BMWに続いて、VW(フォルクスワーゲン)やメルセデス・ベンツも日本市場にEVを投入予定。そんななか報じられる急速充電方式のバラバラ問題。それが本当にEVの普及を妨げるのか?

国内外の自動車メーカーによる、電気自動車(EV)への本格参入が活発化している。

これまでEV市場は、日産が「リーフ」、三菱が「i-MiEV(アイミーブ)」で先行。その後、アメリカのEVベンチャー、テスラモーターズが「ロードスター」「モデルS」などを販売するという構図がしばらく続いていた。

そこに昨秋、BMWが「i3」を発売(日本導入は今年春)。今後もVWの「eゴルフ/e-up!」、メルセデス・ベンツの「BクラスEV」などのリリースが予定されるなど、欧州の大手自動車メーカーが相次いでEV市場に乗り込んできた。

しかし、ここで気になるのがEVを充電するための急速充電器の規格がバラバラなことだ。現在の規格は、日本の「CHAdeMO(チャデモ)」、欧州勢の「Combo(コンボ)」、テスラが推す「スーパーチャージャー」の3つに分かれている。この分立が急速充電器設置の足を引っ張り、EV普及の大きな障害になると、盛んに報道されているのだ。

では、この3つの規格をめぐって今、どんな主導権争いが繰り広げられているのか? 日本EVクラブ代表で、自動車評論家の舘内端(たてうちただし)氏に聞いてみた。すると、意外な答えが返ってきた。

「話をひっくり返すようですが、そうした報道には大きな間違いがあります」

それはどうして?

EV普及を苦々しく思うメーカーの意向?

「なぜなら、テスラ『モデルS』もBMW『i3』も、チャデモに対応したモデルが日本に導入されているからです。日米欧で充電方式は違いますが、各国に対応したモデルを導入すればいい話。規格の分立自体は問題にはなりません。統一しなくても対応は可能なのです」

つまり、家電でたとえるなら各国の電圧に対応したプラグにつけ替える程度のこと。規格の分立が、EV普及を妨げるわけではないというのだ。

もうひとつ、急速充電器の設置台数でEVの普及を語ることも大きな間違いだと舘内氏は指摘する。

「EVは基本的に自宅の200V電源で夜間に普通充電をして使うもの。急速充電器はあくまで遠くまでドライブするときや、一日の走行距離が長いユーザーの利便を図るためのものです。

国内の急速充電器の設置箇所は、この2年ほどで約1300ヵ所から約2100ヵ所になり、複数の充電器を設置している所も増えてます。EVをめぐる環境はどんどん便利になっているわけで、急速充電器が不足しているから普及しないという報道も的外れなものなのです。こうした報道の背景には“EV普及を苦々しく思うメーカー”の意向があるのだと思っています」

しかし、テスラは今年6月、自社の持つEV関連の特許をすべて開放すると発表。同時に他陣営に充電方式の統一を呼びかけたという。これは、自分の規格での世界統一を狙っているということでは?

「もちろん統一するに越したことはありませんから、そうした思惑がまったくないとは言えません。ですが、テスラのCEO、イーロン・マスク氏は、世界規模のCO2排出削減のためにはEV陣営が一丸となってガソリン車やハイブリッド車に対抗すべきだと考えています。今回の呼びかけは『EV普及を目指す勢力がひとつになろう』というメッセージとしての意味合いが強いと思います」

実は、「充電規格バトル報道」は本質的な問題ではなさそう。対立を不安視する声をよそに、EVの普及は進む流れだ。

(取材・文/植村祐介)