トヨタ「ライズ」推しグレード...Z、価格...206万円。昨年11月デビュー。ボディは全長3995㎜×全幅1695㎜×全高1620㎜。5ナンバーサイズだ

ライズの人気がスゴい。その理由とは? さらに激戦区となったコンパクトSUV市場には魅力的なクルマがズラリ。ライバルとの優劣は? ライズは本当に買うべきクルマなのか? カーライフ・ジャーナリスト・渡辺陽一郎が濃厚解説する。

■OEM車で史上初の新車販売トップ!

――コンパクトSUVのライズの販売が好調です。

渡辺 ライズは、ダイハツが開発と生産を行なってトヨタに供給するOEM車です。昨年11月に発売され、今年の1月と2月には小型/普通車の販売1位になりました。OEM車が販売ランキングでトップに立つのは初の快挙です。

――ライズが人気の理由は?

渡辺 まず国内市場と親和性が高いことです。今の国内における新車販売状況を見ると、軽自動車が全体の37%を占めます。これに次ぐのがコンパクトカーで25%、SUVは13%です。つまりコンパクトSUVのライズは、国内で好調に売れるふたつの要素を兼ね備えている。

荷室容量は369L。FF車の床下には80L(4WDは38L)の収納スペースが備わる

9インチのスマホ連携ディスプレイオーディオ。アプリはディスプレイ上で操作が可能

――なるほど。

渡辺 しかもSUVは今海外でも人気が高いため、全長が4.4m以内に収まる車種でも、ヴェゼルC-HRのように全幅が1700㎜を超えて3ナンバー車になってしまう。その点でライズは、全幅が1695㎜の5ナンバー車です。好調に売れるノート、フィット、ヤリスのように運転しやすいため、人気が集中しています。

――ちなみに5ナンバーSUVにはほかにどんな車種が?

渡辺 ライズのダイハツ版のロッキー以外では、スズキのクロスビージムニーシエラだけです。クロスビーはフロントマスクがハスラーに似ていて空間効率も優れ、実用的ですが、SUVの中では外観が個性的です。

ジムニーシエラは、軽自動車のジムニーに1.5Lエンジンを積んだ派生車種なのでボディは3ドアで後席と荷室は狭いです。だから外観がSUVらしくて、5ナンバーサイズに収まるという点ではライズとロッキーだけになる。

スズキ「クロスビー」推しグレード...ハイブリッドMX、価格...179万8500円。17年12月登場。エンジンは1L直3ターボ+モーター。全長3760㎜×全幅1670㎜×全高1705㎜後席は左右独立スライド機構付き。スペースも十分。軽のハスラーとは別物だスズキ「ジムニーシエラ」推しグレード...JC、価格...205万7000円。18年7月デビュー。ボディは全長3550㎜×全幅1645㎜×全高1730㎜メーター間にはマルチインフォメーションディスプレイを装備。伝統のオーバーフェンダーも採用

――5ナンバーサイズ以外で、人気のポイントは?

渡辺 ボディスタイルも人気の理由のひとつです。今はC-HRやヴェゼルなどのコンパクトな車種から、ハリアーやCX-5などのLサイズまで、SUVの外観は都会的です。直線基調で野性味の感じられる古典的なSUVは、ランドクルーザーやジムニーのような後輪駆動ベースの悪路向けを除くと、ほとんど見当たりません。

――確かに!

渡辺 そこにまず登場したのが現行RAV4です。前輪駆動ベースのSUVですが、直線基調でフロントグリルが大きく、悪路向けのSUV風で人気を得ました。続いて発売されたライズは、RAV4を小さくしたような外観なので、さらに人気が高まった。

――RAV4の次にライズが発売されましたが、タイミングもばっちりだったと。ちなみにライズの購入層は?

渡辺 トヨタに尋ねたところ年齢分布は幅広いです。「クルマを買わない」といわれる10~20代が13%、30代は10%、40代が14%、50代は15%です。各年齢層ともほぼ均等に売れています。

ライズを買う前に乗っていた車種も幅広く、中心はコンパクトカーですが、上級のSUVやミニバンからダウンサイジングするケースもあります。軽自動車からの上級移行も見られます。

――ダウンサイジングはよく聞きますが、軽自動車からのアップサイジングもあると。

渡辺 軽自動車が新車として売られるクルマの40%近くを占めるようになったのは、ダウンサイジングが進んだ結果です。しかしその一方で、「軽自動車ユーザーの15~20%は、次にクルマを買うときに小型車にアップサイジングする」という話もあります。

――そういうアップサイジング市場も考えて開発されたと?

渡辺 アップサイジングの傾向がさらに強いのは、ダイハツ版のロッキーですね。

――ライズとロッキーは同じクルマなのに違いがある?

渡辺 ロッキーにはプレミアムと呼ばれる最上級グレードが用意され、シートの表皮は、ライズが採用していないソフトレザー調です。またライズの上級グレードがオプション設定にしているブラインドスポットモニターなども標準装備している。

ロッキーがこのような最上級グレードを用意した理由を開発者に尋ねたら「今の軽自動車の質感は、小型車と同等かそれ以上。そうなると軽自動車から小型車に乗り替えるお客さまは、かなり上質な内装と充実した装備を求めます。プレミアムはこの需要に応えました」と。

■ライズとロッキーの違いとは?

――ライズとロッキーの違いをもっと詳しく知りたいです。

渡辺 ライズ、ロッキー共にエンジンは直列3気筒1Lターボを搭載して、全グレードに前輪駆動の2WDと4WDがありますが、ロッキーのプレミアムに相当するグレードは、ライズにはない。

――では、ほかのグレードは似たような内容?

