(左から)借金玉氏、プロ奢ラレヤー氏、えらいてんちょう氏が、SNS時代の光と影を好き勝手に話しまくります!

■果てしなく稼いでいるインフルエンサー

企業が自社製品やサービスのPRのために、インフルエンサーに支払う費用は、2018年は約219億円だったが、23年には500億円を突破するという(デジタルインファクト社調べ)。

今やインフルエンサーは、トップ層となれば、年収億超えが当たり前の世界。だが、その下を見渡すと、「残念なインフルエンサー」の事例が死屍累々(ししるいるい)になっていて......。

ということで今回はネットでバズった人々をウオッチし続ける3名のインフルエンサー、えらいてんちょう氏、プロ奢(おご)ラレヤー氏、借金玉(しゃっきんだま)に登場してもらい、「インフルエンサーの光と影」を存分に振り返ってもらった!

* * *

──まずは皆さんがどのような活動をしているのか教えてください。

えらいてんちょう(以下、えらてん) 実業家としてお店をプロデュースしたり講演したり。ネット上だとYouTubeにチャンネルを開設してそこに動画を投稿するYouTuber活動がメインですね。

プロ奢(おご)ラレヤー(以下、プロ奢) 僕はツイッターで知り合ったいろんな人に奢られたときに聞いた話なんかを発信してます。あとは「note」(*1)などで文章を売ってます。

借金玉 僕も発達障害の当事者としての経験を基にしたライクハック記事とかをnoteで公開するのが主な活動です。

──えらてんさんは、YouTubeでどのような動画を?

えらてん メインチャンネルでは、いろんな宗教の面白話を識者と一緒に解説したりしています。ただ、普段頻繁に動画をアップしているのはサブチャンネルのほうで、こちらに上げているのは、僕の日常生活や思ったことを自撮りして無編集のままタレ流す「クソ動画」(*2)です。

──クソなんですか?

えらてん ええ、クソです(笑)。でも、そういう動画を毎日配信するだけで、YouTubeでは月40万ぐらい稼げたりすることもありますから。これがインフルエンサーだ!

借金玉 なんか自分が今いる場所がすげぇ不安になるな......。

──えらてんさんはYouTubeで一番稼げた動画はいくらくらいですか?

えらてん 動画の広告収入で一番もらえたのは200万ですかね。

借金玉 「宗教マニアが教える入ってはいけない宗教ランキングベスト5」(18年9月18日公開。20年1月22日現在約723万再生)だっけ?

プロ奢 やっぱメガヒット動画はすげぇな。

えらてん 単発的に動画がヒットしたところで、大したことないよ。例えばメンタリストDaiGo(だいご)(*3)さんなんて、ニコニコチャンネル(*4)の会員費が月額550円で、登録者は約13万人、単純計算すれば売り上げは毎月7150万円。事務手数料(14%)や消費税とかを引かれても約5000万円なんだから、大物に比べたら僕なんて全然。

まあ、彼は例外中の例外。月収100万いくインフルエンサーなんて、日本では30人もいないと思うし。

──そもそもの話なのですが、YouTubeで動画を配信することで、お金を稼ぐことができるのは、どんな仕組みなんですか?

えらてん ざっくり説明すると、まず一定の条件を満たした配信者が、YouTubeに自身のチャンネルの収益化を申請して、それが通ったら有料チャンネルを作れたり、SuperChat(スーパー・チヤツト)(*5)を使えたりする。

ただ、一番デカいのは動画に広告を流すことができることで、それにより動画の再生数に応じた報酬が支払われるんです。1再生当たりの単価は動画によってけっこう幅が出ます。

YouTubeはユーザーの年齢層や興味や習慣といった情報を持っているから、企業は細かくターゲットを決めて広告を出稿して、そのターゲットに合致する動画を他企業と競るんです。

そのため、バズってる動画や経済力がある層が見るビジネスについて語っている動画なんかは単価が高くなる、というわけです。

プロ奢 逆に子供向けのおもちゃ紹介動画なんかは、子供自身に経済力はないから単価が下がると。

「YouTuberは最近よく捕まるよね」(プロ奢)「●●●に△△△がおもちゃの宣伝を頼んだら、直後にそいつが彼女を暴行して逮捕、なんて事件があったね」(えらてん)

