キン肉マン64巻発売記念対談! ゆでたまご・嶋田隆司先生(左)と『週刊少年ジャンプ』連載中『火ノ丸相撲』の川田先生。残念ながら、川田先生顔出しNGです

今年2018年に創刊50周年を迎え、六本木ヒルズでの「ジャンプ展」をはじめ様々なお祝い企画が進行中の「週刊少年ジャンプ」。その記念号となる33号(2018年7月14日発売)表紙にて、現役連載作家が各々自作の主人公と一緒に、敬愛するジャンプ作品キャラをひとり選んで描き下ろすという企画が行なわれた。

そこで同誌連載中『火ノ丸相撲』の作者・川田先生が『キン肉マン』の主人公・キン肉スグルを選んだことをきっかけに、ゆでたまご・嶋田隆司先生との両作作者同士の対談が実現!

前編では、おふたりの共通点である"プロレス談義"から、"漫画論"へ花を咲かせた。後編では、『週刊少年ジャンプ』の礎(いしずえ)、「友情・努力・勝利」へのおふたりの熱き思いを伺う。

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嶋田 そういえば、『火ノ丸相撲』って、ジャンプでの連載の初回からいきなり目を引かれましたよね。

川田 その頃から見ていただけているんですか?

嶋田 あれは見ますよ(笑)! 火ノ丸が電車の中で痴漢を捕まえて、でも彼自身がマワシ姿だったから逆に痴漢と間違えられるっていう。あのツカミは最高だったと思いますね。あれ見て、ゲラゲラ笑いましたもん(笑)。

川田 ありがとうございます!

嶋田 言い方は悪いけど「なんやこの漫画!」って(笑)。昔、僕らもジャンプで言われたんですよ。主人公が初登場する時にシュッとして颯爽(さっそう)と現れるなんていうのは、絶対にやっちゃダメだって。 そんなことしたらなーんも読者の印象に残らへんよって。そこはやっぱりね、マワシ姿で電車に乗るくらいのことはしないと(笑)。

だからキン肉マンだって最初はそうしましたもん。カッコよく地球を守るつもりで出撃するんだけど、実際にはカッコ悪いことしかできなくて何の役にも立たなくて、でも本人は至って真面目にそれをやってる。『火ノ丸相撲』の第一話を見た時に、その感じを思い出したんです。「ああ~そうや、これこそ少年漫画の王道やんな~!」って、うれしくなったんですよね。

川田 いやぁ、ゆでたまご先生にそこまで言っていただけるとは恐縮です。でもまさにおっしゃる通りで、相撲って馴染みのない人からすると変な誤解がたくさんあって、不当にマイナスイメージで見られることも実際多いと思うんですよ。マワシ姿ってほとんど裸でカッコ悪いとか。太ってる人がやるスポーツだとか。

嶋田 ありますよね。

川田 でもいつか最終的には、そういう謂われのないマイナスイメージを崩していければいいなぁと思って始めたところはあります。最初はそうやって半分ギャグに見えたものが、徐々にカッコよく見えてくるようになればいいなぁと。万が一、人気が出なくて10話くらいで打ち切りになったとしても、そこだけはしっかり主張して爪痕残したいなぁと思って始めました。

嶋田 それが打ち切りどころかもう連載4年ですよね。この秋からアニメ化まで決まっておめでとうございます。

川田 ありがとうございます。もちろん10週で終わるつもりはなかったですけど、逆にこんなに長く続けさせてもらえるとも思ってなかったので......今でも不思議な感じですね。

それでもその最初の思いはずっと忘れることなく続けてます。よく知らない人からはカッコ悪いと思われてるであろう相撲取りが、誰の目から見てもカッコよく見えてきたらこの漫画は成功なんだろうなって。


『少年ジャンプ』は毎週目を通しているという嶋田先生ですが、なかでも一押しは『火ノ丸相撲』

嶋田 そこはキン肉マンの成長と少し似てるところもあるかもしれませんね。キン肉マンも最初のギャグ時代は人間たちからブサイクって言われてたじゃないですか。それが次第に子供たちからカッコいいって言われるようになって、それは僕もうれしかったですね。

川田 目指したいですね。ああいう風に育っていってくれたらというのは理想としてあります。

嶋田 上手くいってるんじゃないですか。部長もいつの間にかカッコイイ頼りがいのあるキャラになりましたし。

川田 はい、まさにその部長の小関(信也)はそこを課題として描いていたところがあります。最初は相撲部員に対するマイナスイメージの塊(かたまり)みたいな感じで、太ってて、マイナースポーツと笑われながらひとり頑張ってて。でもいつか彼がカッコよく見えるように、という思いはありました。ジャンプという雑誌で、その変化を多くの人に見てもらいたくて。

