感染症対策の専門家、岩田健太郎医師(上)に角田陽一郎氏が聞く!

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

先週に引き続き、『新型コロナウイルスの真実』を4月に上梓した感染症対策の専門家、岩田健太郎さんにお話を伺いました。

* * *

――そもそも岩田先生はどうして今の職業に就かれたんですか?

岩田 よく聞かれるんですけど、実は理由が何もなくて。もともと医者になる気もなかったんです。

――えっ!? そうなんですか?

岩田 今でもそうですけど、自分の中で「二元論の克服」というテーマがあって。理系と文系、自然科学と社会科学とかそういうのですね。高校時代から学問を総合的に勉強したいという気持ちがあり、医学部ならそれができるんじゃないかなと思って志望したんです。結論から言うと半分間違ってたんですけど(笑)。

――ああ、なるほど。

岩田 そんな調子なので最初は基礎研究志望だったんです。患者さんの幸せとか健康の増進とかにはまったく興味がありませんでしたし。でも、病院で実習を受けなきゃいけない。どうせならと思い、当時日本で一番厳しいと言われていた病院に行くことにしました。

「ここに行けば2年間の研修で臨床できるようになるだろうから、とっとと基礎研究者になろう」なんて甘ったれたことを考えていたんですが、2年でできるようになるわけもなく。ずるずるとやっていくうちに、今も臨床の世界にいるという感じです。

――感染症専門医になった理由は?

岩田 それもずるずるやっているうちにそうなっただけで。特に理念や理想があったわけでもないんです。

――面白いですね。映画の好みもそうじゃありません?

岩田 そうなんですよね。巻き込まれ型というか、運命に翻弄されるうちに自分の人生が決まっていくというパターンが好きです。

――あと、お好きな作品に共通する点として「ダンディズム」があるなと思いました。

岩田 世界の価値観に自分を合わせるのではなく、自分は自分の価値観に従う、というのは通底していますよね。『カサブランカ』(1942年)のリックも、『用心棒』(61年)の桑畑三十郎や、『カリオストロの城』(79年)のルパン三世も。世の中の常識に自分を合わせるのではなく、同調圧力とは無縁なところで生きる。

あと、いわゆる正義の味方、正しい側に立っていない点も好きですね。というのも、「私は正しいことをやっていますよ」と主張するのは、民衆を支配する人たちの常套(じょうとう)手段だから。正しさはアピールするモノではなく、行ないで示すモノだと思っているんです。ルパン三世もそうですよね?

――ですね。そもそも泥棒ですしね。

岩田 だから自分は全体主義がすごく嫌いで。クルーズ船は全体主義そのものでしたし、医者の世界、特に大学はその傾向が強いんですけど。

――著書でも「みんなと同じという幻想を捨てる」と書かれていました。

岩田 コロナの場合、「家にいなさいといわれているけど、同僚が会社に来ているので自分だけ休むわけにはいかない」みたいな思考というのは、まさに人と違うことに耐えられない、同調圧力に弱い結果ですよね。

でも、今はみんなで同じことをするのがリスクになる。だからこそ、人と違うことに耐えること、そして、人と違うことを許すこと。このふたつを満たすことがコロナ対応では大事です。

●岩田健太郎(いわた・けんたろう)
1971年生まれ、島根県出身。神戸大学大学院医学研究科感染症内科教授。セントルークス・ルーズベルト病院などを経て2008年より現職

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