5月20日、軽EVを共同開発した日産の内田誠社長(左)と三菱自動車の加藤隆雄社長(右)が岡山県倉敷市の生産工場でそろい踏み

5月20日、日産と三菱がついに軽EVを発表した。絶賛する声が多いが、軽自動車にはホンダが誇るN-BOXが不動の王者として君臨する。購入を検討する際のキモはどこ? 専門家に聞いた。

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■軽EVは地域によって130万円台で購入可能

渡辺 日産と三菱自動車は、5月20日に岡山県倉敷市の生産工場で式典を開催し、共同で開発したウワサの軽EVを、今年の夏頃に販売すると発表しました。

――どんなクルマ?

渡辺 新しい軽EVは、日産と三菱自動車が共同で開発しました。日産は「サクラ」で、三菱自動車は「eKクロスEV」です。

デザインはかなり異なりますが、モーターやプラットフォームなどは両車ともに共通です。性能にも差はなく、1回の充電で走行できる航続可能距離は、どちらも180kmです。開発は主に日産が担当して、製造は三菱自動車の水島製作所になります。

日産 サクラ 価格:233万3100~294万300円 日産の内田 誠社長はサクラについて、「日本における電気自動車のゲームチェンジャーになると確信している」とキッパリ。市場の反応はいかに

三菱 eKクロスEV 価格:239万8000~293万2600円 三菱自動車の加藤隆雄社長はeKクロスEVについて、「カーボンニュートラル社会の実現の一助となる新世代の軽EVだ」とコメント

――日産はこれまで軽のEVを造っていたんスか?

渡辺 日産は2000年に軽自動車サイズの電気自動車「ハイパーミニ」を製造しています。一方、三菱自動車は2009年に発売した「アイ・ミーブ」以来の挑戦です。

ちなみにアイ・ミーブは発売当初の価格が約460万円と高く、残念ながら販売は大きく伸びず、2021年に生産を終了しました。今回の新型軽EVは三菱自動車からするとリベンジですね。

――気になる「サクラ」と「eKクロスEV」のお値段ですが?

渡辺 日産サクラは、価格の最も安いSが233万3100円です。申請すると経済産業省から55万円の補助金が交付され、これを差し引くと、実質的な負担は178万3100円に下がります。

三菱自動車のeKクロスEVは、ベーシックなGが239万8000円で、同様に補助金を差し引くと184万8000円です。

――なるほど。

渡辺 なお、補助金は経済産業省の55万円に加えて、自治体のEV購入補助金も交付される場合があります。金額はさまざまで、10万円以下の自治体もありますが、東京都は45万円。経済産業省の補助金と合計すれば、100万円が交付されます。

そうなるとサクラSの価格は133万3100円となる。このように補助金を活用すると、ガソリンエンジンの軽自動車に匹敵する価格で買える地域もあります。

――渡辺さんはもうサクラとeKクロスEVは試乗されたんですか?

渡辺 日産のサクラは試乗しました。三菱自動車はまだですね。

――率直な感想は?

渡辺 プラットフォームや室内の広さは基本的にデイズと同じです。ただし、後席の座り心地などは、むしろガソリンエンジン車よりも快適で、しっかり改善されていますね。

――走りは?

渡辺 モーター駆動だから当然ですが、ノイズは小さく、加速も滑らかです。実用回転域の駆動力は、660ccエンジンを搭載する軽自動車のターボよりも力強く、走行安定性と乗り心地もいい。

ホンダ N‐BOX 価格:144万8700~225万2800円 N-BOXは軽自動車の販売ランキングで15年度から7年連続1位を突破する絶対王者。ちなみに累計販売台数は215万台を突破している

――ところで渡辺さん、日本の新車市場の約4割は軽自動車です。そのなかで絶対王者として君臨しているのが、ホンダのN-BOXです。これとサクラやeKクロスEVを比べたら?

渡辺 走行性能や走りの上質感、環境性能はEVのサクラやeKクロスEVが勝っています。しかし車内の広さ、特に後席を格納したときの荷室空間はN-BOXが広いです。

――ズバリ、サクラとeKクロスEVはN-BOXよりお買い得?

渡辺 N-BOXはファーストカーとしても使われています。つまり、長距離移動もこなせます。一方、サクラとeKクロスEVの航続可能距離は180kmで、ファーストカーには適していませんよね。

――セカンドカーなら?

渡辺 長距離の移動にはファーストカーを使うので、セカンドカーなら航続可能距離が短くても問題ありません。しかも、購入時に補助金も出るし、走りに上質感もある。セカンドカーならお得です。

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう) 
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。著書に『運転事故の定石』(講談社)など。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

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