■"コンセプト"で食っている

──昨年はインフルエンサーを使ったステマ(ステルスマーケティング)が何度か物議を醸しましたよね。

えらてん 僕のところには、企業からステマしてほしいっていう依頼は全然来ないな~。

プロ奢 ギャラとかを動画でさらされるのを警戒してるんじゃない?(笑)。それに今、インフルエンサー向けのステマ案件って、フォロワー増えたての作家とか、普段はOLやっているようなお姉ちゃんとか、金をあまり持ってなくて、広告業界の慣習をわかっていなさそうな人に来るらしいし。

ただ、僕は「5万円くれたらその会社の商品の感想をつぶやきますよ」とツイッターで告知してます。例えば、ナンパ師のハウツー本を紹介したこともあった。

──どんな感想を?

プロ奢 正直に「全然面白くない」と(笑)。でも、その感想を見た人のなかには「そんなにつまらないのか。読んでみたい」ってのも必ずいて、そのうちの1%ぐらいは、ナンパ師の別のコンテンツにも興味を持つ。だから広告として十分成立するんですよ。

借金玉 僕のツイッターにも「商品を送るから宣伝(ステマ)してくれ」ってダイレクトメールがめちゃくちゃ来る。だいぶ前、「このサプリを飲んで男性機能がバキバキになったとツイッターで報告してくれれば、お礼をお支払いします」ってのがあった。無視したけど、アレはちょっと面白かった(笑)。

プロ奢 発達障害者向けのライフハックを書いている人にそんなの宣伝させてどうすんだ(笑)。

えらてん インフルエンサーあるあるだけど、発言内容やその生き方にフォロワーがついているんだから、そういう人に、いくら人気があるからってイメージと違うモノを宣伝させても、誰も興味を持たないよね。でも、インフルエンサーを起用した宣伝って、そういう的外れなモノがかなり多い。

──ツイッターやインスタグラムの「フォロワー数」はその人の注目度、人気度を示すバロメーターだと思いますが、それは広告効果とイコールではない?

プロ奢 もちろん。誰にどんな広告効果があるかなんてフォロワー数じゃ全然わからないですよ。僕は自分とまったく親和性のない広告でも、お金もらえるんならやりますが、クライアントがバカだから僕たちも商売になっているところはある。あ、これは書かないでくださいね。

──わかりました。

プロ奢 でも、書かないでくれ、と言っていたことまで書いてくれたら、OKです(笑)。

──ええ......。

借金玉 話を戻すと、クライアントはインフルエンサーの"コンセプト"をちゃんと理解する必要がある。フォロワー数だけを判断材料にするのは、センスがない。

えらてん あとフォロワーの熱量も大事。同じひとりのフォロワーでも心酔度によって、影響のされ方が全然違う。だから、フォロワー1万人のインフルエンサーがフォロワー10万人のインフルエンサーに劣るとも限らない。

プロ奢 大手企業でも、そのへんのことをわかってないとこ多いよね。

──ステマがバレて炎上するのも、そのあたりのマッチングの悪さがユーザーから見透かされてしまうことが一因かもしれませんね。

借金玉 あ、でも最近、「僕のこと、わかってんな」ってうなったステマ案件があったよ。「発達障害が治るサプリ」の広告塔を500万円でやらないかって依頼があってさ。その代理店から「おまえの需要なんて、そんなに長く続かないよ」って割とダイレクトに言われた(笑)。

一同 (笑)

借金玉 大暴れしてくれれば500万支払うから、このカネで第二の人生を歩め、ということでしょう。悔しいけど「わかってんな」と(笑)。もちろん断ったけど。

えらてん その担当者は借金玉が発達障害の客を抱えているのを、ちゃんとわかってたんだね。

「一度でもインターネットに顔を出してしまった人間には、余生はないもんだと思ってる」(借金玉)

■"本物"は狂気をはらむ

──インフルエンサーになりたいと思っている人は少なくない気がします。

プロ奢 どうでしょうね。ただ、「インフルエンサーになるぞ!」って目を血走らせている人には無理なんじゃないかな。気がついたらずっと同じことを発信し続けるような人じゃないと。

