2017年4月6日に行なわれた「欅坂46 デビュー1周年記念ライブ」。その開演前、けやき坂46の面々はグループの追加メンバーを募集する告知VTRを偶然目にしてしまう。

けやき坂46が今の12人体制ではなくなってしまうことにショックを受けるメンバーたち。一時は「もうみんなで辞めよう」という声も上がったが、スタッフの説明を受けてなんとか思いとどまった。

だが、これをきっかけにしてメンバーたちの間に新たな意識が芽生える。「これからは欅坂46のアンダーグループではなく、けやき坂46というひとつのグループとして認められたい」。そこから"ひらがならしさ"というものを模索する日々が始まった。

そして同年5月31日に迎えたZepp Namba公演では、セットリストも大幅に変わり、新しいけやき坂46を印象づけた。

■「みんなで東村を信じてみよう」

Zepp Namba公演を終えた夜。メンバー、スタッフらは、地元の飲食店で打ち上げを行なっていた。

メンバーたちがひとりひとり立ち上がって、ライブの感想と次のZepp Nagoya公演に向けた意気込みを語っていった。皆明るく堂々としていて、あの悔いが残ったZepp Tokyo公演の後とは見違えるような顔つきをしていた。

この日、地元の奈良からライブを見に来た家族の前で歌った東村芽依も、いつもより少し誇らしげな表情を浮かべ、ほかのメンバーと楽しい時間を過ごしていた。

実はこの日の本番前。リハーサルを行なっているステージ上で、東村は涙を流していた。欅坂46の平手友梨奈と長濱ねるが歌うデュエット曲『微笑みが悲しい』を高瀬愛奈と歌うことになり、最後の確認を行なっているときだった。

けやき坂46のメンバーになるまで、カラオケで歌うのも恥ずかしくてひとりではマイクも持てなかった東村は、大きなライブハウスで客を前にして歌うということを極端に怖がっていた。

実は、彼女がこんな状態になるかもしれないということはスタッフも懸念していたことだった。いつもおっとりしていて声が小さく、グループの中でも一番の泣き虫だった彼女に、ソロパートの多いこの曲を担当させるのは時期尚早にも思われた。

スタッフの間からはこんな声が上がった。

「東村は大丈夫かな。今日の本番で失敗してそれがつらい思い出になったら、パフォーマンス自体が嫌いになってしまうんじゃないかな。......でも、これを乗り越えないと成長できない。みんなで東村を信じてみよう」

結果的に、本番で東村はこの曲を見事に最後まで歌いきり、周りのメンバーやスタッフからも「よかったよ」と褒められることになった。

さらに、約1ヵ月後の7月6日に行なわれたZepp Nagoya公演では、ユニット曲である『青空が違う』や『乗り遅れたバス』に参加しただけではなく、欅坂46の曲の中でも激しいダンスで知られる『語るなら未来を...』でそのポテンシャルの高さを示した。この曲は、東村自身もずっとチャレンジしたかった曲だった。

3月から始まった全国ツアーを通じて、東村のパフォーマーとしての素質は急速に開花していった。そしてそれを促したものこそ、彼女自身の泣き虫な性格だった。

■今の自分から目をそらさない強さ

中学校の部活で、東村はカラーガードという競技に取り組んでいた。これは、レプリカのライフルやフラッグなどを使ってマーチングを盛り上げる団体パフォーマンスの一種で、ダンスの要素も含まれているものだった。

競技人口こそ少ないものの、東村の所属する部は全国でもトップの強豪だった。東村自身もこのカラーガードに熱を入れており、中学を卒業して高校生になってからもOBチームの一員として活動していた。もともと小学校のマラソン大会では5年連続学年1位になったほど基礎体力に恵まれていた東村は、このカラーガードを通じて高い運動能力をも身につけていった。

しかし、そのカラーガードの技術を生かしてプロのパフォーマーになろうといった夢はなかった。この頃の彼女は、将来は歯科衛生士になりたいと思っていた。特に理由はなく、なんとなく決めた進路だった。

そんな彼女だったが、高校2年生の秋に姉からけやき坂46のオーディションを勧められた。彼女がこのオーディションに応募することにした理由は、「体を動かすのが好きだから」というものだった。

このオーディションの時点では、スタッフらは東村に特別なパフォーマンスの才能は感じなかったという。それもあってか、グループに入ってからもレコーディングやダンスのレッスンになるとすぐに泣きだす彼女を見て、「この先このコは大丈夫なんだろうか」と不安にさせられるばかりだった。

しかし、彼女が泣くのはただ弱いからではなかった。実はその胸の内には、自分に課した高い要求とそれを乗り越えられない自分へのもどかしさがあった。

「なんで思ったように歌われへんのやろう。悔しいな。自分がうまくパフォーマンスできへんことが悔しい」

彼女には、今の自分から目をそらさずより高みを目指せるだけの本当の心の強さがあった。それは、カラーガードの全国大会で金賞を取ってもそれに満足せず、練習に打ち込み続けた中学生の頃からなんら変わっていない彼女の長所だった。

だから、東村芽依は涙を流すたびに成長していった。Zepp Namba公演で『微笑みが悲しい』を任されたときも、リハーサルでは泣いていたのに本番が終わった頃にはその経験を自信に変えていた。この全国ツアーでは、後に『世界には愛しかない』のポエトリーリーディングや、欅坂46の曲の中でも最高レベルの難易度を誇るユニット曲『AM1:27』の歌唱メンバーに抜擢されることになるが、それらをひとつひとつ乗り越えていくたびに、その歌声はより大きく、ダンスはより力強くなっていった。

