ホンダはレッドブルとアルファタウリ(写真)への2025年までのPU供給延長を発表した(撮影/桜井淳雄)

■PU主力部隊はすでに解散状態

後半戦のスタートとなった第14戦ベルギーGPでM・フェルスタッペンが圧勝。開幕からの14戦で10勝を挙げ、ぶっちぎりの強さを見せているレッドブル。その躍進を支えているのが、ホンダのパワーユニット(PU)だ。

ライバルのフェラーリはPUの信頼性不足に悩まされ、メルセデスもバイオエタノールを混合した新たな燃料への対応に苦慮し、昨年に比べてパフォーマンスを落としている。その一方で、ホンダが開発したPUは昨年と遜色ないレベルの性能と信頼性を発揮している。

ただし、レッドブル(とアルファタウリ)に搭載されたPUは、表向きには「レッドブル・パワートレインズ(RBPT)」製であり、ホンダは2021年限りでF1を撤退し、現在は「レッドブル・レーシングからの要請に基づいて、子会社のホンダ・レーシング(HRC)を通してRBPTに対して技術支援をしている」にすぎない。

F1のパワーユニットのメンテナンス作業

ホンダはレッドブルとアルファタウリに対する支援を25年まで延長することを発表したが、レッドブルは新しいPUのレギュレーションが導入される26年以降はポルシェと提携して参戦するという。まだ正式発表はないが、レッドブルの首脳陣はポルシェと交渉していることを公にしている。

「んー、おいしいところは全部ポルシェに持っていかれてしまうのか。ホンダはもっとうまくできなかったのかな......」

そう感じたファンは少なからずいるはず。だが海外では「ホンダがアルファタウリを買収してワークス参戦する?」というニュースが報じられた。

F1復帰はあるのか? HRCの渡辺康治(こうじ)社長は「F1の動向は常に注目していますが、社内では何も議論はされていません」とコメント。PUの開発現場を取りまとめる四輪レース開発部長の浅木泰昭(あさき・やすあき)氏も「3月までいたメンバーの多くは22年仕様のPU開発を終えると、各部署に散らばっていきました」と語っている。

PUの組み立てなどに関わるスタッフは残っているものの、主力部隊はすでに解散状態にあると明らかにした。

ホンダとしては先日、国際自動車連盟(FIA)が承認した26年以降の新たなPUに関するレギュレーションと、ライバルメーカーの動向を注視しつつ、しばらくは様子見ということなのだろう。

F1復帰について、「社内では何も議論はされていない」と語るHRCの渡辺康治社長

■F1推進派には追い風が吹いている

「アルファタウリ買収」のニュースはホンダ社内のF1推進派が打ち上げた観測気球かもしれない。だが、そのメッセージは明確だ。ホンダがF1に復帰するなら、PUサプライヤーではなく既存のチームを買収し、コンストラクターとして参戦するということである。

ただし、前面に立つのはあくまでHRCになるだろう。親会社(ホンダ)は毎年一定の予算を投入し、あとは子会社が賞金やスポンサーマネーでチーム運営すれば、資金的な負担も減るし、株主からの「お金の無駄遣い」という批判もかわせる。

もちろんHRCが既存のチームを買収することになれば、本社からの巨額の資金投入が必要になるが、F1推進派には今、追い風が吹いている。ホンダのメインマーケットはアメリカだ。ホンダは全営業利益の半分以上を北米事業で稼いでいる(22年3月期)。実は、F1推進派の一番の敵は株主ではなく、アメリカ・ホンダともいわれている。

「なぜアメリカで稼いだお金をヨーロッパのF1に使うのか」

ホンダの関係者によると、歴代のF1推進派の社長ですら、その声にあらがえなかったという。しかし今、アメリカではF1人気が爆発しているのだ。

23年にはオースティン(テキサス州)、マイアミGP(フロリダ州)に加え、ラスベガス(ネバタ州)でもレースが行なわれる。アメリカでは1年間に3つのGPが開催されることになり、F1復帰に向けて社内を説得しやすい状況になっているのは間違いない。

果たして、第5期のホンダF1参戦はあるのか。すでにアウディはF1参戦を正式に表明し、ポルシェとレッドブルの提携発表も秒読み段階と言われている。ホンダが万全な準備を整えて26年からの参戦を目指すのであれば、その決断を下すために残された時間はそれほど長くない。