ストップしていた劇場作品も続々と公開され、この秋の映画は大豊作! そんなキャストの中から、さらなる活躍が期待される10代の実力派女優たちを撮り下ろし。映画の撮影秘話や女優への思い、プライベートの話までを聞いた。

今回は、若くして実力派女優の呼び声高い蒔田彩珠(まきた・あじゅ)さん(18歳)。東京五輪の公式映画でも監督を務める河瀨直美氏の最新作『朝が来る』(全国公開中)でも重要な役割を演じている。

本作は、「特別養子縁組」や「不妊」といった問題に真正面から取り組んだ意欲作。永作博美と井浦新が演じる「不妊」に悩み養子を迎え入れる夫婦と、若くして妊娠したがゆえに我が子を夫婦に差し出す少女のそれぞれの視点を描く。

そんな本作で蒔田さんは、中学生にして母親となった少女・片倉ひかりの苦悩を見事に演じている。

――蒔田さんが演じた片倉ひかりは、中学生にして妊娠してしまった子どもを養子に出す母親という非常に複雑な役柄ですが、役作りで意識した点は?

蒔田 自分が意識して何かをがんばることはあまりなかったですね。河瀨監督が、ひかりになるための期間と環境を用意してくださったので、撮影が始まるまでには、すっかりひかりになっているという感じでした。

――たとえばどのような環境ですか?

蒔田 ひかりが通ってる中学校と同じ学校に2週間くらい通いました。実際にひかりと同じおうちに住んで、そこから学校に通って、部活行って、友達と遊んで家に帰るっていう生活をして。本当にひかりになりきっていましたね。

――すごい。ひかりの記憶を追体験しているような感じですね。

蒔田 そうですね。あと、作品内の家族のみんなとも2~3週間くらい同じ家に住んでいたんです。だから、本当に家族のようで。役として、ひかりに子どもができて家を出るってなった時は、一緒に住んでいる家族のみなさんに実際に報告をしました。そうしたら、みんなでケンカっていうか、ギクシャクしちゃって。

しかも、その次の日の朝には、私が寝ている間にみんないなくなっちゃったんです。みんな帰っちゃうんだ......、本当に一人になるんだっていう寂しさを感じました。全部役を積むための経験だってわかってはいるんですけど、やっぱりつらかったですね。

あと、役積みという意味では、作中で成長したひかりが働く新聞配達のバイトもしましたし、その仕事先の同僚となる森田想(もりた・こころ)さんとも一緒に住んで数日間の共同生活を送りました。

――徹底した役作りですね。そこまで入り込んでると、子供を持ったひかりの気持ちも理解できました?

蒔田 「理解できる!」って言い切ったら失礼になるかもしれないのですが、本当にずっと赤ちゃんの重りをお腹につけて生活していて、生んだ時に外すという感じだったので、その重みがなくなるのは寂しかったです。「私の赤ちゃん、生まれてすぐに連れていかれちゃうんだ......」って。やっぱり今思い返しても、そのシーンは一番つらかったですね。本当に悲しくて泣いちゃいました。一回泣き出すと全然止まらなくて、「もう泣かないで、泣かないで」って監督に言われていました。

――完全に役に入り込んでいたんですね。

蒔田 本当に......。自分でも記憶が曖昧なくらいひかりになっていました。

――ところで、この映画は養子を迎え入れる側の夫婦の話、そして養子に出す少女の話、そしてそれぞれの話の時系列も長い期間を描いていて、観る側は様々な捉え方ができるのかと思います。この映画を蒔田さんが誰かにひと言で紹介するとしたら、どんな作品だと説明しますか?

蒔田 「特別養子縁組」だったり、生んだ子供を育てられないことが、日本ではあまり知られていなかったり、他人事だなって思われがちな気がしています。でも、本当はそんなことは無くて、誰に起こってもおかしくない。自分にも起こり得ることだって、そこをあらためて身近に感じれる映画なんじゃなないかなと。

あと、ひかり側のような育てられない親側の視点を描いた作品は、今まであんまりなかった様な気がします。私もこの役を演じるまで養子縁組という制度があるとは知っていたけど、じゃあ、「子供を預ける側の気持ちはどうなんだろう?」って知る機会も考える機会もなかったなって。そういう、子どもを生んでも育てられない側の気持ちを考える機会を作れる映画でもあるかな、と思います。

――そんな、全力で撮影に臨んだ『朝が来る』ですが、撮影中に河瀨監督から言われて印象に残っている言葉などはありますか?

蒔田 実は、撮っているときは、ほぼコンタクトをとっていなかったんです。あんまりお話する機会もなくて。

撮影中はずっと「ひかり」って役名で呼ばれていたんですけど、全部撮り終えた後に初めて監督から「彩珠」って呼ばれて、その時は感動しました。「やっと名前呼んでくれた!」って。

――それはうれしいですね。ところで、本作に限らず、蒔田さんが演じる役は難しかったり複雑な役が多いイメージがあります。逆に、シンプルな役をやってみたいとかはないですか? たとえば普通の女子高生とか。

蒔田 う~ん。でも、何かひとつでも抱えているものがあったらそれをグンと掘り下げれるので、何の悩みもない普通の女のコっていうのは、逆に難しそうだろうなぁ。

――そういえば、ドラマ『透明なゆりかご』でも若くして出産する役を演じてますよね!

蒔田 そうなんですよ! この歳で2回もお母さんになりました。なんでなんですかね(笑)

――やっぱり雰囲気的に複雑な役をお願いしやすいんですかね(笑)。では、逆に今後やってみたい役はありますか?

蒔田 もっとこう重大な過ちを犯すような役ですかね(笑) 

――やっぱり普通じゃない(笑)。ありがとうございました、最後に読者に伝えたいことは何かありますか?

蒔田 私も、初号試写の時に初めて知ったんですけど、この映画はエンディングクレジットの後にちょっと仕掛けがあるんですよね。すごく、重要な要素なのでぜひそこも見逃さないでいただきたいです! 

(スタイリング/中井彩乃 ヘア&メイク/山口恵理子)

●蒔田彩珠(まきた・あじゅ)
2002年8月7日生まれ、神奈川県出身。子役デビュー以降、現在までに数々の映画やドラマに出演。映画『星の子』が絶賛公開中のほか、配信スタートのドラマ『言の葉』(FOD)では桜田ひよりとW主演を務めている。また、2021年に放送される連続テレビ小説『おかえりモネ』(NHK)への出演も決まっている。
Instagram【@makita_aju】

■映画『朝が来る』はTOHOシネマズ 日比谷ほか全国劇場にて公開中

©2020『朝が来る』Film Partners

≪あらすじ≫
「子どもを返してほしいんです。」平凡な家族のしあわせを脅かす、謎の女からの1本の電話。この女はいったい何者なのか―。
一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」という制度を知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。ところが突然、朝斗の産みの母親"片倉ひかり"を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。当時14歳だったひかりとは一度だけ会ったが、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。渦巻く疑問の中、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか――?

■『週刊プレイボーイ39・40号』のカラー特集「秋のシネマ美少女」より