渡辺 そうですが、グレード名が実にややこしい。ベーシックなライズXに相当するのはロッキーLで、中級のライズGに近いのはロッキーXです。上級はライズZとロッキーGになります。両車ともXとGという共通のグレード名を使いながら、位置づけが違うのです。

ダイハツ「ロッキー」推しグレード...G、価格...200万2000円。ライズと姉妹車のロッキーは、六角形のフロントグリルを採用。ライズは台形のグリルが目印

――わざと比べにくくしている印象もある?

渡辺 そうかもしれません。そこで中級のライズG(189万5000円/2WD)と同じく中級のロッキーX(184万8000円)を比べてみると、価格はライズGが4万7000円高い。

その分だけライズGには、ロッキーXが装着しない助手席シートアンダートレイがついたりしますが、4万7000円の価格差を埋める内容ではありません。

ライズはOEM車で、なおかつトヨタの販売店で売ることもあり、営業関連のコストもダイハツに比べて高い。そこで装備の違いを差し引いても、2万~3万円はライズのほうが割高になっている。

――となるとロッキーのほうがお買い得?

渡辺 それが、必ずしもそうとはいえません。数年後の売却額は、車名の浸透しているライズのほうが高い可能性もあります。または、姉妹車なのにフロントマスクの形状が明らかに違うので、デザインの好みで選ぶ手もあるでしょう。

ボディカラーも、ライズにはターコイズブルーマイカ、ロッキーにはコンパーノレッドという独自の色彩が用意されますので。

ロッキーの「G」グレードには全車速対応型アダプティブクルーズコントロールなどが標準装備ロッキーのエンジンは1Lの3気筒DOHC12バルブターボ。最高出力98PS、最大トルク140Nm

――ちなみにロッキーの人気はどうスか?

渡辺 ロッキーの売れ行きも堅調です。今年2月だと、ライズの登録台数は9979台で小型/普通車の1位でしたが、ロッキーも3411台でホンダのヴェゼルに近い台数です。ダイハツは軽自動車が中心のメーカーなので、小型車のロッキーがヴェゼルと同等に売れているというのはスゴいこと。

――でも、ロッキーとそんな大差がないのに、なぜライズのほうだけが売れている?

渡辺 ライズを扱うのはトヨタ全店で、全国に約4900店舗あります。そうなると1店舗で2台登録すれば9800台です。試乗車や社用車、社員など関係者のクルマかもしれないし、なかにはレンタカーもあるでしょう。

トヨタは所帯が大きいので、短期間なら売れ行きを自由にコントロールできる。だから本当の人気度は、半年ほど経過しないとわからないですね。

――ちなみに納期は?

渡辺 販売店に尋ねると、ライズの納期は3ヵ月以上だそうです。正確な納期は不明とも言われました。その点でロッキーは大半のグレードが2ヵ月で、長くても3ヵ月弱です。

例えば下取りに出す愛車の車検が6月に満了する場合などはロッキーを選ぶといいでしょう。ライズでは、愛車を手放して2ヵ月後に納車という流れも考えられる。

■ライズを買うならライバルと乗り比べろ

――ライズと、主なライバル車との優劣はどうです?

渡辺 ライズの特長は、SUVらしさが濃厚な外観と、5ナンバー車の取りまわし性を両立させたことです。ほかの車種は大半が3ナンバー車で、デザイン重視のC-HRは後方視界が悪くてトヨタの社内基準をギリギリでクリアしたほどですが、ライズは後ろも見やすく縦列駐車も容易。最低地上高は185㎜で、悪路のデコボコも乗り越えやすい。

トヨタ「C‐HR」推しグレード...ハイブリッドG、価格...299万5000円。16年12月デビュー。昨年10月に改良。全長4385㎜×全幅1795㎜×全高1550㎜先進予防安全「トヨタセーフティセンス」や、車載通信機「DCM」を標準装備

――逆にライズの欠点は?

渡辺 全長が4m以下なので、後席の足元空間は少々窮屈。身長170㎝の大人4名が乗車したとき、例えばヴェゼルの後席に座った乗員の膝先空間は握りコブシふたつ半ですが、ライズはひとつ少々です。運転するとパワーステアリングが直進状態に戻ろうとする力が弱く、手応えも少し曖昧(あいまい)です。乗り心地は少し硬め。

ホンダ「ヴェゼル」推しグレード...X、価格...220万5093円。13年12月デビュー。昨年11月に一部改良。全長4330㎜×全幅1770㎜×全高1605㎜安全運転支援システム「ホンダセンシング」を標準装備。低重心設計により操縦安定性に優れている

――エンジンは?

渡辺 1Lターボエンジンは、動力性能は相応にありますが、アクセルペダルを踏み増すと、3気筒エンジンのノイズが耳障りですね。

――そうした長所短所を踏まえた上で、ライズは買い?

渡辺 購入時には、ライズのほかに好みに合いそうなコンパクトSUVを2、3車種ほど試乗して比べたほうがいいでしょうね。できれば同じ日に販売店をハシゴして試乗するとその違いがわかりやすいですよ!

マツダ「CX‐30」推しグレード...XDプロアクティブツーリングセレクション、価格...300万8500円。昨年9月デビュー。全長4395㎜×全幅1795㎜×全高1540㎜長時間の運転でも、自然な姿勢を保てる新構造のシートを採用日産「ジューク」推しグレード...15RX Vセレクション、価格...208万100円。10年6月デビュー。全長4135㎜×全幅1765㎜×全高1565㎜ライバルと比較すると全体的に古さを感じるが、最小回転半径5.3mと小まわり性は抜群

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
1961年生まれ、神奈川県出身。神奈川大学卒業。『月刊くるま選び』の編集長を約10年務めた後、フリーランスに。著書に『運転事故の定石』(講談社)など。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員