「新型コロナの影響で倒産する会社はビジネスモデルとして成り立たなかった。既存の業種から大きく異分野へ転換する企業も増えていくと思います」と語る渡邉哲也氏

新型コロナウイルスが、世界中で猛威を振るい続けている。「ヒト・モノ・カネの移動を自由にするグローバリズムが根底から覆され、今後、世界は大きくあり方を変えることになる」と指摘するのは、作家で経済評論家の渡邉哲也氏だ。

3月末の時点で、新型コロナが今後の世界経済に与える影響について考察した『「新型コロナ恐慌」後の世界』を発売した著者は今、何を語るのか?

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――新型コロナで世界が変わる前段として、米中貿易戦争があったと本書で説明されています。

渡邉 米中貿易戦争がメディアで報じられるようになって1年以上たちますが、ファーウェイ問題(米国の禁輸措置により、同社製スマートフォンでグーグルのサービスが利用できなくなったことに端を発した問題)などの個別の事象は知りつつも、全体の大きな流れや背景を理解できていない人が多すぎます。

米中貿易戦争という形で、今後は世界のブロック経済化が進み、東西冷戦時のような状態になっていくだろうという予想は多くの専門家が持っていたのですが、バンブーカーテン(アジアにおける共産主義陣営と反共主義陣営との境界線)を落とす具体的な時期や原因がなんなのかは誰にもわからなかった。結果としてそれが今回の疫病だったわけです。

これはある意味、専門家にとっても予想外でしたが、歴史的に見れば第1次世界大戦が終了した原因はスペイン風邪でしたよね。この風邪は結果的にさまざまな分断や国際的な流れをつくるレジームチェンジとなりましたし、今回も大きな変化が起きる可能性が高い。

――米中貿易戦争下で中国が発生源になり、世界に広がったことも意味があるのでしょうか?

渡邉 今回の騒動を通じ、中国の闇の部分が表出したといえるでしょうね。国内で感染者が確認されても中国共産党はそれを隠蔽(いんぺい)しようとし、感染が世界に広がってもWHO(世界保健機関)に圧力をかけることで緊急事態宣言の発令を見送らせました。

国連組織は一国一票制度です。中国は投資や経済支援などでアフリカや太平洋の小さな国を従わせ、国の指揮下にある人材を送り込んできた。

2007年にはWHOの事務局長選挙にマーガレット・チャンという香港の女性医師を推挙し、当選させましたし、現在のテドロス事務局長も中国から巨額のインフラ投資を受けているエチオピア出身。グローバリズムの恩恵を受けて発展してきた中国ですが、ここに来てそのツケを世界が被ることになったのです。

――新型コロナが終息すれば元戻りになるのでしょうか?

渡邉 元に戻ろうとする会社はあるでしょうが、その経営判断は誤っているでしょうね。2013年頃から、中国に加えてもう1ヵ国を拠点にする「チャイナ・プラスワン」という経営戦略が広まり始め、さらに2015年頃には脱中国を図る「チャイナ・フリー」を標榜(ひょうぼう)する企業も増加しました。

結果、中国への依存度は企業によって大きく異なっており、自動車産業だと、中国への依存度が高かった日産はすぐに生産を止めざるをえませんでしたが、東南アジアも拠点にするメーカーはその都市がロックダウンするまでは生産を継続することができました。

――そもそも中国は資本の移動に厳しく、企業が中国国内で得たお金を日本に送るのも大変です。なのに、なぜ中国にこだわる企業があるのでしょうか?

渡邉 企業としては今まで中国国内に投資したお金がありますから、それを全損で捨てられるのかという話です。送金できないとはいえ、帳簿の上では利益としてカウントされますし、撤退すればバランスシートが崩れてしまう。それができるような体力のある企業なら問題ないですが、新型コロナによる現状を考慮すると容易ではありません。

――本書で繰り返し言及されているのは「議会の総意として、アメリカは中国潰しをしようとしている」ということ。日本では、トランプ大統領が暴走しているように報じられがちですが、決してそうではない? 

渡邉 トランプが暴走しているように見える理由は簡単で、日本のテレビは引用元がCNNかABCだから。どちらもリベラル系メディアであり、トランプがやることなすことに批判的なんです。日本の新聞でたとえるなら、朝日新聞と毎日新聞だけを読み、産経新聞を読まずに判断しているようなものです。

――アメリカが中国潰しを加速させるなか、西側の一国として日本がどう振る舞うのかも重要です。今後すべき経済政策は?

渡邉 国内へのサプライチェーン回帰でしょう。これまで中国で生産していた商品を日本国内で作れば、雇用も生まれます。インバウンドなんてこの先何年も戻らないでしょうが、幸いわが国は島国で大陸に比べれば終息も早く、安全な国同士の渡航も再開されるはず。このように国によって交流再開の時間差が生まれ、それに伴って国家の枠組みも変わっていくでしょう。

日本で消費するモノを中国に依存していることが問題なのであって、何がなんでも中国から撤退すべきというわけではなく、中国で売る分は作ればいいと思います。それぞれの国で使うものをそれぞれの国で生産するビジネスでないと、この先成立しなくなるということです。

――生産拠点を日本に戻すとなると、どうやって対応すべき?

渡邉 ふたつの方法があります。まずひとつは省力化ですが、すでに多くの無人工場が生まれていますし、この先さらに増えていくはず。もうひとつは労働者の移動・再分配。

中国人観光客が来なくなった途端、経営が成り立たなくなるようなインバウンドビジネスに見られるように、これまではサービス業が過剰だったんです。今後は第1次産業、第2次産業の分野に労働者をどんどん移していく必要がある。それと同時に、終身雇用に近いような安定した雇用形態を再構築していくべきです。

その際、国がきちんと指針を示していくのも大事です。例えば「10年間は安定して国が製品を買い上げる」など。そうすれば企業としても10年間は労働者が必要になります。現にアメリカではトランプ大統領が企業を名指しして同様のことをやっています。ある意味、社会主義に近いですが、なんでも自由にやった結果が今なのです。

新型コロナの影響で倒産してしまう会社はビジネスモデルとして成り立たなかったということですし、既存の業種から大きく異分野へ転換する企業も増えていくと思います。

●渡邉哲也(わたなべ・てつや)
1969年生まれ。作家・経済評論家。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。大手掲示板での欧米経済、韓国経済などの評論が話題となり、2009年『本当にヤバイ!欧州経済』(彩図社)を出版し、ベストセラーになる。内外の経済・政治情勢のリサーチや分析に定評があり、さまざまな政策立案の支援から、雑誌の企画・監修まで幅広く活動している

■『「新型コロナ恐慌」後の世界』
(徳間書店 1500円+税)
長引く米中貿易戦争のなか、新型コロナウイルス感染拡大が広がった。「ヒト・モノ・カネ」の移動を自由にするグローバリズムが根底から崩れ、アメリカは議会の意思として中国切り離しを加速させ、その一方で習近平率いる中国共産党はますます独裁色を強めている。急速に変わる国際秩序のなかで、日本は中国、世界とどう関わっていくべきか――。話題作を連発する、気鋭の経済評論家が世界の様相を解説し、日本国民に指針を提示する!

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