小沢コージ(左)とトヨタZEVファクトリー B&D Labグループ長の谷中壯弘氏(右)

トヨタが来年の東京五輪・パラリンピックの大会運営に提供する専用ロボットなどを発表した。ということで、自動車ジャーナリストの小沢コージが取材会場に乗り込み、その魅力に迫ってきた!

■最新技術ぶっ込みの次世代電気自動車

ワオ! もしやトヨタは東京五輪を、自らのギョーテン技術の巨大ショーケースにするつもりなんかい! そう思わずにはいられなかったのが7月18日に初公開された、トヨタが東京五輪に提供する専用の面白すぎるニューモビリティ&ロボットたちである。

そもそもトヨタは2015年から国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会とワールドワイドパートナー契約を結び、燃料電池バス「SORA(ソラ)」や自動運転車「e-Palette(イー・パレット)」、AIを使って会話を行なう「Concept-愛i(アイ)」をはじめとする約3000台の公式車両を提供することをすでに発表。

SORAは昨年発売され、東京五輪までに都内中心に100台以上の普及を目指す世界でも珍しい燃料電池バスで、もちろんトヨタ自慢の先端技術テンコ盛り。

片やe-Paletteは昨年1月、米ラスベガスのCES(家電見本市)で豊田章男社長自ら「自動車をつくる会社から、モビリティカンパニーにモデルチェンジする」と宣言し、同時発表されたその象徴ともいえる車両だ。

電気で動くだけじゃない。MaaS(マース/モビリティ・アズ・ア・サービス)向け多目的EVで、移動ブティックから移動ホテル、移動喫茶店にもなるまったく新しいトヨタフューチャーモビリティだ。それはConcept-愛iもしかり。

だが、トヨタの五輪提供はコレらで終わりじゃなかった! まず驚いたのは今回、トヨタ東京本社1階で走行をお披露目してくれたAPM(アクセシブル・ピープル・ムーバー)。

モビリティ・フォー・オール、つまり、「すべての人に移動の自由を!」を旗印に、会場や選手村で使われるラストワンマイル移動のためにトヨタが開発したニューモビリティがAPMなのである!

次世代電気自動車 APM(アクセシブル・ピープル・ムーバー)。競技会場の敷地内で、観客や選手などの近距離輸送で活用される予定のAPM。航続距離は1回の充電で100kmとのこと

丸目2灯のかわいい顔をしつつ、しかしオザワにはコイツが電動ゴルフカートのデカいヤツにしか見えない。そこで開発を担当したトヨタZEVファクトリーの谷中壯弘(やなか・あきひろ)グループ長を急襲!

「僕はゴルフをしないのでよくわかりませんが(笑)、大きな違いは後ろに大人が5名ゆったり座れるのと同時に、車いすで乗ることもできます」

APMは車いす用のスロープや、車いす固定用のベルトも搭載している。

「クルマ造り的にはセンターフロアがフラットじゃなければいけないし、広い床スペースが必要。そのためには充電効率のいいリチウム電池で、積載効率良く床下に収まる電池パックが必要。具体的には来年発売予定の超小型EVと同じ電池を使います」

つまり一部中身は6月に発表された2020年登場予定の超小型モビリティと一緒。キモは最新式電動車であることと、時速19キロまでしか出ない超低速車であることで、コレにより衝突安全を追究せずに済むし、乗客もシートベルトをせずに済む。

ただ、残念なことにトヨタは「五輪後に使う計画はない」という。要するに現在予定される200台で打ち切りなのだ。

オザワ的には残念だ。確かに最高時速19キロじゃ田舎の一般道でも渋滞の原因になりそうだけど、巨大病院の敷地内とかショッピングモールなどで使える気がするんだよなぁ。

ちなみにAPMはトヨタらしく誤発進抑制の最新式インテリジェントクリアランスソナーとかリッパなのもついている。五輪だけじゃもったいない!

それから大トヨタがこんなのガチで造ったの? コレって三つ星シェフが、ウチのガキんちょのお弁当を本気で作ってくれたみたいやん! と、思わせてくれたのが、やり投げや円盤投げなどのフィールド競技で、自動的に投てき物を運んでくれるFSR(フィールド・サポート・ロボット)。

自律走行ロボット FSR(フィールド・サポート・ロボット)。FSRは投てき競技で活躍予定。センサーや高精度地図を活用し自律走行。砲丸などを回収し、返却地点まで運搬する

要するに選手が投げた後、全長1mちょいのクーラーボックス大のクルマが投てき物を勝手に追い、係員がグラウンドに刺さったソイツをFSRに載せ、ボディにタッチしたら自動で選手の所まで戻ってくるポチみたいなお便利五輪ロボットなのだ。

一見オモチャっぽいが中身はガチで、「自動運転用の光学カメラを3つ、高額な 360°ライダーをひとつ載せ、選手や係員を見つけたらぶつからずに避ける」(開発担当者)というスンバラシイ機能がついてて、現在6台を製作中。

今まではフツーにリモコン台車が使われていたそうで、これまたどうみても将来のオリンピックや世界陸上で使えそうなのだが、トヨタは「今後、造る予定はありません」とつれない。

トヨタの一流エンジニアがコスト度外視で造るだけに、1台100万円程度では絶対売れないんだろうけど、ほかにやりようはあるような。トヨタは「本番まであと1年、完璧に動くよう改良を続けます」と話すが、絶対に使い道はあると思う!