嶋田 日本一の雑誌ですから、そこは目標になりますよね。僕らも日本一になりたくて、日本で一番売れてる雑誌である週刊少年ジャンプを選びました。だから手塚賞・赤塚賞にこだわって応募したんです。

川田 はい、それに純粋に好きな漫画雑誌でしたからね。それだけにジャンプでやってる以上"友情・努力・勝利"は大事にしたいなという思いは今もずっとあります。

嶋田 特に"友情"は強く感じますね。高校生編までの学生相撲だと個人戦の他に団体戦があるじゃないですか。そこは友情が真正面から描きやすくてうらやましいなと思いました。でも今の現役のジャンプ作家さんでも"友情・努力・勝利"という言葉は意識されるものなんですか?

川田 僕の場合はかなり意識してます。そんなものは実はジャンプにはないという意見も時々聞きますけど、僕はやっぱり『キン肉マン』こそジャンプの王道だと思って育ってきた人間なので......。むしろ「それがなければジャンプじゃないだろ!」というくらいのつもりでずっとやってます。

嶋田 "友情・努力・勝利"ってジャンプ創刊の頃のアンケートで、子供の好きな言葉を上から3つ並べたものなんですよね。でもだからと言って"友情・努力・勝利"を漫画に入れろなんて言われたことは、僕らも一度もなくて。

たまたま僕らの描きたい漫画を描いてたらそういう風になってただけなんですけどね。あとで、人に言われて気づいたんですよ。『キン肉マン』には"友情・努力・勝利"全部、入ってるなって。

川田 でもそれがまさにジャンプの王道の姿だと僕は思うんです。『キン肉マン』がそうだった頃からずっと、少なくとも僕が読者として読んできた歴代のジャンプ作品はみんなその空気を纏(まと)ってたと思うんです。

雑誌の持つそんな佇まいが僕は好きでしたから、僕がジャンプで描かせてもらってる間は、たとえ「今のジャンプはそうじゃない」と言われたとしても抵抗して(笑)、僕だけは頑(かたく)なにその伝統を守るつもりでやっていきたいです。

対談後半になってくると、川田先生の表情も穏やかに

嶋田 だからかな~。『火ノ丸相撲』読んでたら、僕らもまだ負けてられへんなぁと思うんですよ。実は数年前に僕ら、『グランドジャンプ』でウルフマンが主役の読切を描いたんです。

川田 もちろん拝読しました。ウルフマン、すごくカッコよかったです!

嶋田 あれね、正直言うと『火ノ丸相撲』の影響なんですよ(笑)。

川田 ええー、そうなんですか!?

嶋田 『火ノ丸相撲』見てると競技は違いますけど僕らと同じ格闘技系の漫画ではありますから、そうなると昔のジャンプで『北斗の拳』や『キャプテン翼』と闘ってた頃の感覚が少し蘇(よみがえ)ってくるんです。「よーし、この漫画に負けないような作品つくるぞ!」って、モチベーションになりますよね。

川田 それはうれしいですけど畏(おそ)れ多いご評価ですね。でもやっぱりウルフマンはカッコイイですよ。今連載中の『キン肉マン』の新シリーズでもつい先日、ウルフマンの試合があったの拝読しました。(オメガ・ケンタウリの六鎗客の)ルナイトとの試合もめちゃくちゃカッコ良かったですね。

嶋田 あの試合も結構『火ノ丸相撲』意識してやりました。

川田 ええー、本当ですか!? そう言っていただけるとうれしいですね。さっきは名前出しませんでしたけど、僕も相撲の漫画描いてるくらいですから、やっぱりウルフマン好きなんですよ。

最初はキン肉マンの強力なライバルとして出てきて、でもどんどんその立場から置いていかれて不遇の時代を過ごして、それが今また日の目を見て、あんなカッコイイ試合をやってくれるんだから......いやぁ、あれは本当にいい試合でしたね。

嶋田 ありがとうございます。でもそれを言うなら『火ノ丸相撲』も、相撲以外の格闘技の描写まですごくしっかりされてますよね。國崎千比路(くにさき・ちひろ)のレスリング技術の描写も、僕からも見てもかなり堂に入ってていいなと思いましたよ。相手のバックに回って回転して。

川田 ありがとうございます。そういう描写は特に気をつけないとと思ってるんですけど、ゆでたまご先生にそう言っていただけると安心します(笑)。

嶋田 だから技にしてもそうやって相撲技以外のところから引っ張ってきて融合させて、リアリティを持たせつつ説得力のある描き方がまだまだたくさんできる方なんだろうな、という可能性は読んでいて感じますね。

川田 うわ~、そこまでお誉めいただくと恐縮してしまって、どうお言葉を返せばいいのかわからなくなりますけど、でも本当にうれしいです。ちょうどそろそろ新技も考えないといけない時期ですので......いやぁ、でも新技考えるの、本当に苦手なんですよね(笑)。

嶋田 そんなの僕らも一緒ですよ! 新技って本当に大変ですよね~(笑)。

川田 え、あんなにたくさんの超人技を生み出してこられたゆでたまご先生でも、そうなんですか?

