週刊プレイボーイで『経済ニュースのバックヤード』を連載中の坂口孝則氏

あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか?

調達・購買というビジネスの舞台裏を専門とし、データ収集・分析を得意とする調達・購買コンサルタントの坂口孝則(さかぐち・たかのり)氏が解説する、『週刊プレイボーイ』の連載コラム「経済ニュースのバックヤード」。今回は、スマホの影響がもたらすお菓子市場を解説する。

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森永チョコフレークが生産を終了する。その際に、スマホが生産終了の原因として挙げられていたのは、ちょっとした衝撃だった。なぜならば手が汚れて、スマホ操作が難しくなるから。風が吹けば桶屋(おけや)が儲かる、のごとく、スマホがかつての流行商品を終わらせたわけだ。

たしかに現在、お菓子を手にせずに、袋からそのまま口に入れられる「スマホ汚し防止」のお菓子が売れている。

スマホの影響は凄まじく、ガムも売れなくなった。というのも、レジ待ちの際にスマホを見ているので、レジ横にガムが置かれていることに気づかない。あるいはスキマ時間にガムをかむよりも、スマホを眺めていたほうがいい。

話を変えるようだが、日本では自動販売機が普及している。理由として、治安のよさを挙げるひとが多いものの、実際にはJR(旧国鉄)が自動切符販売機を導入し国民に教育機会を与えたことと、子どもが小遣いを持っていて自由に消費の意思決定ができる点が大きかった。

とすれば、現在では、少子化が進んでいる。子どもが買っても、絶対数が減っている以上、お菓子市場は厳しいのではないかと普通は思う。しかし、お菓子市場が下落傾向にあるかというと、そうでもない。むしろ上昇基調にある。誰が引き上げているかというと、大人たちだ。家計調査を見ても、お菓子の支出金額の比率は上がってきている。

とはいえ、生産終了のものや斜陽のガムもある。では、これから求められるお菓子とはなんだろうか。

「お菓子1.0」はボリュームの時代だった。人口上昇時代は量の多さが求められた。「お菓子2.0」は、カップ型のお菓子が求められた。これは、いつでもどこでも、お菓子を持ち運べるようにするためだ。

そして、「お菓子3.0」は、量が少なく、カロリーもそこそこで、かつ、手も汚れず携帯しやすいものが求められる。それを単身者が享受しているという動きは、人口減少の日本において、単身世帯のみが数を伸ばしていることと同期している。

そのなかでも伸びが著しいのはチョコレートだ。コンビニではカカオポリフェノールを前面に出し、血流促進効果や、癒やし、リラックス効果を喧伝(けんでん)する商品が少なくない。

かつての消費思想は、できるだけ少ない消費がエコロジーと叫んだが、ロハスや健康志向など、いまの消費思想は、良い未来のためにむしろ商品を多く消費せよと叫ぶ。「健康のために消費するな」から「健康のために消費せよ」へ移行した見事な逆転。資本主義は反消費主義をも巻き込んで肥大するわけだ。

それがお菓子、とくにチョコレートがもつ象徴的な意味だ。背徳のお菓子ではなく、逆に消費すべき商品へと意味を変えた。いまでは減糖と減塩を打ち出している。ヘルシースイーツなる栄養補助食品も定着してきた。スーパーフードなど特定の栄養分摂取を目的としたスナック菓子も登場している。お菓子メーカー各社の出す朝食シリアルも、減塩を打ち出している。

しかし、「スイーツ」が「減糖」とは自己矛盾にならないか。しかもほんとうに健康に効くのか、わからないまま浸透する。「菓子」は味ではなく「歌詞」のようなメッセージこそが重要だ。皮肉じゃなく。

●坂口孝則(さかぐち・たかのり) 
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』など著書多数。最新刊は『未来の稼ぎ方 ビジネス年表2019-2038』