言えば、「ここまで歌でなんでも説明したらバカでもわかるよな」と思いました。『ラ・ラ・ランド』も『グレイテスト・ショーマン』もそうです。ミュージカルだからそれはそうなんですけど(笑)。ともかくシンプルな手法は強い。

ただ、元々、文化的にミュージカル映画をあんまり受け付けなかった日本という国でも、こういう作品がヒットするということはそれだけみんな忙しいということだなと。映画館という閉鎖された空間の中でさえ、物語を咀嚼するよりもシャワーとして浴びていたいと思うようになった。それは良い悪いではなく、そういうものとして時代に合わせたわけです。

―確かにTVシリーズの時は、ちょっと油断すると人間関係がわからなくなってしまうくらい内容が複雑で展開も早かった記憶があります。

谷口 お客さんを置き去りにするくらいのスピード感で、というのが元々の作り方でしたからね。

■次の『コードギアス』はアニメだけじゃない

―しかし谷口さんの時代の分析はさすがですね。すごく説明に納得感がありました。

谷口 いやいや、こういうことは監督やプロデューサーならみんな考えていると思いますよ。ただ、わかった上でやるのかやらないのかはクリエイターその人だけの判断ということです。

―物語を咀嚼する力がなくなっているというのは、それこそアニメだけではなく、日本ではマーベル映画が世界に比べてヒットしないとか、海外ドラマが日本だけ今いち大きく広がらないとか、世界の映像作品のトレンドが「連続もの」に向かっている中で、いろんな分野で言われているところですよね。

谷口 クールジャパンがダメだという理由のひとつですよね。まぁ、そういう時代にも関わらず、自分がまだアニメ界にいる理由は何かなと考えると、ひとつ大きかった経験があって。『スクライド』という作品の後にアメリカのアニメ・エキスポにゲストとして参加したんですよ。そこでアメリカのアニメファンの生の声や喜び方を見て、明確に私の視野が広がったんです。

それは日本人にだけ向けたエンターテインメントとしてアニメを作るのではないということです。日本ではちょっとだけしか自分の作品を求めている人がいないとしても、世界各国で集めていったら日本だけで勝負するよりも大きくなるんじゃないか。そういう発想ができるようになったことが大きいですね。

だって、向こうのファンは日本のファンよりもずっと喜んでくれますから。「おまえ、あれは面白かったぞ」とちゃんと言ってくれる。日本は第一声が「なんだ、あのクソアニメ」「死ね!」ですから(笑)。そこまで負の感情をぶつけられるとね、さすがに滅入る人が増えるのもわかる(笑)。

単純なルルーシュの復活かどうかは…

―日本にがっかりせずに今後も作り続けてほしいですが、確かにそういう声は大きくなっていますね…。では最後に、お話できる範囲で3部作以降の完全新作について、どのような展開を考えてらっしゃいますか?

谷口 いや、日本で作ってますからそれは無視しません。で、ギアスの次に関してはアプリです。

―アプリですか!?

谷口 嘘です。プロデューサーからはそう言っとけと(笑)。でも完全に嘘でもなくて、要するにアニメ作品単体としてどうというよりも、『コードギアス』という大きなプロジェクトとして進めていくということです。アニメがあればマンガもあるだろうし舞台もあるかもしれない。さらにアプリや遊技機といった展開もあり得るわけです。

そういった形で『コードギアス』の世界をさらに広げていくというのが、まずは今後の大きなポイントになります。その中核のひとつとして、私が掲げたキーワードが「復活」です。

―それはルルーシュの復活ということ?

谷口 3部作の続きであるということは変わりないですが、「復活」というキーワードが単純なルルーシュの復活を指しているのかどうかというのは、まだこれからというところです。というのも、こうした大きなプロジェクトは何が核になるかわからないんですよ。アニメじゃなくてマンガかもしれないし、もしかしたら立体物の展開が核になるのかもしれない。

そういった可能性を全部否定せず、まずはフラットに並べ直していきましょうというのが、今やっている作業ですね。無論、アニメの制作もしつつですが。

―では、谷口監督もアニメだけに関わっているわけではない?

谷口 一時期、距離をおいていましたが、今はプロジェクト全体会議の報告は必ず受けるようにしています。前にAmazonを見ていたら、「あなたにおすすめ」として知らないギアスのコンピレーションアルバムが出てきたことがあって(笑)。そういうことが今後は起きないようにしっかり整理して、ちゃんと私や大河内(一楼・『コードギアス』シリーズの脚本家)が把握できるように体制を整えています。

―かなり大きなプロジェクトになりそうですね。続報をドキドキしながら待っています!

(取材・文/小山田裕哉 撮影/山口康仁)

■谷口悟朗(たにぐち・ごろう)1966年生まれ、愛知県出身。アニメーション監督、演出家。『コードギアス 反逆のルルーシュ』では監督・ストーリー原案・絵コンテを担当。監督としての主な作品に『スクライド』『プラネテス』『アクティヴレイド』『ID-0』などがある

■『コードギアス 反逆のルルーシュⅢ 皇道』は絶賛公開中! 詳細は公式サイトにて