BiSHのアイナ・ジ・エンド(左)とアユニ・D(右)
今年10月に『アメトーーク』で"BiSHドハマり芸人"が特集されるなど、いよいよ地上波でも見る機会が増えてきたBiSH。

そんな彼女たちをはじめとした6グループを抱える音楽事務所「WACK」が、新作ドキュメンタリー映画『IDOL―あゝ無情―』を制作。11月1日(金)より、全国で順次公開される。

本作では、前作『世界でいちばん悲しいオーディション』と同様に、WACKが今年3月に新規メンバー選定のために行なった「WACK合同オーディション2019」に密着。最終選考に残った候補者22名の女のコと、彼女たちを牽引するための既存メンバー数名が壱岐島(長崎県)で行なった"1週間にわたる合宿生活"の模様を映している。

今回はWACKの代表として、BiSHのアイナ・ジ・エンドアユニ・Dに、今作の話を聞いた。

■合宿中は人の涙ばっかり見なきゃいけない生活になる

――「早朝マラソンやダンス審査、さらには朝食の摂り方にまで"ポイント制度"が設けられている」「そのポイントによって毎日脱落者が出る」など、ただでさえ精神的に追い込まれるWACKの"合宿形式オーディション"。

今作も、そんな状況で渡辺淳之介さん(WACKのプロデューサー)が放つ辛らつな言葉に涙する候補者の姿が、数多く切り取られていました。アユニさんは今年の合宿に参加していましたが、映画を観た率直な感想は?

アユニ 参加してはいたんですけど、私は集団生活があまり得意ではないので......。レッスン以外の時間は人と関わるのをできるだけ避けるために、ひとりで真っ暗な部屋の隅っこで音楽を聴いたりしていて。合宿で起こったことをそこまで知らなかったんです。

だからこの映画を観たときは、女のコたちが泣きわめいている姿とか、葛藤している姿が、自分が現地で見ていたはずのものと全然違う生々しいものに感じて......。「こんな壮絶な1週間だったのか......」ってびっくりでした。

――たしかに過酷でした。また、今作は"オーディションのドキュメンタリー"でありながら、合宿終了直後に突如解散した別のWACK所属グループ・BiS(※解散したのは第2期。第3期は8月より活動中)の解散の模様にもフォーカスが当たっています。

アユニ 今回の映画はどちらかというと、"BiSの解散物語"みたいな部分が大きいかもしれないです。BiSからは、私の学生時代からの友達で、誰よりも身近なムロ・パナコというメンバーも参加していたので......。「解散したくない!」って泣いている姿を見るのが一番つらかったですね。

アイナ ムロは去年、オフの私に「BiSについて相談したい」ってわざわざ私の地元(大阪)まで来てくれたりするくらい、人一倍グループについて考えていたコで。最後まで解散を食い止めようとしていたのに、それが叶わず泣いてしまう場面があるんですけど......もう観ていられなかったですね。BiSを知る者として、今回の映画はすごく悲しかったです。

――ところで、今回の『IDOL―あゝ無情―』というタイトルですが、おふたりは何を表していると思いますか?

アユニ 個人的には、前作のタイトル(『世界でいちばん悲しいオーディション』)をもっと淡白に、もっとわかりやすくした結果が"無情"なんだなって思います。

アイナ いろんな要素が重なりあって『あゝ無情』になっているとは思うんです。「アイドルになりたい」とか「WACKに入りたい」と思ってくれた候補生たちが、合宿の途中でも脱落させられていくことや、BiSのメンバーが一気にいなくなってしまうこととか......。

でも、私は今回のタイトルを聞いたとき、「たぶん、渡辺さんの合宿中の心を表してるんやな」って思いました。

――心ですか?

アイナ 私は普段、渡辺さんとしゃべっていると、「こんなに優しくて情に厚い人はいない」って思うんです。合宿中は人の涙ばっかり見なきゃいけない生活になるし、渡辺さんも人間だから、無情に振る舞うようにしてるんやなって。

――なるほど。以前、渡辺さん自身もインタビューで「参加者にはわざと厳しくしている部分もある」と言っていましたが、まさにそのことですね。

今作では、「脱落したくない」と必死になっている参加者たちに対して笑いながら放った「戦争だから(笑)」という言葉が印象的でした。

アイナ もちろん映画だから、そういう言葉とかシビアな部分だけがチョイスされている部分もあると思うんです。でも、普段の渡辺さんだったら、そういう状況に追い込むときは、前もって危機感を持たせる言葉を言ってくれるはずなので。渡辺さんの人間性は、映画の一部分だけで判断してほしくないと思いますね。

■WACKは"人間"として表舞台に立たせてくれる

――先述した「あらゆる行動にポイントが設けられていて、それによって毎日脱落者が出るルール」のほかにも、合宿の様子を24時間リアルタイムで配信していたり、毎晩、スタッフが選ぶ"今後一緒に仕事をしたくない参加者"を発表する制度があったりと、とにかく過酷なオーディション。これをWACKが恒例行事にしている意味って、なんだと思います?

