「この小説では『こんな展開になったらみんな驚くかな』とか、絶対に逃げられない状況でも、『そうきたか』っていうことを書いてやろうと思ったんです」と語る高須光聖氏

『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)や『水曜日のダウンタウン』(TBSテレビ)、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)などで活躍中の放送作家・高須光聖(たかす・みつよし)氏が、初めて書き下ろした小説『おわりもん』(幻冬舎)。

戦国時代を舞台に、罪人となったふたりの農民が、殿様や山賊などさまざまな追っ手から逃げまくるというストーリーだ。高須氏に聞いた。

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――この小説を書こうと思ったきっかけは?

高須 昔(1978年)、NHKの大河ドラマ『黄金の日日』で、故・川谷拓三さんが首だけ出して土の中に埋められているシーンがあったんです。しかも通行人に首をノコギリで引き切られるという。

それがすごくセンセーショナルでずっと頭の中に残っていました。それで僕は10年くらい前にそのシーンをもとにして『賽(さい)ノ目坂』というショートムービーを作ったんです。

それは6人の罪人が同じように首まで埋められていて、後ろに一番から六番までの数字が書かれた木札が置かれている。そして「ここを通りし者は賽の目(サイコロ)を振り、出た目の数の罪人の首を鋸(のこぎり)で引くべし」というお触れ書きが立っていた。罪人たちは通行人を説得し、サイコロを振らせないように、いろいろな知恵を使う。そして最後には逃げ出すというストーリーです。

そんな作品だったんですが、ふと「なんでこの男たちは捕まったんだろう?」と気になった。これだけの刑になるんだから、相当な罪を犯していなければいけないですよね。

それで、続編をまたショートムービーで作ろうとしたのですが、これは小説でもいいんじゃないかと思った。映像にするには俳優さん、技術さん、美術さんなどたくさんの人が関わるので大がかりです。

でも、小説だったら僕ひとりでできる。しかも、お金がかからない(笑)。それに原作を作っておけば、後から映像にもできる。それで小説を書き始めたんです。

――この作品では、ふたりの罪人が何度も危機一髪のところで命拾いをします。また、思いがけない大どんでん返しもあり、驚きの連続なのですが、やはり細かい展開とかを考えてから書き始めたんですか?

高須 いやいや、自分でも先がわからずに書き始めたんですよ。僕は、まず書きたいシーンが浮かんでくるんです。「土の中から首だけ出てるシーンって衝撃的だな」とか「甲冑(かっちゅう)屋さんがあって、そこでブティックみたいに甲冑のデザインや色を選ぶという会話があったら面白いな」とか。そして、そのシーンをうまくつなぎ合わせていく。

調べたのは戦国時代の農民の生活くらいです。当時は今よりも生き死にが身近だった。飢饉(ききん)になったら「どうやって生き延びるねん」という状況で暮らしていた。

そんななかで、足軽として戦に出れば3合の白米と塩と味噌がもらえた。だったら「戦に行ったら死ぬかもしれないけど、一生のうちに何回食えるかわからない白米をもらえるんだったら行ってみるか」と軽く考える人たちもいたんじゃないかと。

ましてや少しでも位の高い人の首を取ったら、今とは違う人生になる。若干、夢を持って戦に行っていたんじゃないかと思ったんです。そんな地位も名誉も金もない、ふわふわとした根なし草のように生きる人たちを主人公にしたかった。

実は、ある先輩から「放送作家はすごくいい職業だよ。例えばコントにAさん、Bさん、Cさんの誰を出してもいい。そして、ありもしない物語を作れる。高須君のやっていることは神様の仕事なんだよ」って言われたことがあったんです。

それで物書きが神様の仕事ならば、この小説では自分が神様になって、「こんな展開になったらみんな驚くかな」とか絶対に逃げられない状況でも、「そうきたか」って思われるようなことを書いてやろうと思ったんです。

――根なし草のように生きる人を主人公にしたかったのは?

高須 ダウンタウンがそうなんですよね。あのふたりだって、たまたま漫才があったからビッグになった。ひとつ間違えばどん底の生活をしていたかもしれないふたりです。

それで、怠け者でできるだけ何もしないでお金を儲けたいと思っている主人公のふたりが、なぜか大きな出来事に巻き込まれて、いろんな体験をして、いつの間にか歴史に絡んでしまう。そのほうが面白いと思ったからです。

――そういえば、主人公のふたりが関西弁をしゃべっていて、そのかけ合いが漫才みたいで面白いですよね。

高須 僕が思う時代劇のウイークポイントって言葉なんです。当時の言葉は、時代小説が好きな人には伝わるけれども、そうでない人にとっては伝わりにくい。だからといって標準語にしてしまうと、今度は逆に時代劇っぽさがなくなる。

それだったら、もう関西弁でいこうと。するとテンポのいい熱のこもった言葉になったんです。漫才っぽいのは、やはりこれまで僕がやってきたお笑いの要素を入れたかったからです。

――ところで、タイトルの「おわりもん」って、どういう意味ですか?

高須 地位も名誉も金も仕事もない。親もいない根なし草のように生きている人のことです。でも、「おわりもん」なんていう言葉は実際にはないんですよ。この小説のタイトルをどうしようか考えていて、いろいろなものから逃げるストーリーなので、最初は『戦国ランナウェイ』みたいなタイトルにしようかなと思っていたんです。

そしたら、ある日、今、うちの子はひらがなの練習をしているんですが、子供の落書きを見たら「おわりもん」って書いてあった。それを見て、これはいい言葉だと思ってタイトルにしたんです。そんな感じで思いつきだらけなんですよ(笑)。

――最後に高須さんが今、面白いと思っていることは?

高須 抹茶で世の中を牛耳った千利休が気になりますね。利休って大詐欺師ですよね。抹茶で日本の領土を奪い合っていた男たちの心をつかむんですよ。茶器は完成されたものより欠けてるほうがいいとか言われても、普通だったら「何、それ?」ってなるでしょ。

ほかにも掛け軸はこうあるべきだとか、小さな茶室が宇宙だとか、勝手に価値を作ってしまう。これまでとは真逆のことで世の中をどんどん自分のほうに引き込んでいく。利休を大悪党の視点で書けたら面白いなって思いますね。

●高須光聖(たかす・みつよし)
1963年生まれ、兵庫県出身。放送作家、作家、脚本家。幼い頃からダウンタウンの松本人志と浜田雅功と親交があり、大学卒業後、ダウンタウンに誘われて24歳のときに放送作家としてデビューする。『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)、『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ)、『水曜日のダウンタウン』(TBS)など、ダウンタウンのほぼすべてのレギュラー番組の構成を手がける。またマンガ原作に『ウルトラつらいぜ』(マンガボックス)などがある

■『おわりもん』(幻冬舎 1500円+税)
時は戦国時代。金もなければ、仕事もない。もちろん地位もなければ、名誉もない。そんな"おわりもん"と呼ばれる底辺のふたりが、初めて戦に参加する......が、前日の深酒で朝寝坊。しかし、その遅刻のおかげで逃げていた敵方の大将とバッタリ出会う。ここからが、どんでん返しの連続で、追われるものと追うものが逆になったり、絶体絶命、危機一髪のところで秘策を考え生き延びたり。まさに息をつかせぬ大冒険で、驚きの結末に。

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