借金玉 業務用5リットルの角瓶と炭酸水を2:1で割ってそれを全部一気飲みするような異常な動画を配信し続ける"ハイボールの人"って人気アル中配信者がいたけど、やっぱり、ハネる人ってどこか狂気を抱えているよね。

──そんなむちゃくちゃな例を出されても(笑)。

えらてん そういう"本物"の話をするなら、N国党(NHKから国民を守る党)の立花孝志代表なんて最たる例でしょ。

──そういえば、えらてんさんは、今ご自身の動画でN国党と立花代表を徹底的に批判していますよね。

えらてん そうですね。でも、彼はやっぱりスゴイですよ。僕は、世間が発見するずっと前から彼をチェックしてたんだけど、2005年にNHKを退職した後から、2ちゃん(2ちゃんねる、現5ちゃんねる)のコテハン(固定ハンドルネーム)でNHKに対する恨みつらみをずっと書き込んでて、最終的にはテロ予告とかヤバイことをやってた。

そんな人がいつの間にやら、政治団体を組織して、賛同者を得て、参議院議員をひとり出すまでになったんだから(笑)。

借金玉 誰にも理解されない異常なことを何年もやり続けて、あるとき突然、風が吹いて空を飛んでいく。それこそが本物のインフルエンサーですよ。

えらてん それに今いる"本物"は、何かしらの第一人者でもある。例えば、イケハヤ(イケダハヤト、*6)さんは、仮想通貨に手を出して億単位の儲けが出てから変わっちゃったけど、最初は東京で高い固定費を払って消耗してないで地方に移住してのんびり生きようよって、ひとつのコンセプトを持ってブロガー黎明期(れいめいき)の王者になった人だし。

立花さんだって、12年にYouTuber活動をスタートしたはじめしゃちょーより早く、YouTubeに自身の動画を投稿してる。彼らは目のつけどころが斬新なんだよ。

借金玉 そういえば、「札束を積み上げて自撮りする」ってことを最初にやりだしたインフルエンサーって与沢翼(*7)さんだよね。

プロ奢 現金を見せたら人が集まるなんて、よく考えたら当たり前だけど、そんなアナログな方法を堂々とネット上でやった、というのは今考えるとすごいことだな。

借金玉 一時期、「金儲け」のジャンルで客を集めていたインフルエンサーの間で、いかに大量の札束を動画や写真で見せるかという競争があったよね。みんなどんどんエスカレートしていって、札束を壁が見えなくなるくらいに積んだり、札束を投げ合ったり、リアリティを出すために紙袋にぎゅうぎゅうに詰めてみたり。

えらてん 最近、大量の札束を本物と証明するように一枚一枚数えて"儲けてるアピール"をする動画を見たな。ところで、そういう動画や写真を撮りたい人のために半グレが札束を高額でレンタルしているって話を聞いたことがある。いや、今話した動画がそうだとは言ってないよ(笑)。

プロ奢 人間は現物に弱いからね。プロフィールに"年商ウン億円"なんてあったら、たちまち人が集まってくる。

借金玉 ツイッターを「インフルエンサー 年商」で検索してみるとうさんくさいヤツがいっぱい出てくるよ。

プロ奢 まぁ、年商とか必要のない数字をプロフィール欄に入れてる人はだいたい嘘つき。ってかだまそうとしてる、そう考えていい。何かあらためて考えると、やっぱりインターネットの世界ってまともじゃないな(笑)。

えらてん ヒカキンさんみたいなちゃんとした人間は奇跡に近い存在だね。

──では最後に、インフルエンサーと呼ばれる人たちは今後、どうなっていくと思いますか? インフルエンサーの市場は今後も拡大し続けるとの予測もありますが。

プロ奢 俺はもうインフルエンサーバブルははじけていると思うな。

借金玉 ネットって、流行して廃れるサイクルがめちゃくちゃ早いから、インフルエンサーの出入りも本当に激しいんですよね。僕自身も、稼げるときとそうでないときの浮き沈みはジェットコースターみたいだし。

えらてん まあ、それでも借金玉はまだ大丈夫なんじゃない? ほらさっき言った、第一人者的なところがあるじゃん?