アユニ 映画が公開されると、毎回「アイドルのつらそうなところなんか見せるな」って言う人がいるんですよ。私もBiSHになる前、アイドルは「キラキラしていて、学校イチの人気者みたいな人」とか「すごくかわいくて、絶対に手が届かない雲の上の存在」みたいなイメージがあったから、その気持ちも正直わかるんですけど。

でもWACKって、メンバーをそういう"アイドル"や"商品"として売るんじゃなくて、"人間"として表舞台に立たせてくれる珍しい場所なんじゃないかと思っていて。こういうキツイ合宿があることで、観る側が"人間としての姿"に感情を全部持っていかれるというか......。「応援したい!」って気持ちを持ってくれるんじゃないかなって。

私自身、パフォーマンスを教える側として参加したことで勉強になった1週間でしたけど、観る側にも観てもらう側にも、すごくメリットが多い合宿だなって思います。

アイナ 今、アユニが言ったような意味でいうと、"一般的なアイドル"は多分、WACKの映画にひとりも出てないんですよ。この映画で初めてWACKを知る人が、ほかのアイドルとの違いを魅力と捉えてくれたらありがたいですね。

――なるほど。BiSHの皆さんは着実に熱狂的なファンを増やしているように感じますが、きっとそういう"人間味"も入口になっているんですね。

ちなみに最近は、生田斗真さんや千鳥・ノブさんなど、芸能界にも「BiSHが好き」と公言する方が増えていますよね。先日はついに、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)でも"BiSHドハマり芸人"がオンエアされていました。

アイナ ノブさんは『アメトーーク!』だけじゃなくて、『今夜くらべてみました』(日本テレビ系)や『Love Music』(フジテレビ系)でも番組に呼んでくださっていて。「あとは『アメトーーク!』だけじゃ!」って、ずっと頑張ってプッシュしてくださってたみたいなんですよ(笑)。

――そう言っている光景はすぐ浮かびますが(笑)、いい話!

アユニ だからノブさんとは"一緒に夢を叶えた感"があります(笑)。

アイナ 事務所の方にやらされるんじゃなくて、自分発信でBiSHを語ってくれるって、本当に夢みたいですよね。感謝の気持ちでいっぱいでした。

――最後にアイナさん。読者にひと言お願いします。

アイナ 個人的なひと言かもしれないんですけど、週プレさんには「週プレ酒場」でアコースティックライブ(2017年)をさせていただいたり、ずっとお世話になってきていて。

私たち、最近は脱いでいないんですけども、精神面ではいつも脱いでいるので(笑)、BiSHの"脱いでるライブ"を見に来ていただけたらうれしいです。今回の映画も、WACKはみんな心が真っ裸なので。ぜひ観てください!

●BiSH
音楽事務所「WACK」に所属する"楽器を持たないパンクバンド"の6人組。現在、全国19会場をまわる全23公演のツアーを開催中。11月6日(水)に6thシングル『KiND PEOPLE/リズム』をリリース予定。

●アイナ・ジ・エンド
12月27日生まれ、大阪府出身。BiSHのほぼ全曲で振付を担う"おくりびと担当"。ボーカリストとしての実力も高く、2017年以降はさまざまなアーティストの楽曲にも参加している。公式Twitter【@aina_BiSH】

●アユニ・D
10月12日生まれ、北海道出身。2016年にBiSHに加入した"僕の妹がこんなに可愛いわけがない"担当。現在、ソロプロジェクト「PEDRO」のボーカル&ベースとしてソロ活動も行なう。公式Twitter【@AYUNiD_BiSH】

【IDOL―あゝ無情―】
11月1日(金)より、テアトル新宿ほか 全国で順次公開。
公式サイト【https://aa-mujou-movie.jp/
公式Twitter【@aa_mujou_movie】