写真提供/マキエマキ

ラブホテルや映画館などで悩ましいランジェリー姿を晒し、東京タワーや商店街をバックにホタテの貝殻ビキニでポーズを決める――。

昭和の雰囲気が残る光景の中、エロい写真を自撮りし続け、話題を読んでいる謎の50代の熟女がいる。それがマキエマキ(53)だ。

彼女の素顔は普段、雑誌、広告などで活動する女性カメラマン。2015年から自撮りをはじめ、昭和B級エロをテーマにした作品を発表してきた。熟女の体を、思い思いの衣装で包み、堂々を見せつけるその写真は一躍話題となり、2月には処女写真集『マキエマキ』(集英社インターナショナル)を発表した。

果たして50代の彼女がそこまで悩ましい自撮りをするのはなぜなのか? またその自撮りに込められた想いとは何か? 直撃した。

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――いや~驚きました。昭和の香りムンムンの怪しげな、エロい自撮り写真! しかも撮っているのが50歳の熟女とは! 一体、この人は何者なのかと、気になって仕方なかったです!

マキエ 観た方はみんな謎に思うみたいですね(笑)。まぁ、自分としては、ただ楽しんでやってるだけなんですけど。

――そうなんですね。元々、マキエさんはカメラマンだとか。グラビアを撮ってたことがあるんですか?

マキエ いいえ。商業カメラマンで風景や建物を撮ってました。人物はインタビューくらい。ちゃんと撮ったことはほぼないですね。

――一体、なぜ自撮りをするように?

マキエ 最初は行きつけの飲み屋で催された、セーラー服を着て飲むイベントに参加したことです。自撮りしてフェイスブックにあげたら身内から好評で。しかも「脚がキレイ」とか褒められたんです。図に乗って、合同展にホタテビキニの自撮りを出したらもっとすごい反響があって。そこから今も続けてるって感じです。

――セーラー服からホタテって、「図に乗り」すぎでは(笑)?

マキエ いやいや。自分の中ではどちらも面白さの点で同じなんで特に意識はしてなかったです。

――その後にも攻めた写真をたくさん撮っていますよね。スケスケの下着を着たり、赤フンドシの海女さんに扮したり。周囲の人はびっくりしたでしょう?

マキエ すごかったです。こんな悪ふざけしてる人に頼めないと言われ仕事も減ったし(笑)。親しくしてた友人にも観られないって言われたり。ただ写真展では若い女性に「勇気をもらった」「歳をとることが怖くなくなった」なんて言われて、驚きました。

――でも露出は結構ギリでしょ。恥ずかしさはないんですか?

マキエ ないです。もうオバハンだし、開き直っています(笑)。一方で、生物学的に女性でなくなったので、このまま枯れていくのが怖くて、女性的な部分を敢えて出してる部分はありますけどね。

――写真集にありましたけど、マキエさん自身は若い頃、自分が女性であることを忌み嫌っていたそうですね。

マキエ すごくイヤでした。女に生まれてこなきゃよかったと思ったくらい。私、若い頃、すごく男に寄ってこられたんですよ。

――モテたとか?

マキエ いや、そういう話じゃなく、とにかく寄ってくるんです。よくマンガに「磁力女」っていうのが出てくるけど、まさにあれ。ケーキ屋でバイトしてた時は同僚に迫られたり、ケーキの納品先の店のオーナーから「月いくらで」って言い寄られたり。お客さんに待ち伏せされたこともあります。カメラマンになったのも、女性であることと関係のない仕事に就きたかったからなのに、そこでもいろいろ言い寄られて。

――そこまでいくと怖いというか......。

マキエ すごく怖いです。だからエロい自撮りをするのは男に対する嫌悪の顕れみたいな面もあります。男の妄想を嘲笑(あざわら)うというか。

――マキエさんが表現するエロは、男の妄想全開で過剰ながら、どこかに滑稽さがありますよね。

マキエ 写真のテーマは「昭和B級エロ」なんです。昔、橋の下で拾ったエロ本とか(笑)、道端に貼ってあったピンク映画のポスターみたいイメージ。ああいうのってどれも笑っちゃうほど、ゲスいんですよね。でもそれがあまりバカバカしすぎて、好きなんです。

――撮影で特にこだわっていることは?

マキエ リアリズムですね。生活の匂いや泥臭さとか。だからロケもキレイすぎる場所でなく、古い町並みを意識して選んでます。

――それこそ昭和の雰囲気が漂う、ラブホテルや映画館とか。

マキエ そう。今は旦那が撮影を手伝ってくれるんですけど、一緒にロケ地を探し出掛けます。青森から広島まで、行きましたね。

――衣装やメイクは?

マキエ 全部、自前です。衣装は「レトロ」「ワンピース」で検索してヤフオクで落としたり、アマゾンでウイッグを買ったり。自撮りの時は、そのシチュエーションに合わせた着ぐるみを身につける感覚で出ています。

――これまでに撮影で印象に残ってることはあります?

