映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』で解説を務める小説家の平野啓一郎さん

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

今回は現在公開中の『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』で解説を務める小説家の平野啓一郎さんが登場!

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――子供の頃に見て印象に残っている作品はありますか?

平野 幼少期はテレビで映画をよく見ていました。『水曜ロードショー』『金曜ロードショー』や『日曜洋画劇場』など、テレビでやっているのを家族がよく見てました。映画館に行って見たのは『E.T.』(1982年)とかですかね。スピルバーグが才能のある映画監督としていろんな作品を作るようになった頃に映画に接するようになりましたね。

――思春期はどうです?

平野 中学生の頃から洋楽少年になって、ハードロックやヘビーメタルをよく聴いていたんですが、なぜそういう音楽を聴くようになったかというと、小学校高学年の頃に見た『ロッキー4』(1985年)や『トップガン』(1986年)などの影響があったと思います。

あの時代のサントラって、コマーシャルなメタルが多かったんですよ。そこでギターの歪みや歌い方に慣れていて、いざヴァン・ヘイレンとか聴くようになったときに違和感がなかった。

――映画館にはご家族と行く感じでした?

平野 いえ、小学校4年生くらいからは友達とも行くことがありましたし、学校ではテレビで放送されていた作品について話すのも好きでした。例えば、ミッキー・ロークが主演した『ナインハーフ』(1986年)という作品は「ものすごくいやらしい映画が放送されるらしい」と話題になりました(笑)。

――確かにあれはエロかった(笑)。

平野 子供だったので強烈な印象がありました。そのせいもあって、10年くらい前に『レスラー』(2009年)で老いたミッキーを見て、妙に心が動かされました。

――作家になってからは映画の見方は変わりました?

平野 そうですね。例えば小説で描写するときに、無意識に映画のカットを参照していたりしますし、だからこそ、「映画が得意なことは映画でやったほうがいい。小説だからこそ効果的なことをやろう」と思って、内面描写に力を入れたりします。また、書いていて長くなりそうなときには映画のストーリー展開やテンポ感を参照して、ちょうどいい長さにできないか工夫したりもします。

あとキューブリックが好きで、特に遺作の『アイズ ワイド シャット』(1999年)はすごく感動して。なんというか立派な感じですよ。あのゴージャスでラグジュアリーな感覚とか、画面もかちっとして正確無比だし、貧乏くささが皆無。あの格調高い雰囲気に影響を受けているところはあるかなと。

――昨日、『マチネの終わりに』を一気読みさせていただいたんですが、まさにその格調高さを感じました。あとは「映像で描けないことを小説で」というのも。

平野 小説はローバジェットでできますからね。パリでもイラクでも、どこを舞台にしても、ほとんど予算をかけずにできてしまう。あとは、世の中がコロナでこういう状況になっても、小説なら家でひとつの世界をコツコツ作り続けることができるのも長所ですよ。もちろん、売るという点では物理的な可動がないと今は難しい面もありますけど。

★後編⇒角田陽一郎×平野啓一郎(小説家)「映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』は三島だけでなく、全共闘側の人たちへの理解も進む作品」

●平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)
1975年生まれ、福岡県北九州市出身。99年に『日蝕』で芥川賞を受賞。現在、東京新聞、中日新聞ほかにて、長編小説『本心』を連載中

■『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』公開中
(c)2020映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会 SHINCHOSHA

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