今年で、芸能デビュー5周年を迎えた、女優・吉岡里帆。その節目節目で出会った人たち、作品たちが今の彼女を確かに形づくっている。

TBSドラマプロデューサー佐野亜裕美さんもそのひとり。ドラマプロデューサーから見た吉岡里帆とは......。

■「次に彼女と仕事するなら『大奥』のような作品で」

『カルテット』の物語世界を広げてくれるインパクトのある役者さんを探していた頃、脚本家の坂元裕二さんと相談するなかで目に留まったのが『ゆとりですがなにか』(2016年)で教育実習生を演じていた吉岡さん。かわいくて愛想もいいんだけど、不思議と目だけが笑っていない。それが印象的で「あれは怖いね」なんて話していたら、いつの間にか坂元さんは吉岡さんにアテて台本を書いていました(笑)。

吉岡さんに演じてもらった来生有朱(きすぎありす)は、すごく世俗的なキャラクターです。お金が欲しい、のし上がりたいといつも思っていて、そのために男をたぶらかすことも厭(いと)わない。そんな危なさがあるんだけれど目が離せない女性を、『ゆとり...』のときの底知れぬ冷めた目を見て、「彼女ならやれる」と思ったんです。

現場での彼女ですか? 初登場のときは「大丈夫かな」って心配になるくらい緊張していたんですけど、すぐにしっかり仕上げてきてくれましたね。

満島ひかりさんと寝転び、顔を近づけながら男を誘惑する術を艶っぽく説くシーン(3話)。松たか子さんと満島さんを前に鬼気迫りながら「大好き、大好き、殺したい!」って夫婦の殺人心理を語るシーン(第5話)。モニターでチェックしながら、ずっとどきどきしていました。

覚えているのは「私なりの有朱をつくっていいですか?」と聞かれたこと。坂元さんの台本って、主人公クラスのキャラクターの設定は10枚以上にわたり細かく書かれているんですけど、それ以外の役は3、4行くらいしかないんです。それで吉岡さんは、台本の行間や現場の様子から自分で想像してその空白の部分を埋めてくれたんです。

例えば有朱の実家のシーン(3話)。子供時代にもらったであろう賞状が何枚か飾ってあったんですけど、そこから"きっと有朱は親から切実に認めてほしがっていた少女だったのかな"と読み取ったり。

『ゆとり...』『あさが来た』などでタイプの異なる役を演じていたので、私は最初、吉岡さんのことを器用な役者さんなのだと思っていました。でも、実は違うんですね。練習や研究を懸命に重ねて、自分の中のハードルをひとつずつ乗り越えてきたーーそういう人なんだということが次第にわかってきました。

そういえば吉岡さんが現場で、突然泣き出したことがありました。有朱が、バイト先の妻帯者の店長を誘惑するのですが、拒絶されてお店を追い出されるシーン(8話)。そこを撮った後のことです。有朱は決してまっとうな人間ではないけれど、彼女には彼女なりの正義があったわけでー-でもその場面の有朱は、吉岡さんがそれまで自分でつくり上げてきた有朱像と少しギャップがあって、もしかしたらそのことがつらかったのかもしれない。理由を聞くことはありませんでしたが、私はあの涙の理由をそう解釈しています。

その後、最終話で有朱はお金持ちの外国人男性をはべらせて再登場することになるんですけど、そこまで自分の役に身も心も注いでくれる女優さんはなかなかいないので、びっくりしましたね。

もし、次に吉岡さんとお仕事をするなら『大奥』みたいに女性だらけの場を牛耳る役を与えたいですね。影の実力者とか(笑)。

彼女はきらきらした主役も、ちょっと癖のある助演でも、なんでもできるタイプの女優さんだと思うので、もちろん正統派もいいんですけど―私にとっての彼女はやっぱり、「何かあるんじゃないか」と思わせてくれるどこか妖しい存在。そんな底知れぬ部分をもっと見てみたいです。

■佐野亜裕美
TBSのドラマプロデューサー。1982年生まれ、静岡県出身。2006年TBSテレビ入社。作品は『カルテット』をはじめ、『潜入探偵トカゲ』『刑事のまなざし』『おかしの家』『ウロボロス~この愛こそ、正義。』『99.9』など多数。現在、日曜劇場『この世界の片隅に』を手がける

このほかのキーパーソン8名のインタビューは週刊プレイボーイ31号でお読みいただけます。

●週刊プレイボーイ31号『吉岡里帆と週刊プレイボーイの1501日間 Special Document』より

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