ドローン空撮の第一人者で、キャリア30年の請川博一さん。MG-1のデモ飛行をしながら農業用ドローンについて解説。パイロット育成にも力を注ぐ

日本の農業の明るい未来を見いだす「日本の農業はオレたちが元気にする!!」シリーズ、第2回は「ドローン」だ。日本農業の最大の問題点である人手不足解決の手段として大きな期待を集める"空飛ぶ農業機器"は、農業をどう変えるのか? 安全面に課題はないか?

前編では、最も人気が高い農業用の機体「Agras MG-1」の正規輸入代理店である、株式会社ワールドリンク&カンパニーの「スカイリンクジャパン」を取材。その画期的な性能や導入効果について聞いた。さらに今回は、ドローンパイロットの第一人者も直撃し、新たなイノベーションの実像に迫る!

■ドローンでひと儲けをもくろむ人が多い

まさに、いいことずくめに聞こえるドローン。ならば、どんどん導入すればいいと思えるが、課題はないのか?

現在、農業用ドローンを使って、農薬を散布するには、「産業用マルチローターオペレーター技能認定証」が必要になる。航空法では無認可でドローンから何か物を投下することは禁止されていて、農薬の投下もこれに該当するからだ。

この認定証は、農林水産航空協会が指定した施設で3日から5日の指導と試験を受けることで取得できる。こうした施設は、各メーカーや代理店が中心になって現在各地に開校している。

さて実際の操縦だが、これはラジコンとほぼ同じである。プロポ(送信機)にはモニターがついていて、バッテリー残量などフライト情報が映し出される。

「操縦は、ラジコンのヘリコプターよりもずっと簡単です」(「スカイリンクジャパン」営業担当の酒井美佑さん)

先述の農業EXPOでのデモ飛行でも、ドローン操縦歴1年未満という人が、いとも簡単に操縦していた。

しかし、こうした「ドローン万能」「ドローン最高」という雰囲気に警鐘を鳴らす人もいる。日本で初めて「ドローンパイロット」を名乗り、キャリア30年、ドローン空撮の第一人者として知られる請川博一(うけがわ・ひろいち)さんだ。

請川さんが撮影した空撮映像は、CMや映画、テレビ番組で見ない日はないと言っていいほど使われている。そうした活動と並行して、請川さんはこれまで全国でドローンを使用した農薬散布を行なってきた。

「確かにドローンは、操縦自体はそこまで難しいものではありません。ただ、それは単純に飛ばすという意味でしかありません。実際の(農薬散布)現場は、予測不可能な条件だらけなんです。例えば『風』です。場所によって強さも向きも違う。農薬がどう散らばるか、これは経験を積むよりほかないんですよ。

それに圃場の植栽の枝ぶりなんて一日ごとに変わっている。風が吹くことで、太い枝が突然飛行コースに現れることもある。ひとつとして同じ現場はないし、同じ場所でも同じ条件がそろうことはない。すべての圃場は、一度限りの『ワンオフ』なんです」

ドローンが飛んできた枝にぶつかれば、故障ならまだしも墜落して全損することだってある。もちろん、そうしたことが起こらないように認証の取得が義務づけられているわけだが、請川さんは現状に眉をひそめる。

「ドローンでひと儲けをもくろむ人が多いんですよ。認証を取って、農薬散布のドローン会社を設立するんです。なかには実際の圃場に一度も足を運んだことがない人もいる。そんな人が、練習場で飛ばし方だけを習ったところで、圃場での状況を知らずに何ができるというのでしょうか。

現場ではプロポを持ちながら移動することも多い。その足場ときたら、ずぶずぶのドロドロということも普通なんですよ。そんなこともわからないまま、免許だけを取るドローンパイロットが急増している。どんな事故が起こっても不思議じゃありません」

■自動操縦にはまだまだ限界がある

それなら自動操縦できるドローンはどうだろう? 今年から農薬散布についても、自動操縦を認める方向で関係省庁が動いている。しかし、請川さんはこう指摘する。

「自動操縦は素晴らしい技術。でも不測の事態、例えば突風への対応など、自動操縦にはまだまだ限界があるんです。ドローンの場合は突風が吹いてから対応する。つまり、事後なんです。一方、人が操縦すればドローンを飛ばす圃場の天候状況など、考えられるすべての要素を考慮しながらフライトさせるから、事前に対応することができる」

どうやら何もかもドローンにお任せというわけにはいかないようだが、それでもこの国の農業が大きく変わる可能性は高い。

「ドローンは間違いなく、素晴らしいイノベーションです。従来の無人ヘリより機体の価格が安い。単純に初期投資だけでも、ヘリは600万から1000万円かかりますが、ドローンは数百万円程度で済みます。

ただし、ドローンは買い替えサイクルが早く、メンテナンスをしてちゃんと運用することが大前提です。そして何より、圃場でのドローンの扱い方を知っているパイロットが育たないといけません」

そこで請川さんが中心になって、日本ドローンプロパイロット協会が発足した。

「圃場でのドローン運用は、すべてワンオフの環境の下で行なわれるということをしっかり伝えて次世代のドローンパイロットを育成するのが目的です。農業のことをきちんと知っているパイロットが増えれば、確かに日本の農業は変わる可能性がある」(請川さん)

この先、若い農業従事者が急激に増えていくことは考えづらい。そんななか、ドローンへの期待は増している。黎明(れいめい)期ゆえの問題も山積しているが、"空飛ぶ農業革命"が起こす奇跡を信じたい!

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