6月4日(金)に『謎尾解美の爆裂推理!!』1巻を出したおぎぬまX先生

2年前の2019年、『週刊少年ジャンプ』および『ジャンプSQ.』が開催する伝統の新人漫画賞、手塚賞・赤塚賞のギャグ部門"赤塚賞"で29年ぶりの"入選"を獲得した鬼才・おぎぬまX

そんな彼の記念すべき初ジャンプコミックス『謎尾解美の爆裂推理!!』1巻が、6月4日(金)ついに発売された。しかし順風満帆に見えて、ここに至るまでの経緯は決して平たんではなかったという。それだけに、今回のコミックス発売の喜びはひとしおだと語るおぎぬまXが感じたプロの世界の厳しさとは?

そして初巻の帯に激励コメントを寄せてくれた憧れの先人・ゆでたまご先生と『キン肉マン』に対する格別の思いについても激白!

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――おぎぬま先生初の漫画単行本、ジャンプコミックス『謎尾解美の爆裂推理!!』1巻がいよいよ発売されるとのことで、まずは発刊おめでとうございます!

おぎ ありがとうございます!

――最初のコミックスが出る、というのはどういうお気持ちなんでしょう?

おぎ もちろん今回コミックスが出せるというのはめちゃくちゃうれしいことなんですけど、ここに至るまでに3つほど大きな山を超えてきたので......うれしいという思い以上に、やっとここまで来れたか、という気持ちの方が大きいですね。

――3つの山とは?

おぎ 漫画家の夢には段階があると思ってまして、ひとつめの山は最初に賞をいただけた時のことですね。

――2年前の赤塚賞入選ですね。

おぎ はい、このひとつめの山を超えられたのがプロになるための最初の大きなきっかけだったことは間違いないんですけど、実は本当に大変なのはここからで、次に雑誌に新作読切を載せてデビューを果たすという山があります。

実際、周りを見ても最初の賞を獲れたはいいけど、この"雑誌デビュー"という山が超えられなくてやめちゃう人も結構いまして......。幸いなことに、僕はここまではすんなり行けました。でも、さらに大きな山がこの先にありまして。

次はただ雑誌に載るんじゃなくて、連載を取りにいかなきゃいけない! この3つめの"連載獲得"という山が、凄まじく高くて険しい山なんですよ。どんないい賞を獲ってても関係なくて、そこは簡単には許してもらえない。それをなんとか超えてようやくたどり着けたのが今の状況ですので......。

そこまでのいきさつを見てない世間の人からすると、今回の初コミックスで「やっとスタートラインに立てましたね!」くらいの感覚なのが当然だと思いますけど、もしここまでの流れがおぎぬまXの漫画家人生を追ったドキュメントだとすれば、この初巻がお店に並んだ時点でもうエンディングのスタッフロールが流れはじめて、はいこれでおしまい!......くらいでもいいんじゃないかなぁと!

漫画賞授賞、雑誌デビュー、連載獲得の3つの山を語るおぎぬまX先生

――ここでやめても悔いはない!

おぎ いや、やめませんよ!(笑)。もちろんこれからも漫画家は続けていきますけど(笑)。でもそれくらいのクライマックス感が僕の中ではありますよね。感慨をもって「やっとここまで来れたんですね」というのが今の偽らざる心境です。

――やっぱり連載の獲得までが本当に大変だった?

おぎ 連載ってのいうは本当に難しくて、それまでは描いたものが面白ければ雑誌に載せてもらえるという感覚だっんですけど、単純にそういう話でもないんですよね。ひとつの雑誌の中で協調性が取れてるかとか、ちゃんと続き物として考えられているかとか、後は単純にのちのちコミックスにしてちゃんと売れるレベルの作品なのかとか。様々な角度からそういうことを事細かく精査される編集部の連載会議という壁がありまして、ここを乗り越えてOKいただくまでが本当に大変でした。

――実際、どれくらいかかったんですか?

