社名は創業者の森藤寿吉から。知名度は高くないが、衣服やシューズ、バッグなどに製品が広く採用されている身近な企業だ 社名は創業者の森藤寿吉から。知名度は高くないが、衣服やシューズ、バッグなどに製品が広く採用されている身近な企業だ

『週刊プレイボーイ』で連載中の「坂本慎太郎の街歩き投資ラボ」。株式評論家の坂本慎太郎とともに街を歩き、投資先選びのヒントを探してみよう。金のなる木はあなたのすぐ近くに生えている!

今週の研究対象 
服のボタン(モリト)

「意識したことはないけれど、確実に自分の身の回りで製品が使われている」。モリトを評するなら、この言葉が一番シンプルだろう。街歩き投資の神髄をお楽しみあれ!

坂本 あ、シャツのボタンが取れかかってますよ。

助手 わ、危なかった! この服、けっこう高いんですよ。ボタンが取れたら大損害が出るところでした。

坂本 ブランド服のボタンなら、きっとモリトが扱っている製品ですね。

助手 モリトってなんですか?

坂本 服の付属品で世界首位の上場企業ですよ。同社は「繋ぐ・留める・飾る」をコンセプトに、ボタンやホック、服や靴にヒモを通す穴に取りつけるハトメといった製品を商社として扱うほか、自社でも企画・製造しているんです。実は「マジックテープ」の商標を持っているのもモリトだったりします。

助手 そんなニッチな商品を扱って上場してる企業があるとは驚きです。ボタンって、町工場みたいなメーカーが「最近は海外の安いメーカーが台頭して儲からないよ」なんて嘆いてるイメージでした。

坂本 確かに製造の下請けで中小零細メーカーが絡んでるけどね。高品質・高付加価値の商品を世界展開すれば十分儲かる。というか、むしろかなり手堅いビジネスです。

助手 え、このジャンルで日本の企業が海外展開しているんですか?

坂本 例えば金属ホックは世界2位のシェア。ジーンズのボタンやポケットのリベットも世界トップクラスですね。世界的トップブランドでも採用されているとか。

助手 アパレルって人件費が安い国で作ってると思うんですが、現地メーカーを押しのけてモリトがシェアを取れた理由って?

坂本 アパレル工場がある各地に拠点や代理店を置いて手厚い顧客フォローをしてるからね。自社とは直接関係があるわけではない打ちつけ用機械の供給やメンテナンス、操作指導まで対応して商品の不良を防いでいます。こういうサービスは日本企業に一日の長がある。

さらに、同社の製品が世界各地の品質基準をクリアしているのも大きい。アジアや欧米では、地域によっても品質基準が異なるんです。グローバルなブランドにとって悩みのタネですが、全基準をクリアしているモリト製品を使えば即解決できる。

助手 そういうことか。ただ、服ははやり廃りが激しいですよね。モリトの業績も不安定なんじゃ?

坂本 そこは大丈夫。同社は技術力の高さを生かして、ワーキングウエアやアウトドアウエア、メディカルウエアといった厳しい環境下で使われる服にもパーツを供給しています。これらの製品は景気や流行に左右されにくく、継続的に販売できる。

助手 確かにファッション目的以外の服は底堅そうですね。

坂本 そう。それに、同社にとってアパレル関連の売り上げは5割弱に過ぎない。ランドセルやシューケア商品、100円ショップの雑貨のOEMなどが4割弱、自動車内装部品などの輸送機器関連が15%とバランスの取れた売上構成になってるんですよ。

助手 輸送機器ってなんの関係が?

坂本 もともとはカーマットのズレ防止用にマジックテープが採用されて参入したらしい。現在では社名やメーカー名を示す「マットエンブレム」で国内シェアの約8割を占めています。内装部品だからEVになっても必要で、むしろ買い替え需要が追い風になるので要注目です。

助手 商材も展開地域も手広いなぁ。

坂本 それが、リーマン・ショックやコロナ禍でも赤字を出さなかった同社の秘密です。安定的な業績で高配当、長期投資にうってつけですよ。

今週の実験結果 
日常生活に欠かせないパーツを扱っているため、流行や景気に左右されにくいのが強みですね

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坂本慎太郎

坂本慎太郎さかもと・しんたろう

こころトレード研究所所長。ハンドルネームは「Bコミ」。日系の証券会社でディーラー、大手生命保険会社で株式、債券のファンドマネジャー、株式のストラテジストを7年間経験。ラジオNIKKEIや日経CNBCなどの投資番組へのレギュラー出演多数。著書に『プロ投資家が教える副収入1000万円の最短コース』(BEST TIMES books)など
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