マキエ 一番は警察が来たことですね。朝5時半頃の商店街で、ホタテビキニを着て撮影してたんですけど、通報されちゃって。警察が来た時は、撮影が終わって洋服に着替えていたんで、よかったですけど(笑)。それに決してヌードじゃないんで、大丈夫だろうと思ってましたけどね。

――ホタテはヌードよりエロいですよ(笑)。特に気に入ってるのはどれですか?

マキエ 写真集には入れてないんですけど、「ドカベンのケツバット」はすごく気に入ってますね。

――セーラー服姿のマキエさんが、山田太郎の銅像のバットでパンチラをしたお尻を叩かれてるカットですね。

マキエ 新潟に行って深夜の3時に撮り始めたんですけど、朝方までかかっちゃって。気づいたらおばあちゃんが近くのベンチに座ってじーっと見てるんです。「やりずれ~!」と思いながら撮った渾身の一枚です。あと、海辺でレトロな花柄水着を着て撮ったバカンスっぽい写真も気に入ってます。お父さんがお母さんと結婚前に海にデートに行ったイメージで撮ったんです。

写真提供/マキエマキ

――海辺で日傘をさしてたり、髪型もゆるくパーマがかかってたり 。確かに昔のお母さんっぽいですネ。

マキエ 女優になる前のマリリン・モンローが海で撮影している写真にインスパイアされたんですけど、自分でもよく撮れたなって。ちなみにこれに限らないけど写真は大体、色調をフィルムっぽく整えています。一般の人にはわかりずらいかもしれないけど。

――とことん、こだわっていますね。

マキエ 自撮りって撮る側と撮られる側の両方をやるから、自分のイメージする100点満点の写真を撮れるんです。撮るだけだとモデルに動きを指示するような苦労とかありますから。でもそれがすごく楽しくて。始めて3年になるんですけど、続いているのはそこまでこだわれる楽しさがあるからですね。

――なるほど。表情や空気感からも楽しさが伝わってきます。でもその楽しさが、別の意味で伝わることもありそうです。

マキエ そう。露出するのが楽しいんだろうって思われちゃう。SNSに写真をアップすると「挿れたい」とか「好みです」とか、露骨な表現を書き込んでくる人も多いです。そういうリプが返ってくるだろうなってのは、織り込み済みでしたけど。

――写真集にはマキエさんのTwitterで呟かれた言葉も掲載されていますが、特に印象的なのはホタテビキニの写真の横にあった「我ながら何やってるんだろうと思うこともある」ってひと言。実際にこんな風に思うことはあるんですか?

マキエ ありますよ。この前も日没直前の山にクソ重たい小道具を持って写真を撮ってきたんですけど、一歩間違えたら、遭難するくらい危険な状況だったんです。すごい緊張感の中、必死に撮影したんですけど出来上がったものを見たら、「これかよ」って(笑)。

――真剣にバカバカしいことをやってると。ところでマキエさんとは違いますが、たくさんの若い女のコがSNSで自撮りをあげてますよね。それはどんな風に見てますか?

マキエ 好きじゃないです。「私、キレイでしょ」って心の声がありありと聞こえてくるでしょ。人目を意識しているのが、イヤなんです。本来、自己発信って、人目を気にしてやることじゃないと思うんです。男の目をひこうとチラッと肌を見せたりするんだったら、全部脱ぎ捨てて「オラオラ」ってやればいいのにって。もちろん彼女たちに共感する人はいるんでしょうけどね。

――写真集の帯にありましたが「私のエロは私が決める」と。

マキエ そう。私のは人から見られるエロじゃないんです。自分から発信しているエロなんです。

――では今後のビジョンも教えてください。

マキエ 写真展は今後、いくつか予定があるんですけど、いずれは外国でやりたいなと思っています。私の写真って、外国人がパッと思い浮かべる日本の風景だと思うんです。きっと面白がってくれるんじゃないかなって。

――ホタテビキニが海外へ! 面白い反応が返ってきそうです。

マキエ でも撮りたいイメージや場所がまだたくさんあるんで、今はそれを撮るのが先ですけどね。葛飾北斎の「蛸と海女」をちゃんと本物の蛸を使って海で撮ってみたいし。いまはとにかく自分の表現に取り憑かれています。たまに自分に呆れますけど、撮影に飽きることはまだ当分ないですね(笑)。

■マキエマキ(MAKIE MAKI)
1966年大阪生まれ。1993年よりフリーランスの商業カメラマンとして雑誌、広告を活動を開始。2015年に「愛とエロス」をテーマとした合同展に出展したことで自撮り写真を本格的に開始。
処女写真集『マキエマキ』(集英社インターナショナル)が発売中。
6月20日から23日まで。「空想ピンク映画ポスター展4」を開催。六本木スペースビリオンにて。作品集「マキエマキ」の制作裏話トークも。