今年で、芸能デビュー5周年を迎えた女優・吉岡里帆。その節目節目で出会った人たち、作品たちが今の彼女を確かに形づくっている。

今回、語ってくれたのは、脚本家大森美香さん。脚本家から見た吉岡里帆とは......。

■「宜のメガネキャラは吉岡さんが生みました」

吉岡里帆さんのお名前を最初に見かけたのは『あさが来た』のヒロインオーディションの最終選考会場です。そこでは私が書いた台本を全員に読んでもらうんですけど、ひと言ひと言噛み締めるように読んで印象に残った女性がいました。それが吉岡さんだったんです。かなり緊張していたと思います。でも真摯(しんし)に役に向き合おうとする姿勢と一生懸命さが伝わってきました。彼女には視聴者の胸に迫る何かがある。そう思い、ヒロイン以外の役でも出演してほしいとスタッフに話しました。

再び彼女の名前を聞いたのは物語の後半。ヒロインのあさの娘、千代の友達・田村宜(のぶ)役に吉岡さんが決まったと連絡があったんです。うれしく思いましたけど、少し戸惑いもあって。というのは当初、宜は本当にスタンダードな女友達を考えていたんです。千代とも普通に仲のいい間柄で、いまどきの女学生の感じを出そうと。

でもせっかく吉岡さんに決まったのだから、彼女にアテて宜を書き換えることにしました。彼女のまじめさを打ち出した人物にして、お嬢さまの千代との対比で見せたほうがドラマ的にも面白いんじゃないかと閃(ひらめ)いたんです。

そのときに思いついたのがメガネキャラ。宜のモデルとなった井上秀さんはかけてないですけど、メガネをかければ彼女のまじめさがそのまま伝わるし、視聴者からも「変わったコが出てきたな」「応援したいな」と思ってくれるんじゃないかって。

当初、監督はメガネで光が反射して顔が見えなくなることを心配していましたけど、次第にそれが宜の個性になっていきました。思ったとおり千代とのバランスも抜群。宜のシーンは毎回、わくわくして書いていましたね。

私が宜に言わせて気に入っているセリフはいくつかあるんですけど、あさを前に力みすぎてつい出てしまった「僕は田村宜と申します!」(126話)、千代の失恋相手について憤りながら語った「うち今から東京行って、あのエリート凌雲閣の上から吊るして、脅かしたったかてええのやで」(141話)は、特に好きですね。共にまじめでひたむきな吉岡さんが演じてくれたからこそ、絶妙に聞こえたんだと思います。

私自身、東京でずっと缶詰になって脚本を書いていたので、大阪の撮影現場には顔を出せず、吉岡さんと初めてちゃんとお会いしたのは脚本が書き上がり、クランクアップが見えだした頃です。ご本人の印象ですか? とても明るくて、かわいい方だなって。しかも場所が撮影現場で、役衣装を着ていたので、「本物の宜ちゃんがいる!」と思わずうれしくなりました。

最終話で、海外留学から帰国した宜が洋装で現れるんですが、洋装は私が最もさせたかったことなんです。女学生として登場した彼女が海外に出て、立派になって戻ってくる。新しい日本女性の象徴でもある宜の姿をしっかりと見せたかった。吉岡さんのお芝居も見事でした。最初に見たときの緊張でいっぱいだった頃の姿は、そこにはもうなかったですね。

■大森美香
1972年生まれ、福岡県出身。短大卒業後、フジテレビの契約ADなどを経て1998年ドラマ『美少女H~17歳の記録』(フジテレビ)で脚本家デビュー。手がけた作品は連続テレビ小説『あさが来た』(NHK)ほか多数。近作は『未解決の女 警視庁文書捜査官』(テレビ朝日)

このほかのキーパーソン8名のインタビューは週刊プレイボーイ31号でお読みいただけます。

●週刊プレイボーイ31号『吉岡里帆と週刊プレイボーイの1501日間 Special Document』より

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