『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

11月20日公開予定の『脳天パラダイス』に出演するタレントのいとうせいこうさんにお話を伺いました。

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――青春時代に見て印象に残っている作品はなんですか?

いとう 中学1年のときにチャップリンを見に行った気がするんですよ。結局、笑いの世界にはずっと足を突っ込んでるから、今につながってるのかも。大学のときに、新宿でやっていたマルクス兄弟の3本立てを見て大きなショックを受けたことがあるんだけど、チャップリンもそうだったかな。

あとは『妖怪大戦争』(1968年)が印象に残ってるね。妖怪がたくさん出てくる特撮モノでさ。主人公がひとりの作品って見てられないんだよね。いろんなモノがわさわさ出てくる作品が好きなの。

――今回の『脳天パラダイス』もそんな感じですよね。

いとう そうそう! 小説もいろんな人物が出てきて、いろんな思いをうまく編んでいるほうが興奮して読めるんですよ。自分も小説を書くけど、ひとりの人物を書くという欲求がなくて、いろんなものをどう編集していくかというほうが好き。

そもそも自分は映画を見ても、つじつまやストーリーを追えないんです。ちゃんと見られる人は「最初にトナカイの生首が出てきたから、後でその角を使って何かするかも」とか思うらしいんだけど、俺は「トナカイだな」としか感じないから(笑)。脳に欠陥があるのかもしれないけど。

――大人になって好きな作品は? 

いとう 『未知との遭遇』(1978年)だね。宇宙船の光が降りてくるところで感動して泣いちゃった。きれいな光が降りてくると、意味がなくても人間は感動するんだなって思ったのを覚えてるし、あの感じは映画でしか表現できないよなって思う。

あと光で言うと、タイのアピチャッポン監督がすごく好き。彼の作品も光がガーッと寄ってくるシーンが多くてさ。試写会で彼の映画を見終わると、口が大きく開いちゃってるもんね。

確か『光りの墓』(2016年)だったと思うんだけど、ダクトの中に煙が入っていくだけのシーンがあまりにも美しくて。小説でそれを描くと過剰になるけど、映画ならそうならないからいいよね。結局、物語というよりも、「なんだ、この経験は」って驚く作品が好きなの。

――せいこうさんが脚本を書かれて、野村万作さん、萬斎さんが出演された『鏡冠者(かがみかじや)』(2000年)もそういう作品でしたよね。真っ暗ななか狂言をやってるのが面白かったです。

いとう 「鏡から出てきた人と自分が同じ動きで踊る」ってところが最大の見せどころなんだけど、狂言の人たちが面白くてさ。現代の人なら「同じに動く」と言えばぴったり同じ動きを想像するんだけど、彼らは自分の舞を舞う。

だから、違うリズムなんだけど、万作さん、萬斎さんは親子だから一瞬似るのよ。そういうものが見える瞬間がたまらなくいい。狂言の世界では「合わせにいってはダメ」と教えられているらしいんですよ。でも、実際にある瞬間ピタッと合ってスッと離れていく......。

狂言は都会の芸能なんですよね。たとえるなら、ジャズのセッション。話していてまた思ったけど、自分はそういう感覚でしか映画を見られないんですよ。だから、「どんな映画でした?」って聞かれても、覚えてないから答えようがないの。

★後編⇒映画『脳天パラダイス』に出演するいとうせいこう「この作品は『感動ポリス』に反抗する映画なんです」

●いとうせいこう(Seiko ITO)
1961年生まれ、東京都出身。タレント、小説家、作詞家、ラッパー、俳優、ベランダーなど、幅広く活動するクリエイター。音楽活動においては日本にヒップホップカルチャーを広く知らしめ、日本語ラップの先駆者のひとり

■映画『脳天パラダイス』11月20日(金)より新宿武蔵野館ほかで全国公開予定
©2020 Continental Circus Pictures.

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