変動金利の住宅ローンを返済中の人にとっては、金利上昇はバッドニュース。しかしこれから住宅購入を検討している人にとっては福音といえるかもしれない変動金利の住宅ローンを返済中の人にとっては、金利上昇はバッドニュース。しかしこれから住宅購入を検討している人にとっては福音といえるかもしれない
マンション市場の周辺がざわついている。その理由は、2013年以来約10年も続いている異次元金融緩和による極端な低金利政策が、この春の日本銀行総裁の交代で終わりそうなムードになってきたからだ。

その予兆は昨年の12月に現れた。20日に突如日銀が、長期金利の誘導目標上限を、それまでの0.25%から0.5%に変更したのだ。これは実質的な利上げに相当する。

それまで日銀の黒田総裁は、「異次元金融緩和の継続に変更はない。必要とあらばさらに緩和措置を拡大する」と明言してきただけに、突然の実質利上げはまさにサプライズ。その日の株価は急落して、円は急騰した。

「いよいよ低金利時代は終わる」

どうやらこれは自明のことだ。金融引き締めは、欧米を始めとした世界的な潮流である。日本もそういうことになれば、住宅ローンやアパートローン(投資向き)の借入金利も上昇する。それにしたがって不動産価格が下落する......というのが経済のセオリーだ。

ところが、大半の不動産業者たちの危機感は総じて薄い。

なぜか? その理由は、彼らは修正的に、目の前で起こっていることしか理解しないからだと思う。「この先、不動産価格は下落する流れにある」という経済法則による確実性の高い予測を示されても、多くの不動産業者は「ふーん」と頷くくらいだろう。

ただ、そういう業者ばかりでもない。ほんの一部の目敏(めざと)い業者は、ホールドしている物件を手早く処分し始めるだろう。それが今である。そういう動きは、順次一般消費者にも伝わっていく。

■返済額上昇も物件価格は据え置き?

一方、これからマンションを買おうと考えている人は、金利が上昇する局面を迎えてどう動けばよいのか。それはかなり難しいところだ。

金利が上がればマンション価格が下がるのは確実。しかし、それがハッキリと分かるまでには時間がかかる。例えば、この4月に日銀が政策金利を0.25%引き上げたとしても、その直後に新築マンションの販売価格が下落するなんてことはない。

おそらく住宅ローンの変動金利は0.3から0.5ポイント上昇するはずだ。現状0.4%前後の変動住宅ローン金利は1%近くまで引き上げられる。そうなれば、当然月々の返済額が上がる。

多くの人は月々の返済額から購入物件の予算を決める。だから住宅ローンの金利が上がると、購入予算を下げざるを得ない。それが市場には価格下落圧力となる。

ところが、マンション市場というものは株式市場ほど金利動向に対してビビッドには反応しない。金利上昇の影響が市場に表れ始めるのは、中古で数か月から半年後。新築なら1年はかかりそうだ。

だから、「今年はマンションを購入しよう」と考えている人にとっては、当面の間は「返済額は上がるけれど、物件価格は変わらない」という状況が続く。

■値引き交渉のチャンス到来

では、どうすればよいのか。

とりあえずできることは、新築でも中古でも、売り手側に粘り強い価格交渉を仕掛けていくことくらいだろう。市場が下降局面に入っていることは、不動産業者や売主の個人と企業にも徐々に理解されていくはずだ。

彼らの中には「早く売りたい」という焦りの気持ちを抱く人も出てくる。そういう売主の個人や企業に当たれば、値引き交渉もスムーズにまとまるのではないか。

日本ではアメリカのような短期間の急速な金融引き締め政策が行われるとは考えにくい。今年中に政策金利がせいぜい0.5%から1%のラインに達するかどうか、というレベルかと推測する。そうなれば、マンションも含めた不動産市場への本格的な影響の波及は、2024年以降と考えるのが妥当だ。つまり、マンション価格の下落は来年から、ということになる。

昨年末の日銀による「実質利上げ」は、黒田東彦総裁による10年に及ぶ異次元金融緩和の終焉を意味するのか......昨年末の日銀による「実質利上げ」は、黒田東彦総裁による10年に及ぶ異次元金融緩和の終焉を意味するのか......
下落スピードも、当初は金利上昇に合わせて緩やかなものになると想定できる。

そもそも、2013年の異次元金融緩和をきっかけに始まった、東京の都心やその周辺のマンション価格の値上がりは、中国や韓国、香港、台湾、そしてアメリカなどの一部地域とは異なり、さほど急激ではなかった。その上昇スピードは10年かけてほぼ2倍に上昇した程度。これに対して韓国の首都ソウルではこの5年で2倍。中国はこの20年で数十倍になったケースも珍しくない。

現状、山手線から数駅程度離れたところの新築ファンミリーマンションの価格は、1億円前後が相場観。これは東京在住の給与所得者の年収の20倍程度。50倍や100倍が当たり前となっている中国の主要都市や香港に比べれば、まだまだ安い方である。

しかし、適正な価格水準は年収の5倍から7倍という説もある。マンション市場の主要なプレイヤーである、多くの買い手(一般消費者)や売り手の個人や企業がそのことを意識するようになると、どこかで急激な下落=暴落が発生する可能性もある。

それは2025年以降ではないかと予想する。それまで待つのも一興だが、確実に暴落がやってくるとは言えないところが悩ましいのだ。

●榊淳司
住宅ジャーナリスト
1962年京都府生まれ。同志社大学法学部および慶應義塾大学文学部卒業。バブル期以降、マンションの広告制作や販売戦略立案などに20年以上従事したのち、業界の裏側を伝える立場に転身。購入者側の視点に立ちながら日々取材を重ねている。『マンションは日本人を幸せにするか』(集英社新書)など著書多数