日産が歩行者の飛び出しなどを瞬時に把握し、自動で危険を回避する運転支援技術「グラウンド・トゥルース・パーセプション」を発表した。取材したカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。

■緊急回避を支える次世代型LiDAR

渡辺 日産は4月25日、300m先の歩行者の飛び出しなどを即座に自動で回避する新たな運転支援技術「グラウンド・トゥルース・パーセプション(地表検知)」を公表しました。今回、私はこの新技術を搭載した実験車両の助手席に乗って体験してきました。ちなみに実験車両のベースは現行のスカイラインでしたね。

――えっと、グラウンド・トゥルース・パーセプションってなんですか?

渡辺 グラウンド・トゥルース・パーセプションは高性能な次世代型LiDAR(ライダー)、レーダー、カメラからの情報をベースに、車両の周囲の状況や物体を把握する技術ですね。この新技術により、複雑な要因が絡む事故のリスクをクルマが予測し、緊急時にはクルマが自動で車線変更をしたり、ブレーキの操作をして危険を回避します。

――具体的にはどういう場面を想定したもの?

渡辺 例えば自車が走行中、前方に路上駐車していたクルマがバックしてきた。そのクルマをよけた直後に今度は歩道から歩行者が飛び出す。このように連続して発生する突発的なケースにも、安全システムがステアリングやブレーキ操作を支援して、自動的に危険回避が行なえます。

平たく言うと、現時点で実用化されている衝突被害軽減ブレーキをさらに高性能にし、危険回避力を向上させた技術です。 

複雑な運転シーンのデモンストレーション。まず道路の左脇の駐車場からいきなりクルマがバックで飛び出してくる。しかし、ステアリング操作のみ自動で回避

バックで飛び出してきたクルマを右に避けて回避するも、今度は道路右脇から歩行者が! これも自動で回避

――このグラウンド・トゥルース・パーセプションのキモはどの部分?

渡辺 周囲の空間、物体の位置、物体の形などを立体的にリアルタイムで計測する機器であるLiDARという機器の認識技術を大幅に向上させ、対象物の位置や形を3Dプリンターのように正確に再現できるようになりました。

日産で先行技術の開発を行なうエンジニアに尋ねたら、「小鳥などは難しいが、それよりも大きな物体であれば正確に見分けられる」とのこと。

――ちなみにLiDARは日産の内製なんスか?

渡辺 いいえ。アメリカのルミナー・テクノロジーズと提携しています。ちなみに自動運転のシミュレーション技術に関しては、アメリカのアプライド・インテュイションとの提携です。

LiDARは瞬時に正確な3D空間を構築できる。この空間認識をベースにクルマが判断、回避行動をとるという

――LiDARはクルマのどこにある?

渡辺 今回の実験車両は、屋根の上に大きなLiDARが設置されていました。高い位置に配置する理由は、LiDARが出すレーザー光線を周囲の車両に遮られないようにする。それと遠方の空間把握のためですね。

――ちなみにレーダーやカメラは何個あるんですか?

渡辺 レーダーは前方1基、両側方4基、後方2基です。サラウンドカメラは9個、フロントカメラは1個あり、車両の360度を把握します。

――それらの情報を融合して、周囲の状況を瞬時に把握しているわけですね。

渡辺 はい。つけ加えるとLiDARなどから集めた情報を車載AIがリアルタイムで分析する。このアルゴリズムは日産の内製です。それらを組み合わせることで、連続して発生する危険を回避しています。

今回のデモンストレーションを行なった日産の実験車両。ベースはスカイライン。屋根にはキモとなるLiDARを搭載

屋根の上にあるのがLiDAR。レーザー光線を使い、物体の形状や距離を高精度で測定できるセンサーである

実験車両にはLiDAR以外にも、7基のミリ波レーダー、10個のカメラを搭載。トランクにも機材が満載

――実際に乗ってみた率直な感想は?

渡辺 実験車両は、約300m先の渋滞や障害物も検知して自動で減速し、車線変更なども行ないました。また、高速道路上はもちろん、地図情報が整備されていない場所でも、映像により道路構造を把握し、アクセル、ブレーキ、ステアリングを自動制御していました。

――SFみたいな世界スね! この技術により自動運転はさらに進むのでは?

渡辺 日産は「現在の運転支援技術がカバーできる事故シーンの割合は約3割にすぎない。しかし今回の技術を使えば9割以上をカバーできる」としています。

一方で、開発者は「この検知距離があれば、海外の高速道路の制限速度に匹敵する時速130キロまでは対応できる」とも語っていました。この技術は海外市場も視野に入っていると私は思いますね。

――グラウンド・トゥルース・パーセプションはいつ頃搭載されそう?

渡辺 開発者は「この技術を2020年代の中盤から市販車に搭載し、2030年代にはすべての日産の車両に普及させたい」と話しています。

――最後に今回の総括を!

渡辺 クルマの最大の問題点は交通事故です。交通事故を回避するための技術進歩が自動運転を進めると私は考えています。

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。著書に『運転事故の定石』(講談社)など。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員