2019年9月14日、東京・青山ブックセンターにて、トークショー「『我我』はいったい誰の写真集なのか?」が開催された。

『週刊プレイボーイ』のグラビアでもおなじみの写真家・桑島智輝が、妻であり俳優の安達祐実を日々撮り続けた写真集『我我(がが)』(青幻舎)。発売日である9月14日に合わせて開催されたトークショー当日は、安達祐実38回目の誕生日であり、さらに彼女が『週刊プレイボーイ』14回目の表紙を飾った号の発売日でもあった。

本記事ではそんなメモアリアルずくめの一日に、写真家の平間至氏、アートディレクター・町口景(ひかり)氏をゲストに招いて開催された『我我』発売記念トークショーの模様をリポートする。

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――完成した『我我』をご覧になって、安達さんの今のお気持ちはいかがでしょうか。

安達 制作に関して携わっていなかったこともあり、私の中では完全に"これは桑島さんの写真集"という意識だったんです。だから少し距離があったんですが、昨日出来上がった写真集をふたりで見ていたら、予想以上に心に刺さって。とても感慨深いものがありましたね。

――写真家の平間至さんは、『我我』に「これはいったい誰の写真集なんだろう?」という一文から始まる文章を寄稿していただきましたよね。

平間 はい。安達さんは誰もが知る大女優ですから、こういった被写体をモデルに選んだときは、ふつうは"女優・安達祐実の写真集"というふうになってしまうものなんです。そういった場合、『我我』は果たして、"安達祐実の写真集"なのか、それとも"写真家・桑島智輝の写真集"なのか、はたまたひとつのある家族を追ったアルバムなのか?という疑問が浮かぶんですね。

そう考えたとき、荒木経惟(のぶよし)さんのことを思ったんです。荒木さんは、自分の写真に自身が写り込んでいることがけっこうあるんですよ。ということは、シャッターを切ったのは当然別の人。だけど、それは"荒木さんの写真"って誰もが認める。つまり僕は、「写真とは、写真に命を与えた人のものではないか」ととらえたんです。そうすると、『我我』は間違いなく桑島さんの写真集といえるんじゃないかな、と。

――撮りためた写真を、平間さんや『我我』でデザイン・構成を担当された町口景さんに見せてアドバイスをもらっていたとか。日々撮りためておられるとのことで、膨大な点数におよぶのではないですか?

桑島 今、123冊目のアルバムが進行中で、1冊250枚ぐらい入るので......トータルでいうと4万枚ぐらいですね。それをある程度たまったら町口さんに送って、「どう思う?」って聞いたり。

町口 子供の写真とかもあるから、日々の成長記録みたいで、気分としては"親戚のおじさん"ですよ。客観的に見ないといけない立場なのに(笑)。『我我』制作にあたっては、一枚一枚話し合いながら作っていきましたね。安達さん本人とはあまりお会いしたことないのに、写真で知りすぎちゃってるから他人の気がしないというか......実際に会うと変に緊張しちゃう(笑)。

――フィルムカメラで毎日安達さんを撮り下ろす、というのはどういった感覚なのでしょう。

桑島 お互い仕事もしているので、夜帰ってお互い家にいるときのふとした瞬間、「撮ろうかな」と思って撮る、という感じですね。撮りまくっているというより、毎日淡々と撮っていたらこれだけたまったというか。自分の意識が過剰に入った写真よりも、ふと思い立ったときに押したシャッターがいい写真になることもある。

平間 自分の意識を入れないほうがいいって、面白いよね。まさに、今日発売の『週刊プレイボーイ』のグラビアとは正反対。

――9月14日発売の週プレ39・40合併号では「超私写真。」というタイトルで、北海道ロケで安達祐実さんを撮り下ろしてもらいました。

桑島 結婚してから週プレのグラビアで安達さんを撮るのが初めてだったこともあり、かなり苦労しましたね。ストレートでオールドスクールなグラビアをやろうと最初は思っていたけど、僕と安達さんという夫婦の関係性でそれをやってもあまりにひねりがない。

それをテスト撮影で察して、「さあ、どうしよう」って(苦笑)。安達さんが『我我』のときとはあまりに違う、"オフィシャルの顔"になっちゃってたんですよ。

平間 安達さんにとって、幼少期の頃から「オフィシャルの場」が圧倒的に多いでしょうからね。それに、桑島さんはふだん"オフィシャルじゃない安達祐実"を撮ってるから、よけいに"オフィシャルの安達祐実"を目の当たりして動揺した、と。