嶋田 そんなのいつもギリギリですよ。僕らも新技考える時は毎回、四苦八苦しながらですもん。もうこれ以上ないわ!ってボヤきながら(笑)。

川田 ああ、そうなんですか。意外なお答えでしたけど、ちょっと勇気出ますね(笑)。じゃあせっかくそうおっしゃっていただけたことですし、プロレス技なんかも参考にしつつ頑張ってみます!

必殺技を生み出す苦労は40年近くやっていても変わらない

嶋田 展開も楽しみですよね。どっちが勝つかわからない試合が多いので、いつも読んでてハラハラします。

川田 ありがとうございます。でもそれをおっしゃるなら『キン肉マン』もそうですよ。特に今の連載の展開だとどっちが勝つ流れもありうる場合が多いので読めないですね。

嶋田 僕らの場合は、やってみたノリで流れ決めるようなところもありますから(笑)。

川田 え、じゃあどっちが勝つか決めずに試合を始められることもあるんですか?

嶋田 今は少なくなりましたけど、たまにありますよ。昔だとウォーズマンとペンタゴンの試合なんかどっちが勝ってもいいなぁと思って始めましたし。

川田 そうなんですか!? じゃあウォーズマンが序盤で消えてた可能性もあったんですね。

嶋田 ありましたね。そこは読者の反応見ながら決めていきました。川田さんも試合の勝敗を決めないまま描き始められることはありますか?

川田 いや、僕はさすがにそこまではないですけど(笑)。......あ、でも前に天王寺(獅童/てんのうじ・しどう)と久世(草介/くぜ・そうすけ)っていうボス格のキャラ同士を闘わせたことがありまして、あの時はどっちが勝つのもアリでしたから、描きながら決めていったようなところはありました。

嶋田 なんだやってるじゃないですか! それゆでたまご方式ですよ(笑)。

川田 (笑)。でも言われてみると僕も結構、ライブ感で描いてることが多いですね。その方が気持ちも入りますもんね。

嶋田 受け継いでくれてるのかどうかはわかりませんけど、その辺の作り方が少し似てたのは僕もちょっとうれしいですね(笑)。

川田 はい、やっぱりそこの熱さはジャンプの伝統として。これからも受け継いでいきたいところだと思ってます!

――最後になりますが、お互いの作品へのエールのお言葉をそれぞれいただけますでしょうか。まずは川田先生から。

川田 昔のジャンプ時代の『キン肉マン』はもちろん大好きだし面白いんですけど、今の新しいシリーズの連載も本当に面白いんですよね。今でも毎週、僕の楽しみのひとつになってますので、これからもずっと描き続けていただくことが僕からの一番のお願いです。

そのためにもぜひお体に気をつけていただいて......あと個人的にウルフマンの試合がもっと見たいので、ぜひよろしくお願いします(笑)!

――では嶋田先生からも川田先生にひと言お願いします。

嶋田 今のジャンプでは必須ではなくなっているのかもしれない"友情・努力・勝利"という3要素が全部入った作品が『火ノ丸相撲』だと思ってて、僕はやっぱりそういう作品が大好きですから。もしその3つの言葉が本当にジャンプから消えてしまったら僕はさみしくて仕方がなくなると思うんです。

でも川田さんが描き続けてくれる限りその心配はないというのが今日お話させていただいてよくわかりました(笑)。だからそんなジャンプの魂を守るつもりで、ずっと描き続けてください。よろしくお願いします!

――本日はお忙しい中、両先生とも楽しいお話をありがとうございました!

川田先生、渾身の帯にも注目! 
最新キン肉マン64巻 好評発売中!!

定価:本体440円+税

キン肉マン64巻特設ページにて、アラフォー男子感激の動画公開中!

川田かわだ
『黒子のバスケ』藤巻忠俊先生のアシスタント時代を経て、週刊少年ジャンプ誌上にて2014年26号より相撲をテーマにした『火ノ丸相撲』を好評連載中。コミックスは1~21巻が好評発売中。2018年10月からは同作のテレビアニメ化も決定している