行定勲監督(左)の新作『劇場』について、角田陽一郎氏が聞く

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

前回に引き続き、4月17日(金)全国公開予定の『劇場』で監督を務める行定勲(ゆきさだ・いさお)氏が登場!

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――前回は『浮雲』(1955年)、『恋恋風塵(れんれんふうじん)』(87年)、『情事』(60年)を挙げていただきましたが、その解説が最新映画『劇場』の説明のようだなと感じました!

行定 まさに、さっき受けていた取材で、記者の方から「『浮雲』みたいな映画でした」という感想をもらったんです。そういう思考が僕の中にあったんだと思います。

――と言いますと?

行定 前提として、男女の間に障害をつくることって、愛を描く上で一番わかりやすい手法なんですよ。『情事』『浮雲』は浮気や不倫を扱った作品だし、『恋恋風塵』もそう。

この作品は、幼なじみの男女のラブストーリーで、ずっと一緒だったけど兵役で離れ離れになり、彼が彼女にいっぱい手紙を送るんだけど、あるときから返事が来なくなる。そして、除隊して彼女の家を訪れると、郵便配達員の男とくっついていたことを知る......。

主人公が手紙を書いたからこそ、愛があったからこそ、ダメになったというお話なんです。

でも、そういう意味では『劇場』は真逆で、障害がなかったはずの男と女のラブストーリーなんです。絶望的なときに現れた天使のような女のコとせっかく仲良くなれて、しかも受け入れられていたのに、主人公は自分の自我から勝手に壁をつくって、彼女を傷つけていく。

要するに男の甘えを描いているんですが、原作の又吉直樹がかなり純度の高い描写をしていて、登場人物の心情を表現し切っているんです。だから、説得力があって、引きつけられる。

――彼の作品はそうですよね。

行定 また、主人公の永田(山﨑賢人)はろくでもない男だけど、でもちゃんと愛もあって、沙希(松岡茉優)のことをものすごく大切にしている。だから、僕の作った恋愛映画は基本的にセックスを描いてきましたけど、この作品ではそのシーンがない。

なぜそうしようかと思ったかというと、それは「大切な女ほど乱暴に扱わない」ということ。セックスってどっかで乱暴じゃないと燃え上がらないところがあるというか。

――アンモラルというか、イリーガルというか。

行定 そこの純粋さがふたりにはある。なのに傷つけちゃう。それはなぜなのか。この『劇場』という映画は、そこが丁寧に描かれた作品です。

――どういう人に見て、どんな感想を持ってほしいですか?

行定 今って自分に関係ないこと、興味のないことを平気で叩ける時代じゃないですか。例えば、映画『パラサイト』(20年)が大ヒットしているという記事に「え、そんな大ヒットしてます?」「僕知りませんけど」というコメントが来るような。

――そう書きたい人っていますよね。

行定 思うに、『劇場』のふたりってそういう人たちが「自分には関係ない」とシャットアウトしてしまう存在だと思うんです。非常時には「生きるのに必要ない」と真っ先に切り捨てられるエンターテインメントの世界にいて、しかもそこでも底辺の、つまりどうでもいい男女。

だけど、そんなふうに思いながら見ていると、なぜか身につまされたり、感情移入したりして、彼らの愛の形について深く考える......。そんなふうに思ってもらえれば最高ですよね。

●行定勲(ゆきさだ・いさお)
1968年生まれ、熊本県出身。主な監督作は『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』『北の零年』『パレード』『ナラタージュ』など

■『劇場』4月17日(金) 全国ロードショー公開予定
配給:松竹 アニプレックス
(c)2020「劇場」製作委員会

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