桑島 結局、「ここはもうやり切るしかない!」って、さんざん手を変え品を変えいろいろなことを試したんですよ。湖の倒木に立ってもらったり、ムックリ(アイヌの民族楽器)を弾いてもらったり、とにかく僕もはしゃいではしゃいで(笑)。

――金髪の桑島さんと青い髪の安達さんが牧草地ではしゃぎまわるという、遠くから見ると不思議でほほえましい光景でした。

安達 今回のロケは、恋人に戻る感じがするというか。家で撮られているときと比べて、スタッフさんもいるし、ふたりの間に距離ができる。距離ができたことによって、新鮮なうきうき感がありましたね。ちょっとソワソワしつつも楽しかったですよ(笑)。

町口 週プレと『我我』、全然別物だって思いました。写っているのは同じ安達さんなのに、桑島さんの意識が全然違うからかな。表紙を見比べても、「本当に同じ人?」って思いますよね。"親戚のおじさん"としては(笑)。

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「夫婦でのイベント登壇はかなりレア」というトークショー後の桑島・安達両氏をそれぞれ直撃。イベントの感想や写真集についてコメントをもらった!

――桑島さんの写真展「再旅行」(東京・KATA/2018年11月)以来となるご夫婦でのトークショー登壇でしたが、いかがでしたでしょうか。

桑島 今日は"オフィシャルの顔"とそうでない顔が半分半分ですかね。安達さんの発する言葉はエッジが立っていて、切れ味がいいんですよ。だからいい意味で緊張感がありましたね。

――365日、妻である安達さんを撮られる上で、意識されていることはなんでしょう。

桑島 安達さんは「今日は撮るのやめてね」とかなくて、いつシャッターを切ってもオールOK。でもそこに寄りかかるわけじゃなくて、当たり前ですけど"真摯に撮る"ことが一番大切ですね。真摯に撮ることによって、真摯に写真に返ってくるんじゃないかな、と考えています。写真はコミュニケーションの一環ですから。

――安達さんは本日のトークショー、終えられてみていかがでしょうか。

安達 本日は急遽参加させていただいたのですが、平間さんや町口さんというプロフェッショナルな方のお話を聞けるのは面白いですよね。「皆さんそんなことまで考えて作品に携わっているのか」という新鮮な驚きがありました。

――桑島さんが「写真はコミュニケーション」とおっしゃっていましたが、安達さんが夫婦生活で大切にされていることはありますか?

安達 私もコミュニケーションは大切にしていますね。例えばお互いの仕事がうまくいかないときとか、お互い話すことになったり悩みが解消されたり楽になったりって、どんな夫婦にもあると思うんです。私は特に、夫婦間で問題が起きたときは解決するまで話し合いたいタイプなので(笑)。桑島さんに限らず、男の人ってそういうとき黙っちゃうじゃないですか?

――......そうですね、もっと会話で解決を図るようにします! 

安達 ただ、今回の『我我』や週プレを読んでいただいた方に知ってほしいのは、私と桑島さんはたまたま女優とカメラマンという珍しい夫婦ですが、それを除けばどこにでもいる普通の夫婦だっていうこと。「ちょっと変わった、面白い夫婦もいるんだな」って読んでいただいた方に感じていただければうれしいですね。「こういう夫婦の形もあるんだ」って心の片隅にでも残ってくれればとても幸せだなって思います。

●桑島智輝(くわじま・ともき)
1978年、岡山県岡山市生まれ。カメラマン。2002年に武蔵野美術大学卒業後、鎌田拳太郎氏に師事。04年に独立後、雑誌やタレント写真集、広告で活躍している。13年に、約2年半の安達祐実を収めた写真集「私生活」を発表。14年に結婚。今でも毎日、安達を撮影し続けている。不定期で更新している安達のオフィシャルwebの写真がネットで話題に。

●安達祐実(あだち・ゆみ)
1981年9月14日生まれ
〇2歳で芸能界デビュー。以後、子役として活躍。主な出演作に『家なき子』『ガラスの仮面』などがある。写真集『私生活』(2013年)をきっかけに写真家の桑島智輝と出会い2014年に結婚。現在は2児の母でもある。スタイルBOOKの発売や各女性誌のモデルを務めるなど、近年はライフスタイルも注目されている。
公式Instagram【@_yumi_adachi】


■写真集『我我(がが)』発売中

A5判・168ページ・価格2500円(税抜)・青幻舎刊
2015年11月13日の結婚記念日から、長男の誕生を挟んだ約3年間。呼吸するように撮った1万8500枚もの写真から、135枚を厳選して構成された小説のような一冊