映画『あの頃。』の原作者でミュージシャン・漫画家の劔樹人氏

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

現在、全国公開中の映画『あの頃。』の原作者でミュージシャン・漫画家の劔樹人(つるぎ・みきと)さんにお話を伺いました!

* * *

――子供の頃に見て印象に残っている作品はなんですか?

 今でもそうなんですけど、『男はつらいよ』シリーズ(1969年~)は昔から相当見てましたね。

――じゃあ僕と同じマニアだ。

 たぶん、『男はつらいよ』の影響はすごく大きくて。最初は面白くて明るい感じで始まるけど、徐々に寂しい雰囲気になって、最後は寅さんがたったひとりでどこかを歩いていく場面になるじゃないですか。

――わかります。

 だから、この作品は自分にとってすごく大きいと思います。

――劔(つるぎ)さんって、キャラクター的に寅さんに近い部分がありますもんね。

 顔も渥美清さんに似てるってよく言われるんです(笑)。

――似てますよね! それに、劔さんの作品が持つ寂しさって寅さんにすごい近いといいますか。

 でも、日本映画って寅さんに限らず、ちょっとそういうところあるじゃないですか? 例えば、大林宣彦監督の『青春デンデケデケデケ』(1992年)っていう作品も本当に大好きなんですけど、最初はバンドを結成して楽しくにぎやかに進むものの、受験が近づいて離れ離れになるお話なんです。

主人公がひとりでたたずんでるシーンが長回しになったりして、子供心にすごくもの寂しさを感じたのを覚えています。作り手としてもすごく感化されて。自分で何か作るときは、今でも必ずあれをやりたいって思っているんです。

――そうなんですね。では、青春時代に見て印象的だった作品は? 例えば恋人と映画館に行った作品とか。

 一切ないんですよね......。当時はホラー映画が好きで、そういうのばっかり見てたから(笑)。高校生のときにJホラーブームが来たんですよね。中学のときにめちゃくちゃ好きだったのは『シコふんじゃった。』(1992年)ですけど。

――周防(すおう)正行監督の映画ですね。

 あの作品はセリフを覚えるぐらい何度も見ていて。ひと言ひと言切り返していくような、周防監督の会話のリズム感が好きで、いまだに自分に影響を及ぼしてると感じます。

――気に入った作品は何回も見るタイプですか?

 まさにそうです。食べ物も、気に入ると同じものを食べ続けるので。

――僕は何かに強くのめり込むタイプじゃないので、ちょっとうらやましいです。劔さんの作品を見てても、その一心不乱さが出てるなと感じます。

 僕は人が好きなんですよね。そういう気質は子供の頃からで、例えば中学生のときは近藤くんって友達がめちゃくちゃ面白くて、ずっと近藤くんをウォッチしてました。

歴史の家系図とかを全部暗記するような、少し変わった子だったんですよ。彼は決してクラスの人気者でもなく、むしろ日陰者だったんですけど、僕は大好きでした。

――映画『あの頃。』は、松浦亜弥さんにハマっていた劔さんのハロヲタ時代を描いた自伝的作品ですけど、なんだかそれに通じる話ですね。

 結局、ケーススタディが好きなんですよね。統計を取ってどうのっていうよりも、むしろ特定の人の人生、思想のほうに興味があるんです。大学で社会学を学んだのもそのせいかもしれませんね。

★後編⇒角田陽一郎×劔樹人(ミュージシャン・漫画家)「今の劔樹人がいるのは"あやや"のおかげ」

●劔樹人(つるぎ・みきと)
1979年生まれ、新潟県出身。「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシスト、漫画家。「神聖かまってちゃん」のマネジャー、音楽プロデューサーを経て、2014年に犬山紙子と結婚。狼の墓場プロダクション所属

■『あの頃。』全国公開中
配給:ファントム・フィルム
©2020『あの頃。』製作委員会

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