あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「人生をいきなり豊かにする方法」について。

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スシローで迷惑行為をした少年の動画が物議を醸している。湯呑みをペロペロして戻したり、醤油のつぎ口に自分の口をつけたり、レーンの寿司に触ったり。各メディアを騒がせ、「テロ」とまで呼ばれた。同社の株価は下降したが、その後スシローを救おうと、さまざまな人たちが来店し応援。原稿執筆時点では株価は戻っている。

ただ、これをきっかけにスシローだけでなく、多くの飲食チェーン店内で撮影された同様の動画がSNSに溢(あふ)れた。酷(ひど)いのは使用済み爪楊枝(つまようじ)を戻すものまで。地獄かよ。

店側の対策として、たとえば「餃子の王将」はテーブルから調味料を撤去し、店員がオーダー後に配膳する形にした。SNSが流行する前にも同様の迷惑行為はあったが、SNSがバカ発見器と化し、問題客を炙(あぶ)り出しているだけなのか。あるいは、SNSでのバズりを目的に迷惑行為が増えているのか。これは統計データがないし、検証しようもない。

とはいえ、各種ファストフードチェーンでイタズラ動画を撮影した少年らは、その行為を「問題ない」と信じ込んでいただろうか。

おそらく、問題はあるけど、店に迷惑はかけているけど、面白いよねー、くらいの感覚だったはずだ。だから動画が拡散して批判された際に「なぜ悪いのだ」と反論するわけではなく、単に謝罪を繰り返すのだ。無邪気な罪。

もしこのようなペロペロ行為を闇バイトとして依頼し、飲食チェーンの株価の下落を狙って空売りをしたら? そんな可能性を予想する人もいる。たしかにそれが可能なら、企業を陥れるだけで儲かる。そんなことを許していいはずがない。

さらに話を広げよう。今回はSNSなどから身元バレにつながったが、もし外国人旅行者に依頼したら? 言語の壁があるのでネットの特定班も同様の活躍は難しいだろう。あるいは、SNSアカウントすら持たない人々に旅費込みで依頼したとしたら? 

また、たとえばAmazon Goで同様の行為が起きるだろうか、とも私は考えた。

Amazon Goはご存じのとおり無人店舗だ。お客は入店時にAmazonのIDでチェックインし、手に取った商品を多数のカメラが自動察知してアカウントに請求する。レジでの作業はない。この環境で、たとえばレタスをペロペロして棚に戻す行為がありうるだろうか。もちろんスシローでは客席が仕切り板で区切られており他客から見えないから、単純比較はできないが。

結論は以下二つのように思われる。

【1】諦める。そういう事故込みの低価格と割り切る。人を増やして監視するのはそもそもローコストオペレーションと相容れない。その代わり、迷惑行為等が判明した際には賠償請求を徹底し抑止を図る。

【2】訪問者の個人情報を得るか、カメラなどで完全に監視する。座席情報とクレジットカード・電子マネー決済情報とを紐づけ、誰であっても"やり逃げ"を許さない。

またスマホが進化すれば、動画をアップする際に「この動画は炎上し、身元が特定される可能性があります」と警告する機能があってもいい。

ところで最後に疑問。もし飲食チェーン店での迷惑動画が、AIを使った3D創作動画だったら? 責任はある? だれに? スシロー迷惑動画の投げかけた問いは深い。

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