売れっ子の相方に対するコンプレックスを告白した勇気にも、もっと注目してほしいなあ

相方・渡部 建の不倫スキャンダルを受けて、ラジオ番組内で涙ながらに謝罪を繰り返したアンジャッシュの児嶋一哉。本人が雲隠れするなか、公の場でコメントした児嶋を評価する声が集まる一方で、渡部に対する疑問の声も。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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自分の弱みを晒(さら)すことができるのが本当の強さではないのか? というのは以前イチロー選手の記者会見のやりとりに疑問を感じて書いたことだけど、最近またそんなことを考えた出来事がありました。アンジャッシュの児嶋一哉さんについてです。

渡部 建さんの件を受けて涙ながらに語ったラジオでの発言。週刊誌は「児嶋だよ!」を貫く姿勢の素晴らしさについて盛んに書いているけど、売れっ子の相方に対するコンプレックスを告白した勇気にも、もっと注目してほしいなあ。

渡部さんが各方面で引っ張りだこになったことでコンビ間で力の差が生まれ、不遜(ふそん)な態度を諫(いさ)めることができなかったと語った児嶋さん。何か指摘したら渡部さんが本番で話を振ってくれなくなるのではないかと不安だったなど、相方に引け目を感じていた自分の心の動きを率直に語りました。

児嶋さんいわく、渡部さんは児嶋さんやスタッフなど周囲に対して「愛がない」態度だったとのこと。傲慢(ごうまん)で心ない言動が常態化していた様子がうかがえます。

ただ、このタイミングでそれを語るのは、相方への復讐(ふくしゅう)とも取られかねません。「普段の様子からは一切わからなかった、信じていたのに裏切られた気持ちだ。自分もショックしかない」と言うだけで済ますこともできただろうに。

コンビ間の力関係の変化に伴う渡部さんの慢心と、児嶋さんのコンプレックス。生々しい告白に思わず自分を重ねてしまった人もいたんじゃないでしょうか。

順調に出世していく同期との関係、優秀な兄弟との関係。周囲から比較されるしんどさ。職場での好感度が高く優秀と評されている人物の心ない一面を知っていても、それを言ったところで「嫉妬している」としか言われないからグッと耐えるしかない、という悔しさ。

そういう状況をわかっていて、弱い立場の人や自分にとって利益にならない人に対してあからさまに横柄な態度を取る"人気者"......あるあるですよね。

複数の女性を性欲処理のモノのように扱った渡部さんの行状は擁護しようがなく、笑いにできる要素もゼロで、児嶋さんもしんどい立場だったと思います。涙ながらに相方への複雑な思いを明かした語りからは、抑えきれない恨みや怒りの感情と、フェアであろうとする気持ちの相克を感じました。

努力を重ねて"おしゃれで物知り"な人気者になった渡部さんと、卑屈な自分を開示しつつ相方の負の側面を赤裸々に語った児嶋さん。もしかしたら児嶋さんのほうがより複雑な人なのかもしれないなと思います。

渡部さんとの対比で"いい人"と持ち上げるのはかえって児嶋さんの持ち味を殺してしまうという芸人仲間からの発言もわかるような気がしたのでした。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。『曼荼羅家族「もしかしてVERY失格!?」完結編』(光文社)が好評発売中

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