依存症は遠い存在ではなく、普段の生活と紙一重なのです

ミュージシャンで俳優のピエール瀧こと瀧正則容疑者が麻薬取締法違反容疑で逮捕された。芸能界にも激震が走り、出演中だったNHK大河ドラマも撮り直しになるなど多大な影響が出ている――。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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ピエール瀧さんとはかつて週1回のラジオの生放送で共演していました。報道によると、20代の頃から薬物を使用していたと本人が述べているようです。共演していた3年ほどの期間に使用していたのかどうかはわかりません。当時、変わった様子はありませんでした。

何か事件が起きると「まさかあの人が」「でもそういえばあのとき......」という話が出てくるけど、そんなの後づけでどうとでも言えますよね。

私は、人は皆えたいの知れないものだと思っています。見えているのとは全然違う面があって当たり前で、いいところもそうでないところも複雑に混ざっているのが生身の人間。長く付き合っている友人や家族でも、相手の弱さや悩みに気づかないことはいくらでもあります。自分自身のことですらわからない。

瀧さんとはラジオの生放送でお互いに真剣にしゃべっていたし、楽しい日も穏やかな日も意見が違う日も、いろいろありました。生放送で2時間半しゃべるって、すごく打ち解け合うというか、近いところでぶつかり合うことでもあるので、ラジオ共演者同士の独特の共闘感があります。互いにリスペクトするというか。でも必要以上に深掘りしない適度な距離感も、いい放送を続ける上では大事です。

逮捕には驚きましたが、感情的な言葉で語るべきではないと思っています。一日も早く、依存症の治療につながることを願っています。

この件では、評論家の荻上チキさんなどから、報道の姿勢を疑問視する声が上がっています。白い粉の映像や使用方法の解説は薬物依存症からの回復途上にある人の妨げになったり、新たに依存症に陥る人を生みかねないこと。バッシング報道を見て、まさに今、依存症に悩んでいる人が誰にも相談できなくなり、支援につながれなくなってしまうこと。著名人の逮捕を面白おかしく騒ぎ立てるのではなく、世の中から薬物依存症をなくすために役に立つ報道を、ということですね。

『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)という本を書いた精神保健福祉士の斉藤章佳さんは、痴漢行為は依存症であると述べています。性欲が動機とは限らず、仕事のストレスや支配欲など、抑圧を抱えた人がたまたま満員電車で手が触れたことをきっかけに、痴漢をするようになってしまう。誰でもなる可能性があるそうです。依存症は遠い存在ではなく、普段の生活と紙一重なのです。

アルコール、ギャンブル、薬物、セックス、買い物、いろいろな依存症があります。私もかつては摂食障害のひとつである過食嘔吐(おうと)という、いわば食べ吐き依存症で10年以上苦しみました。

やめたくてもやめられずにいる人を回復プログラムにつなげ、繰り返さないようにすることが大事だと知ってほしいです。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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