アメリカ自慢の「ハマーEV」。最高出力は1000馬力(!)、時速100キロ到達は3秒。その速さを支えるのは1.3tもの巨大にも程があるバッテリー。ちなみに車重は4t以上アメリカ自慢の「ハマーEV」。最高出力は1000馬力(!)、時速100キロ到達は3秒。その速さを支えるのは1.3tもの巨大にも程があるバッテリー。ちなみに車重は4t以上
4月17日、アメリカはEV(電気自動車)の補助金法案を発表した。しかし、約100万円のこの補助金の対象になるのはキャデラック、フォード、シボレー、テスラなどのアメリカの企業が造るEVのみ。日本、ドイツ、韓国企業は対象から外されてしまった。政治色を強く感じる今回のアメリカの発表に、「EVって本当に脱炭素の最適解なの?」という声も。実際のところは? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。

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ガソリンや軽油を燃焼させるエンジンは、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を含んだ排出ガスを発生させる。その一方でエンジンを搭載せず、充電された電気だけで走るEV(電気自動車)は、走行段階では排出ガスを一切発生させない。そして電気は、太陽光や風力による発電によっても作ることが可能だ。

そうなるとEVは、発電の方法次第で、化石燃料を消費したり、二酸化炭素を含んだ排出ガスを発生させずに走行できる。そこでEVは、いわゆる脱炭素の〝最適解〟という見方が成り立つ。

EU(欧州連合)は2035年に、欧州域内で二酸化炭素を排出する乗用車と小型商用車の販売を停止することで合意した。水素燃料などを除くと、ガソリンやディーゼルによる内燃機関は二酸化炭素を排出するから、HEV(ハイブリッド)も販売停止の対象になる。

この流れを受けて、ホンダは2040年までに、すべての新車販売をEVやFCEV(燃料電池車)にすると発表した。GMも2035年までに、すべての新車を二酸化炭素を排出しない車両にするとしている。

ところが今年3月に、欧州連合とドイツは、2035年以降も条件付きでエンジン搭載車の販売を認める方向で合意した。その条件とは、二酸化炭素の排出を実質的に皆無にできるeフューエルの利用だ。

過去を振り返ると、以前から「2035年までにエンジン搭載車の販売を禁止するなど、本当にできるのか?」という懐疑的な見方が存在した。それがいよいよ濃厚になり、販売禁止が崩れ始めた。

この背景には「EVの普及が100%になっても、二酸化炭素の排出量を皆無にできるとは限らない」ことも挙げられる。石炭、液化天然ガス、石油などを燃焼させる火力発電を行なってEVに充電したら、走行段階では二酸化炭素の排出量が皆無でも、発電する際に二酸化炭素が発生するからだ。原子力発電は、基本的に二酸化炭素を発生させないが、さまざまな危険が伴う。

しかも今の日本の発電状況は、70%以上を火力発電に頼り、その内の約半数は二酸化炭素の排出量が最も多いとされる石炭の燃焼によるものだ。そのために「実用燃費がガソリン1リッター当たり25㎞を超えるHEVになると、同サイズのEVよりも、二酸化炭素のトータルでの排出量を少なく抑えられる」という試算もあるほどだ。発電する際に二酸化炭素を多く排出したら、EVを使っても、環境負荷の低減にはならない。むしろ直接燃焼させる高効率なHEVが優秀だ。

またEVの急速充電では、短時間に大量の電気を使うから、地域の電力インフラも見直す必要がある。要するに短期間ですべてのクルマをEVに切り替えるのは難しい。

しかしそれでも二酸化炭素の排出量を皆無にするには、再生可能エネルギーを大幅に増やし、すべての車両をEVやFCEVに変更する必要がある。従ってEVは脱炭素の最適解とも言えるが、その実現には長い時間を要する。

そうなると当分の間、EVは、エンジンを搭載するHEV、あるいは軽量化によって燃料消費量と二酸化炭素排出量を減らせる軽自動車などと共存せねばならない。そしてHEVにも、駆動用電池やモーターが使われるため、その進歩はEVの機能や性能も向上させる。逆にいえば、特定のEVの技術だけでは、脱炭素の世界まで到達できない。

そしてこのような技術革新は、限られた国やメーカーだけでは完遂できないから、将来を予想するのも難しい。そのためにエンジン搭載車の販売を禁止する合意をしながら、その直後に条件付きで認めたりするのだ。

EVのように、国から企業まで多くの人たちが協力しながら進めるプロジェクトの計画は、あくまでも、その時点の目標と捉えた方が良い。朝令暮改は今後も起こり得る。

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう) 
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。〝新車購入の神さま〟。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員