■空飛ぶクルマは五輪に出るのか?

モビリティ以上にSF的で、未来が本気で手元に来た感を与えてくれたのが、今回披露されたロボットだ。まず前代未聞の遠隔地間コミュニケーションサポートロボット、T-TR1がスゴい!

コイツはトヨタが2016年に米シリコンバレーに鳴り物入りで設立した人工知能研究機関「TRI(トヨタ・リサーチ・インスティチュート)」との共作とくる。AI界で天才と称されるマサチューセッツ工科大卒で米国国防総省出身で同機関CEOのギル・プラット氏の息もたぶんかかっているだろう。

大型ディスプレー搭載自走式ロボット T‐TR1。高さは約2m。360°カメラを持ち、障害物を避ける自動運転技術を採用。五輪会場に来られない人もコレを使えば生観戦気分?

それにしても、コイツはホントに不思議なロボだ。一見、巨大なタテ型60インチのLEDテレビがマイク、スピーカーと共に自動で動くだけのシロモノで、正直言って意味がよくわかんない。

取材会では画面に見知らぬ車いすの女性の姿が映し出されていたが、その画像は意外と粗かった。聞けば画素数はそれほどではなく、LED素子で晴天でも潰れずクリアに見えることを重視しているのだという。

そう、コイツの正体は英語でいうテレプレゼンスロボット。Amazonなども開発している新ジャンルのシロモノで、離れた場所から人のプレゼンス、つまり存在感を発揮させるロボなのだ。

身体的だったり、物理的に五輪会場に足を運べない人のために、T-TR1が行くのだが、オザワ的には正直言って普通にテレビで見るのとどこが違うの?って感じだが、そこは会場の雰囲気であったり、観客席での会話も楽しめるのは魅力かも? 要は現場に行かずとも行った気分により深くなれるってワケ。

それから取材会場でひと際異彩を放っていたのがテレイグジスタンス(遠隔存在)ロボットのT-HR3。コイツは2台ひと組で遠隔操作が行なえるロボットで、イスに座った人が頭にVRゴーグルを含むヘッドセットをつけ、腕から指までアタッチメントを取りつけたら準備完了。

すると離れた所にいるロボットが手から頭までリアルに人の動きをトレースする。まさに遠隔地にいる人の動きを再現してくれるワケだがポイントはそこじゃない!

力を入れるとロボットに備わる32個の関節と指10本が自由自在に動くだけじゃなく、ロボット側に力が加わったらその分、操縦者に反力が返ってくる仕組みなのだ。

人型ロボット T‐HR3。遠隔地にいても、ロボットを介してアスリートと交流することが可能。映像や音声も活用し、臨場感もハンパない

「ロボットの手を押したら、操縦者の手が押され、手が握られたらその感触が操縦者に伝わってくる。要は離れた所にいる人とバーチャル交流ができる」(開発担当者)

東京五輪ではT-HR3を使い、競技会場にいる観客が選手村のトップアスリートと握手できたりするという。

ただ、勝手に想像するに、不届き者はアスリートに腕相撲とか挑んじゃったりして、問題が起こったりする気がするが......選手に危害が及ぶ前に、マシンに制限をかければいいのか。まぁ、そこまで配慮しているでしょう、大トヨタさまなら!

そして東京五輪マスコットロボットのミライトワ/ソメイティは、頭部に備えたカメラを通じて人の表情を読んで、かわいく笑ったり、ウインクしたりするようだが、ここまではaiboと同じ。これまたキモは対応性で、一部機能をT-HR3と同じにして、遠隔操作で選手たちと握手が楽しめるという。

最後に五輪の目玉とチマタでウワサされている"空飛ぶクルマ"についてもトヨタ関係者に聞きまくったが、「そこはちょっとわかりません(笑)」と煙(けむ)に巻かれた。だが、オザワ的には東京五輪のモビリティ&ロボにはまだまだ隠し玉があるとみた!

マスコットロボット ミライトワ/ソメイティ。選手や観客を歓迎するマスコットロボット。頭部のカメラで近づく人間を認識。目の表情と動作を連動させ、感情も表現できる