ファン待望の4WDモデルが登場した日産のコンパクトSUV「キックス」。価格は279万8400~328万1300円
日産は今年7月19日、コンパクトSUV「キックス」をマイナーチェンジして販売を開始した。今回の改良で第2世代e‐POWERを搭載し、待望の4WDも追加。気になるその実力とは? モータージャーナリストの竹花寿実氏が日産テストコースで徹底試乗した。

竹花 7月19日に日産のコンパクトSUV「キックス」が一部改良を受けました。

――キックスはいつデビューのクルマでしたっけ?

竹花 2020年6月に日本デビューしました。キックスが登場する前の日産のコンパクトSUVは「ジューク」でしたが、残念ながら2019年に販売が終了しました。そんなジュークの実質的な後継モデルであり、日産得意の電動パワートレイ「e‐POWER」を搭載した人気モデルがキックスです。

――ジュークは絶版?

竹花 いや、欧州ではフツーに2代目ジュークが販売されていますよ。

――あ、そうなんですね。

竹花 話を戻すと、要するにジュークの役割をキックスが国内で引き継ぐことになったわけです。ちなみにキックスは2016年にブラジルでデビュー。それを皮切りにアメリカや中国、インドなどで販売していたグローバルカーなんですよね。

――売れ行きは?

竹花 デビューから翌年3月までは月販が5000台を突破していましたが、台数は徐々に減っています。マイチェン前なのでアレですが、今年6月の販売台数は814台です。

――ライバルの販売台数は?

竹花 6月の新車販売でトヨタのライズは5376台、ヤリスクロスは5164台、同じくトヨタのカローラクロスは3714台、ホンダのヴェゼルは4948台を売っています。要するに日本のコンパクトSUV市場は超激戦区なんですね。

――キックスはそんなコンパクトSUV市場で反転攻勢に打って出るため、今回の改良で磨き抜かれたと。

竹花 そのとおりです。

――竹花さん、試乗されたんですよね?

竹花 はい、神奈川県横須賀市にある日産のテストコース「グランドライブ」で、その走りを体験しました。

今回の改良で日産自慢のシリーズハイブリッド「e‐POWER」は第2世代へと進化。FFモデルの燃費はWLTCモードで23.0km、4WDモデルが19.2㎞を誇る

――マイチェンの目玉は?

竹花 今回の改良でキックスは、オーラにも採用されている第2世代e‐POWERを採用しました。また、これまでは前輪駆動モデルのみの設定でしたが、4WDモデル「X‐FOUR」も用意されましたね。

――試乗した率直な感想は?

竹花 走り出してまず感じたのは、滑るように転がりだす動きのスムーズさです。これだけでもe‐POWERの進化が実感できます。

――加速は?

竹花 コンパクトクラスのクロスオーバーSUVとしては抜群にパワフルです。フロントに136㎰と280Nm、リアに68㎰と100Nmを発揮する電気モーターを備えた新型キックスの4WDは、ノーマルモードでも十二分に速く、スポーツモードではさらに力強い。高速域まで切れ目なく車速が伸びていき、とても気持ちが良いですね。

――コーナリングは?

竹花 コーナリング時の安定感の高さも素晴らしいです。コーナー進入時には、前輪だけでなく後輪でも回生ブレーキが働くため、フロントがつんのめるようなノーズダイブが抑えられているので、高い安心感とともにステアリングを切り込んでいけます。そして旋回中は4WDらしく、加減速をしても弱アンダーステアをキープ。コーナー脱出時には後輪がクルマを押す感覚が感じられ、スムーズに加速状態に移行できます。とにかくクルマの姿勢が安定しているので、とても運転しやすいのが特徴です。

――コーナーでの姿勢は?

竹花 キックスは車高が高いクロスオーバーSUVスタイルなので、「重心が高くてフラつくのでは?」と思う人もいるかも知れませんが、実際には思いのほか低重心感があり、S字コーナーでもクルマの姿勢は乱れません。とても軽快でキビキビとした走りを楽しめるモデルに仕上がっていますね。

――燃費などは?

竹花 第2世代のe‐POWERの採用により、従来モデルからパワーや燃費性能の向上に加えて、快適性アップにも貢献しています。新型キックスは、発電用に1.2リッター直3ガソリンエンジンを搭載しており、停止中や低速走行時には極力回さず、ある程度車速が上がったときに始動させることで、エンジンのノイズや振動をロードノイズや車体の振動でかき消すように制御されています。

インテリアには新たに設定されたベージュ/ブラックのレザー(合皮)。走りと室内空間の質感がとても良いバランスでレベルアップ

――インテリアは?

竹花 インテリアは、センターコンソールのデザインを刷新しました。シフトセレクターも従来のレバータイプから、ノートなどにも採用されているマウス状のスイッチに変更されていますね。

――ズバリ、新型キックスは誰に推せる? 

竹花 これまで2WDしかなかったため、購入時の選択肢に入れることができなかった降雪地域のユーザーや、普段使いからアウトドアレジャーまで使える、手頃なサイズで運転しやすいモデルを探している人などには、新型キックスの4WDモデルはかなり魅力的です。超激戦区のコンパクトSUV市場ですが、そのなかでも存在感を発揮できる1台だと思いますよ。

新型の4WDはリアに電気モーターやその補機類が搭載されるため、ラゲッジフロアがマイチェン前より若干持ち上がっているが、影響は最小限。60:40分割可倒式のリアシートを倒せば、キャンプやスノボにも問題なく使える

●竹花寿実(たけはな・としみ) 
モータージャーナリスト。2010年渡独。フランクフルトをベースに在独モータージャーナリストとしての経験を持つ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員