あるとき、取材用に渡されたアンケートに「好きなことは?」という質問があった。東村は、回答欄に堂々とした文字で「歌とダンスです」と書いた。

2017年7月22、23日に行なわれた「欅共和国 2017」で、『W-KEYAKIZAKAの詩』を歌う欅坂46/けやき坂46のメンバーたち


■ステージの裏で流されたふたつの涙

Zepp Nagoya公演の後、けやき坂46の全国ツアーは9月まで中断された。その間は前年に続いて欅坂46の夏になった。

欅坂46はこの年初めて全国ツアーを行ない、ひと月のうちに6会場で11公演を行なった。それに加え、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017」や「SUMMER SONIC 2017」といった複数のフェスに出演。さらには各局の音楽特番にも軒並み出演した。

そのとてつもなく多忙な夏の幕開けとなったのが、7月22、23日に行なわれたグループ初の野外ライブ「欅共和国 2017」だった。実は、4月の1周年記念ライブの出来に悔いを残していた欅坂46のメンバーにとって、この久々の大舞台はリベンジの場でもあった。

ライブ本番は、フラッグを手にした欅坂46メンバーによるマーチングパフォーマンスで幕を開けた。そして花火を合図に、冒頭から『サイレントマジョリティー』『世界には愛しかない』『二人セゾン』というシングル表題曲が立て続けに披露された。約2時間半のステージを通して、客席への放水など、今までの欅坂46のライブにはなかったハイテンションな演出も次々と繰り出された。

一方、けやき坂46は、欅坂46とともに歌う『W-KEYAKIZAKAの詩』をはじめとする4曲を歌唱。合間のダンストラックでは、齊藤京子が欅坂46の鈴本美愉と差し向かいでパフォーマンスをするという場面もあった。

鈴本と言えば、ダンスのキレ・力強さ・表現力のれにおいても、圧倒的な技量を誇るグループ屈指のパフォーマーである。その鈴本と向かい合って踊ることが決まってから、齊藤は必死で練習を重ねた。レッスンでは、欅坂46/けやき坂46のすべての楽曲の振り付けを行なっていたダンサーのTAKAHIROからも直接アドバイスを受けた。

そこで齊藤が自分で考えてきた振りを実演して「どうですか?」と聞くと、TAKAHIROは「もっと思いっきりやっちゃえ」とハッパをかけた。

失敗を恐れず思いきりぶつかることができるのは、追う者の唯一の強みである。本番では、齊藤はかつてないほどの振り切った踊りを見せた。この夏、自分の殻を破ったのは東村だけではなかったのだ。

しかし、最終日となる2日目のラスト、けやき坂46メンバーにとって再び転機になる出来事が起こった。

前年のクリスマスに行なわれた「欅坂46初ワンマンライブ in 有明コロシアム」以来、こうした全体ライブのラストは『W-KEYAKIZAKAの詩』で締めることが恒例になっていた。たとえ参加楽曲が少なくとも、けやき坂46のメンバーもここでステージに立ってファンに最後の感謝を伝えることができた。今回の「欅共和国」の初日も、そのようにして終えた。

だが、2日目はアンコールで『W-KEYAKIZAKAの詩』を歌った後、Wアンコールが起こり、欅坂46だけで新曲『危なっかしい計画』を初披露した。この曲は直前に発売された欅坂46の1stアルバムに収録されていたもので、夏のフェスにふさわしい弾けた曲だった。

このサプライズでの新曲披露に会場は熱狂し、欅坂46のメンバーも汗を振り絞って全力のパフォーマンスで応えた。歌唱後、興奮状態のまま観客に一礼をする欅坂46メンバーのイヤーモニターに、「おまえら最高だよ!」というスタッフの声が飛び込んできた。

そして欅坂46のメンバーたちがバックヤードに戻ったとき、平手友梨奈が突然うずくまって泣きだした。そして涙声で「みんなのこと大好きだよ」と言うと、その場にいた全員が肩を寄せ合って号泣した。グループ一丸となって作り上げた完璧なラストシーンに、誰もが深い満足感を感じていた。

しかし、そのときバックヤードではもうひとつの涙が流されていた。

「うちらも最後の挨拶したかったねぇ」

清々しい笑顔でステージを降りてきた欅坂46のメンバーを見ながら、加藤史帆が泣きじゃくって言うと、佐々木久美ら周りにいたメンバーも声を上げて泣いてしまった。実は、彼女たちにとってライブの最後の挨拶はひと際重要な意味を持っていた。たとえ曲数は少なくとも、いつも欅坂46の後ろに立っていても、自分たちもライブを作っている一員なんだ――。そんな気持ちを最も強く感じられる瞬間が、この最後の挨拶だったからだ。

あの1周年記念ライブで行なわれた追加メンバー募集の発表を機に、自分たちは欅坂46のアンダーグループではなく、小さくても独立したグループとして認められたいという意識を持ち、さらに全国ツアーを通じて確かな成長も感じていたけやき坂46のメンバー。彼女たちにとって、自分たちがいなくてもライブの幕がきちんと降ろされ、観客も盛大な拍手を送っているという光景は、あまりにも残酷なものだった。

このときから、けやき坂46のメンバーが再び自分たちの存在意義について悩み、答えを模索していく日々が始まった(文中敬称略)。

●東村芽依(ひがしむら・めい) 
1998年8月23日生まれ 奈良県出身 ◯愛称は"めいめい"。けやき坂46メンバーへのアンケートで「ダンスがうまいメンバー」の1位にも選ばれている。特技はカラーガードのライフル回し。

『日向坂46ストーリー~ひらがなからはじめよう~』は毎週月曜日に2~3話ずつ更新。第19回まで全話公開予定です(期間限定公開)。