4月5日、ステランティスジャパンは「フィアット500e」の日本導入を発表。そして6月25日の発売に先駆け、神奈川県横浜市で試乗会を開催

伊フィアットが誇る「500」がEVになって登場し、大きな話題を呼んでいる。しかも、このクルマはフィアット初のEVだ。そんな鳴り物入りで日本に登場したフィアット500eをモータージャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)氏が公道試乗! 粘っこくチェックし、こってり解説してくれた。

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■日本の販売はサブスクのみ

フィアット初の電気自動車「フィアット500e」 価格:450万~495万円 発売:6月25日 歴代モデルから継承した親しみやすいデザインに仕上がっている。特に注目のヘッドライトは眠たそうに見えてかわいらしい。ちなみに4人乗りだ

竹花 ついにフィアット500e(チンクエチェント・イー)が日本デビューです!

――フィアット500のEV版ですね。今回、公道試乗した率直な感想は?

竹花 クルマとしてはよくまとまっていると思います。電気モーターのスペックは118PSと220Nmなので、EVとしては特にパワフルではありませんが、車重が1300kg強とEVにしては軽いほうなので、元気のいい走りが楽しめます。

――乗り味は?

竹花 ガソリンエンジンを積んだ従来のフィアット500にとても似ています。そしてデザインもちゃんとフィアット500のイメージをまといつつも、しっかり新しさを感じられます。「フィアットはいい仕事をしているなぁ」という印象です。

500eは普通充電と急速充電に対応する。ちなみにWLTCモードの航続可能距離は335km

――オープンモデルも用意されているんですよね?

竹花 はい、オープンモデルもいい雰囲気ですよ。充電環境に困らないのであれば、フィアット500eはEVの入り口として推せますね。若い人が免許を取り、初めて乗るフィアットのクルマが500eなんてのもアリなのではないかと。

――一方、内装はどうです?

竹花 インテリアもオシャレで、「さすがフィアット!」という仕上がりです。

7インチのフルカラーTFTディスプレイは車速のほかにバッテリー残量、航続可能距離などを表示

ラゲッジスペースはかなり小ぶりだが、後席を倒すことも可能なので、日常使いに不満はない

――地元の欧州での評価はどうなんスか?

竹花 今やフィアット500eは欧州12ヵ国で最も売れているシティEVです。2021年には4万4334台を販売し、同クラスのホンダeの3752台を大きく引き離しています。

――フィアット500eはどうしてそんなに売れてんスか?

竹花 3万ユーロ(約400万円)以下からという安さが最大の理由ですね。例えばドイツでは4万ユーロ以下のEVには9000ユーロの購入補助金が出ます。つまり、実質2万ユーロ程度から購入が可能なんです。

――ふむふむ。

竹花 一方ホンダeは先進装備が充実しているだけに若干割高で、アドバンス仕様は3万8000ユーロと、オプションを追加したらすぐに4万ユーロを突破してしまう。それから航続距離もポイントですね。日本仕様のWLTCモードで比較すると、ホンダeの283kmに対してフィアット500eは335kmと航続距離が若干長い。

ボディサイズは全長3630mm×全幅1685mm×全高1530mm。取り回しはチョー楽チン

――要するにフィアット500eは完璧な出来栄えだと?

竹花 いいえ、個人的にはやや保守的すぎるかなと思っています。せっかく専用プラットフォームを採用したEVなのに、風切り音やロードノイズは決して小さくないですし、乗り心地も従来の500を彷彿(ほうふつ)とさせる、どこか懐かしい感じの仕上がりなんです。

――どういうこと?

竹花 フィアット500のイメージを継承することで、既存の顧客のハートをつかむという商品戦略は理解できますが、個人的には、フィアットだからこそ示すことができる未来への提案が、もう少しあっても良かったのかなと。

ボディは、3ドアハッチバックと電動開閉式ソフトトップを備えたカブリオレの2種類を用意

――竹花さん、ズバリ聞きますが、フィアット500eは日本で売れますかね?

竹花 車両価格は450万円からと決してお安くないのですが、販売方法がサブスクのみで、月々の支払いは5年契約で3万4000円からとお手頃です。年内導入予定の500台は、熱心なファンを中心に問題なく売れると思います。

――なるほど。

竹花 ただ、新車効果が薄れる来年以降は、特別仕様車や限定モデルでどこまで台数を伸ばせるかが課題でしょうね。あと日本はEV普及に向けた環境がまだ全然整っていませんからね。欧州市場のような大ヒットを望むのは難しいと思いますよ。

●竹花寿実(たけはな・としみ) 
モータージャーナリスト。2010年渡独。フランクフルトをベースに在独モータージャーナリストとしての経験を持つ。現在もドイツの自動車メーカーの最新動向に精通。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

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