『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

今回は、現在全国公開中のボクシングを題材とした映画『BLUE/ブルー』に出演する俳優の東出昌大(ひがしで・まさひろ)さんが登場!

■純粋性に惹かれて笑って涙した『ぽんぽこ』

――子供の頃に見て印象に残っている作品は?

東出 人生で一番繰り返し見たのは、高畑勲(いさお)監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年)だと思います。ジブリはほかにもたくさん好きな作品があるんですけど、でも子供の頃は宮崎駿(はやお)監督とか高畑監督という意識はなくて。細かいことはよくわからずに、VHSにとった『ぽんぽこ』を繰り返し見てたんです。

――どういうところが好きですか?

東出 大人になった今、分解して見ると、すごく緻密に作られていて、ものづくりの精神が込められているなと思います。スタジオジブリ作品に限らず、庵野秀明監督や細田守監督の作品もそうですよね。

でも、子供心にほかのアニメーションと一線を画していたのは「人間は必ずしも清いばかりではなく、動物にとっては悪になる」とか「動物は動物で精いっぱいなんだけど、人間を化かそうとしてしまう」というテーマが描かれていたところ。そういう純粋性みたいなものに惹(ひ)かれて、笑って涙していたんだと思います。

――子供の頃に泣いた作品って忘れられないですよね。では青春時代は?

東出 『日曜洋画劇場』など、テレビで放映される映画にどっぷりハマって、週末の楽しみでした。子供の頃は洋画を比較的多く見ていて、中高になるにつれて日本映画も見るようになりましたね。

ただ、最初は寅さんとかのよさはわからなかったんです。小津も溝口も興味なくて、岩井俊二監督や豊田利晃(としあき)監督、堤幸彦監督や行定勲監督、周防(すお)正行監督......そういう映画をたくさん見て育ちました。そのなかでも衝撃的だったのが豊田監督の『青い春』(2002年)。ちょっと"とっぽい"ものが好きな年頃も追い風になったと思いますね。

■主張しているような、していないような印象を与える演技

――東出さんは23歳で俳優デビュー。出演した作品で自分の人生を動かしたものは?

東出 欲張りなので、全部動かしたなと感じているんですけど、あえてひとつ挙げるなら豊田監督の『クローズEXPLODE』(2014年)。台本で決まっていたセリフが毎日のように変わっていったんですよ。

それまでは『桐島、部活やめるってよ』(2012年)しか経験していなかったですし、「セリフから人物を考えろ」と習っていたので、「セリフが毎日変わるってどういうことなんだろう」って。それで最終日に喫煙所で豊田監督に「セリフってなんですか?」って聞いたら、「それがセリフだ」と返されて。

――答えているようで、答えになっていないような。

東出 「自分の中から出た言葉がセリフなんだよ」ってことだったんだと思います。そのひと言は、自分の中で非常に大きかったですね。

――僕は『桐島...』で東出さんを初めて見て、「なんだ、この俳優さんは」と感じた記憶が強烈に残っていて。一見不機嫌な役なんだけど、でも不思議と人間らしいかわいさ、憎めなさがあるといいますか。ご本人的にはどんなことを意識して演じていますか?

東出 それが、自分で意識していることはとても少ないんです。23歳で役者を始めてから「自分はできる」という根拠のない自信を持って目の前のことをこなしてきたんですけど、でも、本当はずっと自信がなかったんです。今でもそれは変わってなくて、撮影初日のワンテイク目が終わった後、監督に「こんな感じですか?」と顔色をうかがいに行く自分がいます。

ただ、自分に自信がない分ずっと思い続けているのは「監督にとっていい材料になれればいいな」ということ。そういうところが、主張しているような、していないような印象を与えるんじゃないかなと。

――東出さんの魅力ですね。では、役者になってから見て印象に残った作品は?

東出 先輩方から、昔の映画を多く紹介していただくようになりました。黒澤明はもともと見ていましたけど、小津や溝口、今村昌平、成瀬巳喜男(みきお)などを追って見ていましたね。役者になっていなかったら、進んで白黒の映画を見ることはなかったと思うんです。 

いざ同業者になって見てみると、「こんなすごいこと先輩方はやっていたのか」とか「こういうお芝居だから黄金期っていわれたりするのかな」と思えてくる。ホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンなどの台湾映画も好きですし、あとは韓国映画もいいですよね。感情の爆発を見ていても、「何回戦くらいやってるんだろう」「このテンションで続けられるんだ」と思うんです。

――東出さんって向上心の強い方なんですね。

東出 いや、すごい先輩方はみんなそうしてるんだと思います。わざわざ口にすることはなくても、接しているとうすうす気づくので、先人たちに習っている感じです。

――最後に新作のお話を。今回もひと筋縄ではいかない役柄でしたが、どうでしたか?

東出 ここまで俳優部に任せて、ナチュラルであることを心がける作品は稀有(けう)だと思いました。今は原作モノが多いですし、エンタメ作品って様式美があって、演技でも見えを切ることが要求されやすいんですけど、ただ吉田恵輔監督、松山ケンイチさんがつくり上げていた現場の雰囲気は違いました。

だから、マイク乗りのいい声でしゃべるとかは要求されないし、逆にマイク乗りの悪い声でしゃべることもありました。いつかやってみたいと思っていた芝居がいくつもできた作品でしたね。

――ベタな質問ですが、どんな方に見ていただきたい?

東出 狭めてしまうようですけど、ボクサーの方に見ていただきたいなと思います。どんな仕事にも光と影はあると思うんですけど、この『BLUE/ブルー』という作品は「よくぞここまで描いてくれた!」と言ってくれるんじゃないか、という自負があります。

それくらい、ボクサーの生き方に肉薄した作品なんですよね。「ここまで深く掘り下げたボクサー映画は、今までなかったのかな」って生意気にも感じています。

ですので、ひいてはどんな方がご覧になっていただいても共感していただけると思いますし、共感がなくても、晴れやかな気持ちで劇場を後にしてもらえる作品じゃないかと思います。まずは、全国のボクサーに胸を張って届けたいですね。

●東出昌大(ひがしで・まさひろ)
1988年生まれ、埼玉県出身。2012年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。映画『聖の青春』『関ケ原』、ドラマ『ごちそうさん』『花燃ゆ』『コンフィデンスマンJP』など話題作に多数出演

■『BLUE/ブルー』全国順次公開中

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