おぎ 最初に『だるまさんがころんだ時空伝』という賞を獲った作品を雑誌に載せていただいて、そこから今回コミックスが出せることになった『謎尾解美の爆裂推理!!』の連載デビューに至るまで......そうですね。1年くらいず~っとネーム描いてたと思います。

『ジャンプSQ.』で『謎尾解美の爆裂推理!!』が連載デビューを飾ったときのトビラ絵。ポーズをとるのが主人公の謎尾解美

――1年かけてやっとOKに?

おぎ はい、なかなか通らなくて。1話目なんてもう何種類描いたかなって思うくらいの数を描いてはボツにしての繰り返しで。「これが噂に聞くあの連載コンペというやつか~」と実感しながら(笑)。でもどんな大物作家さんでも最初はそういうもんだって聞きましたのでそれを励みになんとか続けて......やっとでしたね。だからこそさっきも言いましたけど、よくぞ耐え抜いてここまでこれたなと。

今回の1巻発売の映像と一緒に「THE END」の文字がバーンと出て「第一部 完」と出てもいいんじゃないかというくらいの万感の思いで......。

――やめて悔いなし!

おぎ やめないです!(笑)。でも本当に、それくらいうれしいことですね。

――それほどご苦労された連載作品誕生の経緯について、読切作品との作り方の違いとして最も気をつけられたところはどこでしょう?

おぎ 一番はキャラクターですね。長年にわたって読者に愛されるようなキャラクターをいかにして作りこんでいくかというのは、今も最中ですけど、特に意識して取り組んでるところです。どんな名作漫画を見ても世の中にうねりを起こしていくというのは読者に愛されたキャラクターがひとり歩きしてくということだと思うんですよ。

僕の好きな『キン肉マン』にしても、キン肉スグルがいれば、どんな話に転がっていっても面白くなる。ただそう理解して口で言うのは簡単ですけど、そんなキャラクターを生み出すには無から有を生み出す膨大なエネルギーが必要で、簡単にできることじゃない。解美がそんなキャラクターになってくれれば、と思いながらやってますけど......まだまだ途中ですね。

――その解美ちゃんが様々な謎を解いていくというのが毎回のストーリーになりますが、なぜ探偵ものというテーマを選ばれたんですか?

おぎ それは、僕が昔からミステリーとかホラーとかサスペンスとか、少し怖いものが好きだったんです。それに怖いものって子供の記憶に残るんですよ。僕も子供の頃『キン肉マン』を読んだ中で一番記憶に残ってるのは、ロビンマスクがアトランティスに負けて、その剥いだマスクを水中からアトランティスが突き上げて勝利宣言する場面。

これはちょっとトラウマになるくらいの衝撃でしたけど、それくらいのインパクトを残すのに探偵ものというのは悪くないんじゃないかという期待がありました。

――確かに毎回、人が不思議な死に方してますね。バレーボールみたいに体育館の天井に挟まってたり。

おぎ 怖いんだけどちょっと笑えるというのは意識してやってますね。

――しかし、ややもすると殺人事件とギャグというのは相性悪そうにも思えますが?

おぎ そこはむしろあえて狙ってやったところがあります。それは僕が昔、お笑い芸人をやってたのも少し関係してるかもしれませんけど、養成所時代にお笑いのネタを考える時に"緊張と緩和"を大事にしろということはよく言われまして、例えばお葬式の最中におならが聞こえたら妙に笑ってしまうみたいなお笑いのパターンってあるじゃないですか。

それと同じで、殺人事件の中で笑いが起こるというのは不謹慎なんだけど、そういうシチュエーションだからこそ生まれる笑いもあるかなというのは意図してるところですね。さっき例に挙げていただいた体育館の天井に挟まって死んでる人も「なんでそんな死に方してんだよ」みたいなツッコミもありつつ、でもやっぱりちょっと怖いなみたいな。その辺りの絶妙な機微を模索するのが課題だと思ってますし、やりがいのあるところでもあります。

――連載作ならではの楽しいところとして、回を追うごとにどんどんクセの強い新キャラクターも現れていきますね?

