KINTO代表取締役社長・小寺信也氏(左)と自動車ジャーナリスト・小沢コージ

昨年11月に発表され、2月から始まったトヨタの愛車サブスクリプションサービス「KINTO」

音楽や動画のように、月々定額でトヨタ車やレクサス車の新車に乗れるというが、果たしてどこまでお得なのか? 自動車ジャーナリストの小沢コージが、社長にたっぷり聞いてきたぞ!

■選べるふたつのプラン。レクサスは月々18万!

おいおい、ホントにそんなオイシイ話があるんか~い! 昨年11月、トヨタの愛車サブスクリプションサービス(以下、サブスク)運営会社「KINTO(キント)」の設立を聞いた小沢は、思わずそう叫んでしまった。

サブスクとは、動画・音楽配信サービスなどで導入されつつある月額定額制サービスのこと。トヨタの豊田章男社長は「必要なときにすぐに現れ、思いのままに移動できる、まさに『筋斗雲』のように使っていただきたい」と命名の理由を語っている。今まではディーラーで買って所有するものだったクルマを、そんな自由に利用できるなんてマジで衝撃!

そして2月6日、いよいよサービスが始動。用意されているプランはふたつ。ひとつ目は、3年間で1台のトヨタブランド車に乗ることができる「KINTO ONE」。例えばプリウスは月々約5万円から利用可能だ。

そしてもうひとつが、3年間で6車種のレクサスを乗り継ぐことができる(ただし最低半年は1台を乗り続けなくてはいけない)「KINTO SELECT」。だが、料金は月々18万円と高く、正直一部のリッチマン向けだ。

ただ、こうやって車種と料金を見るだけでは、KINTOの何が新しくてスゴいのかはイマイチピンとこないハズだ。そこで、KINTOの小寺信也社長を直撃! 根掘り葉掘り聞いてみたぞ!

■購入やリースの手間をほぼ排除!

──今回のKINTO ONEでは、プリウスが3年間契約で月々約5万円とのことですが、正直今までのオートリースとは何が違うんですか?

小寺 3つありまして、フルサービスのパッケージであるということ、インターネット経由であるということ、そしてワンプライスであるということです。

──フルサービスのパッケージとは?

小寺 リースの場合、通常はパッケージに任意保険を含まないのですが、KINTOの場合は、任意保険はもちろん、6ヵ月ごとの点検整備費用や各種税金まで、すべて利用料金に含まれます。ネットで「プリウス4万6100円」をクリックするだけでクルマが届くんです。3年契約なので車検もありません。

「KINTO ONE」で利用できる「プリウス」は4万6100円~(税抜き)。昨年末にモデルチェンジ。コネクティッドを初搭載した

──そんなに簡単なんですか!? 必要書類などは?

小寺 ネットでご注文いただいた後、クルマがそろそろ出荷されるというタイミングで、スタッフがお客さまの元に伺います。そこで、印鑑証明書と記入済みの車庫証明書類をお預かりして、車庫証明を警察に申請し、車両と書類を陸運局に持ち込んでナンバーを取る。あとはお客さまに「明日以降ディーラーでご納車できます」と連絡するだけです。

──ほぼ手間ナシじゃないですか。肝心な支払いはどうなるんですか?

小寺 最初のネット申し込み時にクレジットカードを登録していただくだけですね。基本的には、お客さまと販売店の交渉は一切排除するようにしています。もちろん価格はワンプライスです。

──衝撃的です。ところで、任意保険の補償内容などはどうやって決めるんですか?

小寺 そこはKINTOが団体一括で保険をかけていますので、お客さまのほうで選ぶ必要はありません。オリックスさんなどのオートリースは、団体保険に加入できないのですが、KINTOの団体保険は専用につくったものなので年齢も一切関係ないんです。誰でも均一料金で同じ安心の補償が受けられます。

──それって超お得じゃないですか! あと、気になるのが事故時の対応です。リースの場合、特に全損事故はリース残金全額を支払うか、任意保険に加入していても膨大な違約金が発生しますよね。

小寺 それもすべてこちらで負担します。

──ホントですか! 極端なことを言えば、事故で全損してもお金は取られない?

小寺 すべての車両が任意保険込みですので、全損事故の場合は保険ですべて処理して、そこで契約終了です。事故後の再契約時に金額が上がる心配もありません。心理的には乗りたくなくなると思いますが。

──ところで、月々約5万円からという価格設定はどうやって決まったんですか。

小寺 いろいろなコスト計算と、中古車がどれくらいで売れるかなどを計算した上で、あとはエイヤで決めました。税込み5万円以下に収めることで、心理的な壁をつくらないようにしたかったんです。

──感覚も重視して決めたと。一方で、アルファードやKINTO SELECTのレクサスは料金が高く、こちらで利益をしっかり取っているような気がしますね(笑)。

小寺 お客さまの層を考えるとそうならざるをえません。

──とはいえ、中高年の人たちのなかには、家やクルマも分割だと金利で損をするという発想の人が今も多い気がします。それに、日本人は古くから借りるより所有するほうが好きですよね。

小寺 そういった抵抗があるのはわかりますし、今までクルマを何台も買ってこられた方はなかなか変わらないと思います。ただ、若い方を中心に新しい価値観を持った人というのは必ず出てきますから、そういった人たちから順番にマーケットに入っていただければいいなと。おそらく、普及には時間がかかると思います。

「KINTO ONE」で利用できる「アルファード」は7万9000円~(税抜き)。15年のフルモデルチェンジ以降、今や高級ミニバンの代名詞

■エコ&安全運転をポイントで評価!

──将来的に、KINTOのシェアは新車販売の何%くらいになると考えていますか。

小寺 何年後かはさておき、個人向け販売の3割くらいまではいきたいなと。

──そんなに! でも、昨今でサブスクが成功している例はソフトがほとんどじゃないですか。一本一本違った映画や音楽を定額で配信するのはわかりやすいんですが、クルマは毎月アップデートされるわけでもないし、ハードのサブスクには限界があるような......。

小寺 スマホの機種をイメージしてみてください。あれに月々1万~2万円を払うのなら、クルマに4万6100円は出すだろうと思うんです。今後は、もっと小さな車種を安く提供することも考えています。

──ただ、事故が増えたらこの価格は厳しいですよね。保険代がかさみ、車両価値の下落が激しく元が取れなくなる。

小寺 そのために、コネクティッド機能で車両データをとり、安全運転やエコドライブのスコアをつけるんです。そうやって丁寧な運転をした人にボーナスポイントを付与するとおのずと事故が減っていきます。

──そういった工夫がなされているんですね。

小寺 でも、商品完成度はまだ2割程度だと思っています。お客さまがどのクルマを欲しがっているか、どのサービスを求めているかがわからないと100パーセントの完成度にはなりませんから。

──いつ頃100パーセントに?

小寺 まったくわかりません。そもそも会社がスタートした昨年11月と企画の中身が全然違いますから。やりたいことが日々変わっていくんです。

──手探りで先の見えない仕事を、大のトヨタがよく始めましたね。

小寺 いやいや、これでもトヨタ本体からは遅いと言われているくらいなんですよ(笑)。