ドイツではウクライナ危機以降、ガソリン価格が急上昇! すでに1L当たり2ユーロ超が当たり前になっている

ロシアによるウクライナ侵攻の長期化により、ドイツのガソリンは1L300円台という鬼価格に! ウクライナ危機以降も渡独を続ける、モータージャーナリストの竹花寿実氏が解説する。

■ガソリン高騰しても、EVは普及しない

竹花 レギュラーガソリンの日本国内平均小売価格が、1L当たり170円台に再び値上がりし、補助金が40円を突破しました。

――庶民からは悲鳴が上がっていますね。

竹花 まぁ、補助金がなければ1L210円超えですからね。補助金サマサマです。ですが、すでに海外ではとんでもない状況になっています。

――例えば自動車大国ドイツの状況は?

竹花 私はウクライナ危機が起きてからヨーロッパに計3回、うちドイツには2回行きましたが、5月末に現地でクルマを借りて移動したときには、そのガソリン価格に目が飛び出ましたよ。

――具体的には?

竹花 ドイツでは一般的な、バイオエタノールを10%混ぜてあるガソリン「スーパーE10(95オクタン)」が、フランクフルト近郊では、1L当たり2ユーロ8セント(約291円。*1ユーロ140円換算)くらいでした。私はなんとか安いガソリンスタンドを探して給油しましたが、それでも2ユーロ5セント(約287円)くらいでしたからね。

――高ッ! マジか!

竹花 5月31日にはドイツの全国平均価格が2ユーロ15セントまで上昇していたので、もう1L300円ですよ。ドイツは日本より平均所得も物価も高いんですが、現地で生活する人にとってもこれは相当痛いようです。

――でしょうね。

竹花 現地在住の知人たちも、現在の燃料価格には相当まいっており、ガソリンの値段を常にチェックしながら必要な量だけ入れるようにしていると。

あと冗談のような話ですが、馬の飼育場のオーナーがガソリン代の高騰に頭を抱え、クルマを諦めて馬車で通勤したなんてニュースも! ただ、馬車を止める場所に困ると思うので、誰にでもオススメできるわけではありませんけどね。

――馬車! えっと、ドイツ政府は手をこまねいている?

竹花 いいえ。対策は打ち出しています。3月24日には被雇用者や自営業者に「エネルギー価格手当」として、ひとり300ユーロ(約4万2000円)を支給したほか、省エネやCO2削減も狙い、6~8月の3ヵ月間、毎月9ユーロ(約1260円)で公共交通機関(高速鉄道を除く鉄道、バス、トラム)が乗り放題になる「9ユーロチケット」を実験的に導入しました。

――1ヵ月9ユーロで乗り放題は安いんですよね?

竹花 はい。ですから、このチケットは飛ぶように売れていますが、駅は大混雑し、特に週末はパニック状態です。

――ガソリン高騰の背景は、やっぱりウクライナ危機の長期化ですか?

竹花 実は新型コロナの影響で約2年前から原油価格の上昇が続いています。それに加え、2月24日からウクライナへ侵攻し続けているロシアへの経済制裁の影響で、ロシアからEU各国へ船で運ばれる石油の輸入が禁止された。これが大きいですね。

ドイツは輸入する石油の4分の1以上をロシア産に頼っていたので、当初は経済への影響を考えて禁輸に難色を示していたのですが、5月には2022年内に輸入停止する方向に方針転換。すでにパイプライン経由を除く大半はストップしているようです。

――ということは、燃料価格上昇により物流や日常生活にも影響が出ているのでは?

竹花 かなり出ていますね。輸送コストの上昇はもちろんですが、ウクライナ産(輸出量世界5位)とロシア産(1位)の小麦が流通しなくなったことで、パンやパスタなど小麦製品が以前の1.5~2倍に。小麦粉も2~3倍に値上がりしています。

最近では食用オイルも2~4倍になったそうです。乳製品も値上がりしていて、ドイツの朝食時に人気の「クヴァルク」というフレッシュチーズの一種も、ここ数ヵ月で価格が2倍に!

――庶民にとって食料品の値上げはキツいですね。

竹花 現地の日系スーパーでは日本産の米の値上がりが激しくて、1㎏当たり10ユーロ(約1400円)前後もします。もはや超高級米ですね。

――しかし、それだけ燃料価格が上がると、EV(電気自動車)の普及がさらに進むのでは?

竹花 それはないかと。

――どうして?

竹花 ドイツは再生可能エネルギー由来の電気が50%近くを占めているのですが、そのベースとなっているのは天然ガスによる火力発電なんです。その火力発電の運用コストが年々上昇している。

それに加え、輸入量の約55%をロシアに頼っていた天然ガスの供給も、先日ロシア側が6割削減したと発表しました。つまり、電気の価格も今後大幅な値上がりが予想されます。

ドイツ・アウトバーンのパーキングエリアに設置された最大出力300kWの充電スタンド。今後は電気料金の急騰も

――どれくらい上がりそう?

竹花 昨年の一般的なドイツ家庭の電気代は、毎月80ユーロ(約1万1200円)くらいでしたが、今年は2倍くらいになると予想されています。そこで少しでも電気料金を安くするため、「再生可能エネルギー賦課金」を7月1日に廃止することが決定しました。

この再生可能エネルギー賦課金は、再生可能エネルギーの普及を目的とし、電気を利用する消費者すべてから利用量に応じて徴収する料金です。ちなみに電気料金の約20%を占めていますね。

――電気代の値上がりは、EV普及に影響が出ますね。

竹花 はい。このままだと大量に電力を消費するEVの電気代は、とんでもないことになります。先日、メルセデスEQの重役にも聞いたのですが、やはり「燃料価格の高騰は、EVの普及拡大には寄与しない」と言っていました。要はガソリンが高騰しても、電気代も値上がっているから売れ行きは変わらんと。

――ふむふむ。ただ、エネルギーコストが上昇すると、車両価格に影響もあるのでは?

竹花 ありますね。部品価格や製造コスト、輸送費と、あらゆる部分でコストが上昇するので、値上げは避けられません。特に輸入車は日本への輸送コストも上乗せされます。円安も進んでいるので、輸入車の価格は今後も上がるはず。

――ほかの国の状況は?

竹花 アメリカはガソリン価格が1年前と比較して62%も上がり、ガス欠で立ち往生するクルマが続出しているようです。イギリスにしても1L300円台で、イタリアに至ってはドイツよりも高騰!

4月下旬にイタリア・コモ湖畔で撮影したガソリン価格。ちなみに現在のイタリアは、ドイツより燃料価格が高くなっている

――近い将来、日本のガソリン価格もドイツのように?

竹花 現時点で日本はまだマシな状況ですが、もし1L300円に突入したら経済は相当な打撃を受けるでしょうね。そうならないよう、岸田文雄総理にはうまく舵(かじ)取りをしてもらいたいですね。

●竹花寿実(たけはな・としみ)
モータージャーナリスト。自動車雑誌の編集者などを経て2010年に渡独。ドイツ語を駆使し、現地でモータージャーナリストとして活躍。活動拠点を日本に移してドイツの自動車メーカーの最新動向などを発信中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員