おぎ 隙あらば『キン肉マン』の話をしてしまうんですが、実はそこも『キン肉マン』を参考にさせていただいてるところがありまして。『キン肉マン』の世界では"超人"という肩書きを持つ者が新たに出てくるだけで「ああ、試合するんだな」って、読者は何の説明をしなくても理解してくれるじゃないですか。その"超人"に当たる肩書きが『謎尾解美の爆裂推理!!』では"探偵"なんですよ。それでいきなり現れた探偵同士が推理で闘い合って、時には争いの後に友情を深めていくこともあるという......そんな古き良き『ジャンプ』の伝統を踏襲しようとしている"探偵もの"だと思って僕自身はやってます!

――少年漫画なんですね。

おぎ はい、ギャグ漫画であり熱血少年漫画です!

――そんな中で特に先生がご自身で気に入ってらっしゃるキャラクターはいますか?

おぎ そうですね~。あえてひとり挙げるなら、解美の幼なじみの北江麻久里(きたえ・まくり)ちゃんというコがいるんですけど...。

――筋肉キャラの女のコですね。

おぎ はい。最初の構想ではこのコをこういうギャグ漫画では定番のツッコみキャラといいますか、常識人のポジションにしようと思ってたんです。でもどうも勝手におかしな方向に突っ走っていったり、逆に話の都合で動かそうとしたことは拒否して一切やってくれなかったり、描いてるはずの僕自身が不思議なことに全くうまくコントロールできない傾向があるんですよね。

――少なくとも常識人ではなくなってますね(笑)。

おぎ そうですね。そこはもう全然ですね(笑)。おかげでこの漫画、マトモなツッコミ役が誰もいなくなっちゃったんですけど。じゃあ扱いづらくて困るかといえばそうじゃなくて、むしろいないと困るし、大事なキャラクターで。

麻久里ちゃんのその不思議な存在感は何なんだろうと自分でもよくわかってないままなんですが、逆に言えばこれは伸びしろだと思ってもいまして。自分の中で非常に気になってるキャラクターですね。

――じゃあ今巻は1巻目ですけど、2巻目以降でその謎が解ければ、幕理ちゃんがさらにキャラクターとして成長していく可能性も?

おぎ ありますね。そういう幕理ちゃんが描けるように僕も頑張ります!

――あと漫画の作り方として気になったのは、必ず1話を前後編に分けて間にインターミッションのコーナーを入れていらっしゃいますよね。これは何か意図が?

おぎ そこも、昔ながらの『ジャンプ』リスペクトの一環でして、僕が子供の頃に読んでた漫画の記憶って、作者に対してものすごく親近感を持ちながら読んでたと思うんですよ。それはなんでかなと考えたら、昔の特にギャグ漫画って『キン肉マン』のゆでたまご先生もそうですけど、作者自身が結構作品の中に描かれて出てるんですよね。

おぎぬまX先生らしいサービス精神にあふれたコーナーも

――確かにそうですね。ゆでたまご先生に限らず、江口寿史先生、鳥山明先生、新沢基栄先生なんかもよく漫画の中に出ていらっしゃいました。

おぎ そうなんですよ。だから、僕も自分の名前で漫画内に登場して、読者に語りかけてみたらより親しみを持ってもらえるかなと思いまして。それであのコーナーは入れてます。

――詳しくお伺いしていくと、随所に自分の読者体験が散りばめられてますね。そんな『謎尾解美の爆裂推理!!』コミックス1巻ですが、その初巻の帯にはなんと、おぎぬま先生が敬愛する『キン肉マン』のゆでたまご先生からの激励のコメントも?