借金玉 発達障害者の第一人者ってこと? イヤだな。その人生、ツラすぎる。

一同 (笑)

(*1)「note」
2014年に開始した文章、写真、イラスト、音楽などの作品配信サービス。月間アクティブユーザーは、今年1月には1000万人だったのが9月には2000万人突破と現在急成長中。「文章コンテンツのプラットフォームでは、『note』を超えるサービスは当分出てこない」(プロ奢ラレヤー)といわれる強みの理由は、クリエイターフレンドリーな使いやすさと、ユーザーからダイレクトにお金を取れる決済機能。投稿記事の公開は無料と有料が選択可で、記事単位、数記事をまとめたマガジン単位のどちらでも価格設定ができる。値段も100円から5万円までと幅広い。コンテンツ販売時に運営が徴収する手数料は売上額の15~30%程度で、携帯電話のキャリア決済にも対応し、ユーザーと配信者間での決済も簡単。ユーザーが任意の金額を配信者に送金することができる投げ銭機能もある

(*2)えらてんの「クソ動画」
「スマホで即撮影、無編集でアップできるから時間もコストもかからないし、ニュースへの対応もすぐできて速報性も高い。コアなファンが聞いてくれるから再生数もそれなりに稼げる」(えらいてんちょう)とのこと

(*3)メンタリストDaiGo
メンタリストとは本人いわく「心理学に基づく暗示や錯覚などのテクニックを駆使し、常識では考えられないようなパフォーマンスを見せる人」のこと。2012年頃からテレビを中心に大ブレイク。その後、活動拠点をネットに移し、ニコニコチャンネルやYouTubeチャンネル(登録者数176万人)で日々動画をアップしている。著書も多数

(*4)ニコニコチャンネル
動画配信サービス「niconico」内にある、企業や個人クリエイターがそれぞれ専用のチャンネルを設けて動画・記事などを配信できる機能。各チャンネルの視聴は会員登録制で、現在約1400の有料チャンネルがある

(*5)Super Chat
ライブ配信中の配信者に視聴者が100円から5万円の範囲でお金を送ることができるYouTubeの投げ銭機能

(*6)イケダハヤト
2012年に『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(星海社新書)を刊行するなど、日本的セミリタイアモデルを提唱するブロガー、実業家だった。東京から高知に移住してのんびり過ごす彼の生き方に影響された人は多かったが、「仮想通貨で儲かりすぎて、そのコンセプトが崩壊しちゃった」(プロ奢ラレヤー)。その後いろいろあって、オンラインサロン『脱社畜サロン』(現みんなの起業準備塾)を立ち上げるも今年初めに主催者のひとりの経歴に疑義が持たれて炎上(主にえらいてんちょうが追及)。その影響からか、サロンは会員数を大きく減らした

(*7)与沢 翼
かつては「ネオヒルズ族」を自称していた実業家。投資や情報商材ビジネスなどで巨万の富を築き2013年頃から"秒速で1憶稼ぐ男"として一時各メディアに登場したが、その後経営していた会社が破綻。現在はドバイ在住。今年3月には著書『ブチ抜く力』(扶桑社)を出版

●えらいてんちょう(矢内東紀[やうち・はるき])
28歳。実業家、"しょぼい企業"の経営コンサルタント、YouTuber、作家、投資家。全国10店舗をフランチャイズするイベントバー「エデン」の創業者。著書に『しょぼい起業で生きていく』(イースト・プレス)、『ビジネスで勝つネットゲリラ戦術詳説』(KKベストセラーズ)など。新著は『「NHKから国民を守る党」の研究』(ベストセラーズ)

●プロ奢(おご)ラレヤー
22歳。本名・中島太一。ツイッターなどで知り合ったさまざまな人に奢られて、そのときに聞いた話や考えたことを文章にしてお金を稼ぐ「奢られ屋」。年収は1000万円。これまで奢ってもらった人は2000人を超える。「他人のカネで生きていく」がモットー。初の著書『嫌なこと、全部やめても生きられる』(扶桑社)が発売中

●借金玉(しゃっきんだま)
34歳。作家。発達障害者。大卒後に就職した大手金融機関での仕事や起業でやらかした経験を基に書いたライフハック本『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』(KADOKAWA)がヒット。『週刊プレイボーイ』にてコラムを連載中。趣味は料理とポエム。ちなみに、弟は『このライトノベルがすごい! 2020』(宝島社)で文庫部門1位を獲得した作家の宇野朴人