ソニー・ホンダモビリティの水野泰秀代表取締役会長兼CEO(右)と川西泉代表取締役社長兼COO(左)ソニー・ホンダモビリティの水野泰秀代表取締役会長兼CEO(右)と川西泉代表取締役社長兼COO(左)
10月13日、ホンダはソニーとEVの開発と販売を手がける新会社を設立し、2025年に最初のモデルの販売を始めると発表した。その狙いはどこにあるのか? 記者会見を取材した山本シンヤ氏に聞いた。

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山本 ホンダとソニーグループは、EVの開発と販売を行なう新会社「ソニー・ホンダモビリティ」を設立し、2025年から注文を受け付けることを発表しました。

――山本さんは記者会見に行かれましたか?

山本 行きました。注目のニュースなので報道陣がワンサカ詰めかけていると思い、現地には早めに乗り込みましたが、想像していたよりは席に余裕がありました。もしかすると、コロナの関係で人数を制限していたのかもしれないので何とも言えませんが......。

――会見ではどんな話が?

山本 ホンダ出身の水野泰秀会長、ソニーグループ出身の川西泉社長が出席し、最初に販売するEVの計画を明らかにしました。〝高付加価値EV〟を出すと言う発表はありましたが、価格を含めた具体的な話はナシ。来年1月にアメリカ・ラスベガスで開催されるCES(家電見本市)でプロトタイプが披露されるそうです。

――すみません、‟高付加価値EV"って具体的には?

山本 コンセプトは3A......進化する自律性(Autonomy)、身体・時空間の拡張(Augmentation)、人との協調/社会との共生(Affinity)を掲げました。おそらく、「クルマは移動手段」という従来の概念を変えたいと。

その趣旨は理解できましたが、では今回の会見から「一体どんなクルマをつくりたいのか?」、「ホンダはソニーと組んで何がしたいのか?」という部分については、正直よくわからなかったのが私の本音ですね。

――単純に考えて、ソニーはクルマ産業に参入するメリットがありますよね?

山本 そのとおりです。しかし、ホンダのメリットが明確に見えません。ただ、ひとつ言えることはホンダという会社は、この高付加価値の提供が苦手な自動車メーカーです。今回の件で、そのあたりを打破できるといいなと思っています。

――ホンダは高付加価値の提供が苦手なんですか?

山本 トヨタの高級ブランドであるレクサスは北米で抜群の知名度を誇り、2005年より日本でもブランド展開を開始しました。ご存じのように現在は、日本で独自の地位を築いています。一方、同じ北米で展開を行なったホンダの高級ブランドであるアキュラは、直近は苦戦しています。実は過去に日本進出のウワサもありましたが、いろいろな課題や壁があり断念しています。

――ほお。

山本 日本でのホンダのイメージは「スポーツ」です。確かにその象徴であるタイプRは高付加価値商品ですが、残念ながら一般的には浸透しておらず絶対的なイメージではありません。

もちろん、F1を含めたモータースポーツのイメージもありますが、一般的に浸透している圧倒的なイメージは、おそらく軽自動車の「Nシリーズ」でしょう。発売から11年で累計300万台を軽く突破する大ヒット商品であることが、その証拠です。

水野CEOは高付加価値型の商品やサービスの提供などに挑戦すると語っていた水野CEOは高付加価値型の商品やサービスの提供などに挑戦すると語っていた
――では、ソニーはホンダにどんな高付加価値を与えられますか?

山本 これはあくまで素人考えですが、プレステ5の搭載や、ウォークマンを凌ぐ家電が搭載するくらいしか思い浮かばないんですよねぇ......。

――ちなみにEV、自動運転、コネクテッドの技術をホンダはソニーと開発するんですか?

山本 そのためのジョイントベンチャーだと思いますが、一方で、ホンダは独自にEVを発売していますし、EVの要となるバッテリーやアーキテクチャに関してはゼネラルモーターズと協業しています。自動運転は単独でレベル4の実証実験を行なうと発表済みですし、コネクテッドサービスに関してはグーグルと協力関係にあります。

――ふうむ......。

山本 ホンダとソニーは個性の強い企業同士ですから、折り合いがつくのか心配でもあります。ちなみに、トヨタが静岡県裾野市で建設を進めている実証都市「ウーブン・シティ」がありますよね?

――はいはい。

山本 この開発や自動運転ソフトウエアの開発を担うのが、トヨタの子会社である「ウーブン・プラネット・ホールディングス」です。ウーブン・プラネット・ホールディングスにはグーグルを筆頭に、気鋭のIT出身者が多いようですが、同じトヨタグループながらも当のトヨタとあらゆる面で衝突が起きていると耳にしています。

――なぜ衝突が起きるんです?

山本 トヨタは現在モビリティカンパニーを名乗りますが、あくまでも基本は自動車メーカーです。自動車メーカーは人間の命を預かる商品を売る会社なので、物事は常に慎重に進めます。なぜなら綻びがあってはいけないからです。しかし、ウーブン・プラネット・ホールディングスは、自動運転の技術などを自動車だけに留めることなく、「あらゆる分野に素早く水平展開したい」という思いが強いそうです。

――同じグループ内ですら考えに大きな壁があると?

山本 なので、私はホンダとソニーが「この壁をどう壊すのか?」に強い興味を持っています。逆に言えば、個性の強い企業同士が上手く融合できれば、初代シビックやウォークマンのような"驚き"のある高付加価値EVを生み出せるはず。

まぁ、これは笑い話ですが、今回の記者会見の会場で、ジャーナリストや媒体関係者と話をしていたのですが、AIの技術を使って、ホンダ創業者の本田宗一郎氏、ソニーグループ創業者の井深大氏を甦らせ、お知恵を拝借したら、ものすごいアイデアが生まれるのではないか、と。逆に「何で自分たちだけでできないんだ?」とカミナリを落とされそうですが(笑)。

――まとめると、来年1月のCESで発表されるソニー・ホンダモビリティが放つ、"高付加価値EV"に注目であると?

山本 2023年のCESには「アップルカー」が登場するなんてウワサもありますからね。ソニー・ホンダモビリティが世界に衝撃を与えるEVを出せるのかどうか、見ものでしょうね。そのクルマを見て、「私の心配は杞憂でした」、「このタッグでなければこんなクルマはできない!」と言いたいですね。

山本シンヤ
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営