おぎ これはもう、何から話せばいいかわからないくらいうれしいことなんですが、おぎぬまXが幸運だったのは最初の赤塚賞の授賞式でそこにいらっしゃったゆでたまご先生に直接お会いできて、しかも壇上でハグしていただいたんですよね。こんな受賞のご褒美はないですよ。子供の頃からの憧れの先生なんですから。でもそれで浮かれちゃいけない。こんなよくできた話は人生でそうあるもんじゃないと自分に言い聞かせました。

それで自分でもわきまえてるのは、賞を獲れた際の授賞式では周りからそんな風にもてはやしていただけましたけど、この次にもてはやされる機会が訪れるとしたらそれはもう、漫画家としてちゃんと売れた時しかないと思うんです。逆に言えば次はちゃんと売れるまで、その素晴らしい思い出をガソリンにして走り続けるしかないんです。

でもまだ僕は売れてません。途中なんです。その途中にも関わらず、その足がかりとなるコミックス1巻目を出せるタイミングでまたあの授賞式に続いて、ゆでたまご先生に帯でこのような激励をいただけた。こんなありがたい話はなくて、言わばこれは思いがけない給油ですよ。

口では「まだまだ行けますよ!」って言ってても、あの授賞式からここまで来るのに2年かかってそれなりに疲弊してるところももちろんあって、そこでまたガソリンをいただいてしまった。これでまたアクセル緩めずに走っていけるぞ!っていう勇気をどれだけいただけたか......というくらいのご褒美ですね。本当に感謝してもしきれませんし、その恩に報いるくらい売れていかないと!......と改めて身が引き締まる思いがしました。

できたてホヤホヤ、ゆでたまご・嶋田先生に書いていただいた帯への感謝を、本当に泣きそうになりながら語っていた

――初心に返るという言葉がありますが、おぎぬま先生の"初心"とは即ちゆでたまご先生との思い出にありと。

おぎ そういうことですね。ですからこの先、どんなに辛いことがあってもこの帯を見れば僕はいくらでもまた頑張れる気がしてます。それくらい心強い激励をいただきました。本当に頑張っていかなきゃなぁと思います。

――では最後になりますが、改めてこのコミックス1巻の見どころをご自身で宣伝していただけますか?

おぎ はい。僕はこの『謎尾解美の爆裂推理!!』を"本格ギャグミステリー"と銘打ってるんですが、くだらないなぁ~と思いながらそこにちょっとした怖さが潜んでたり、逆におどろおどろしさのなかにどうしようもないバカバカしさが見え隠れしてたり、という二面性を楽しんでもらえたらと思って描いてます。あとは『キン肉マン』をはじめ僕が子供の頃から読んできた『ジャンプ』という存在に対してのリスペクトも詰まってますので、どうかお手に取っていただければと思います!

――他にコミックスでしか読めないおまけページなども?

おぎ はい。一応ミステリーと言ってる以上、いい加減すぎることは描けないと思って色々取材もしてまして、その取材時のエピソードなども......。

――取材して描いてらっしゃるんですか?

おぎ はい、ちゃんとしてますよ! 学校のシーンなんかは僕の母校に許可をいただいて資料写真を撮らせてもらいに行きました。そうしたら「卒業生が漫画家になった!」ってものすごく好意的にご協力くださって......そんな話も色々描いてます。6月4日発売になりますので、ぜひともお買い求めください。よろしくお願いいたします!

――では本日のインタビューはこれにて終了ということで、ありがとうございました!

おぎ え? あれ? 今日は『週プレNEWS』さんの取材ということで、最近の『キン肉マン』の話とかも......色々した方がいいかなぁと思って来たんですが...?

――いえ、今日はおぎぬま先生のコミックスの取材なので大丈夫ですよ。

おぎ あ、そうですか、なんだ~そうですか......。じゃあここからはカットしていただいていいですけど、最近の『キン肉マン』で一番興奮したのはマンモスマンが出てきたじゃないですか? 僕はあれが本当にうれしくて、長生きするもんだなぁ~と思ったと言いますか、僕は昔っからマンモスマンが......(※以降、延々と濃厚な『肉』トークが続くため省略)

おぎぬまXoginumaX

1988年1月26日生まれ、東京都町田市出身。2019年下期の第91回赤塚賞への応募作『だるまさんがころんだ時空伝』で同賞では29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。2021年「ジャンプSQ.」2月号から『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載開始。まもなく6月4日(金)に初の漫画単行本となる同作ジャンプコミックス1巻が発売となる。

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