キン肉マン大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス3巻を熱く語る

この巻から『キン肉マン』はそれまでの一話完結スタイルからガラリと様変わり。いよいよ「超人オリンピック」という続きものの大注目長編シリーズへと突入していきますよ!

●『キン肉マン』第3巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★(星5つ中の5)

〝オーパーツ〟的な構成に脱帽の第3巻!

この巻を語る上で、まず触れたいのは密度です。何せ冒頭では「超人オリンピック」なる大会が開催されるというところから始まって、巻のラストではもうその決勝トーナメント準決勝戦までが終了......。って何度読み返しても「どうやって作ったの?」って思っちゃう。それも、サラッと流してる感じは一切なく、開会式、予選競技、決勝トーナメントの抽選会を経て本大会に突入し、ロビンマスクやラーメンマンといった超重要新キャラクターが次々と初登場してインパクトを残す。ギャグもたっぷり入ってこのテンポ。〝オーパーツ〟的ともいえるその構成には震えが止まりません。

そして何より、皆さんに冷静に考えていただきたいのは、「超人レスリング」なんて競技はそれまでこの世のどこにもなかったということです。今でこそ『キン肉マン』ファンの間では「これはやってOK、これはダメ」というルールが浸透した立派な競技感がありますが、ゆでたまご先生が何もないところから手探りで、読者を巻き込んでルール作りを始めた、その最初の記録がまさにこの巻。この時点ではまだ、カナディアンマンが巨大化したりもしていますが、今じゃそれもご法度です。そんな曖昧さが残りつつも、徐々に整備されていくこの貴重な過程は、例えば音楽のラップシーンで「フリースタイルバトル」という形が成立していく過程を見るような趣もあって、超人レスリングファンとしてはとても感慨深いところです。

そんな大枠を先に押さえつつ、今回はそこに収められた数々の試合の中から僕のベスト3戦をご紹介していく形で、より詳細な魅力をお伝えしていきたく思います!

ゆで先生の構築した容赦なきこの世界!

というわけで、おぎぬまX的ベストバウト第3位「ラーメンマンvsブロッケンマン」。『キン肉マン』は基本的に愉快なギャグ漫画ですけど、時々驚くほど残酷なシーンもあるよね、というのは1、2巻の間でも見てきたことで、これはまさにその一面を象徴する究極の試合。反則だらけの猛攻を受けてブチ切れたラーメンマンが、対戦相手のブロッケンマンを殺しちゃう。しかも胴体を引き裂いて......。考えてみてください、2戦目にしていきなりこれ見せつけられた当時の子供たちの気持ちを。絶対、思ったことでしょう。「これ、どういう大会なの?」って(笑)。だって普通、スポーツの大会で相手殺しちゃダメでしょ!? でも、ラーメンマンにお咎めはありませんでした。そう、これがゆで先生の構築された超人レスリングのルール!

ここにきてようやく読者は、キン肉マンが生死をかけた場に来た、という予想外の緊張感を一気に植えつけられるわけです。演出的にも実にうまい、意義深い一戦だと思います。

続く第2位「テリーマンvsスカイマン」。主人公のキン肉マンの試合はどうしてもギャグパートが多くなる傾向がありますが、対照的に、ここまでの存在感で準主人公ともいえるテリーマンの試合は徹底してシリアスパート。まず、その対比が美しいですよね。しかも、みんな絶対強いと思ってるテリーマンが大苦戦の末、一切インチキなしの純粋な技と技のぶつかり合いで起死回生の大逆転勝利。シンプルに、正当なプロレス漫画として名勝負なんですよ。ただのギャグばかりじゃなくて、こういうガチの展開もしっかり描けるんだぞという作品の懐の深さをゆでたまご先生が見せつけてくれた、見落としてはいけない一戦です。

そして、第1位「ロビンマスクvsテリーマン」。この試合のスゴさは、ここで語り尽くせる気がしないので、あえて一番好きなコマをひとつ挙げます。それが「よみがえる西部魂の巻」のラスト、遅れて会場にやって来たテリーマンが、背中を向けてリングに向かっていくシーン。会場は大いに沸きますが、実は足の大ケガを隠していて、とても闘える状態じゃないんですね。作中での会場の盛り上がりとは裏腹に、読者はこりゃ勝てないと半分思ってるわけです。

でも、テリーマンは行くんです。それを知ってる読者に背中を向けて。思い起こすのは1巻で紹介したテリーマン初登場回。その回では、それまでお金の亡者だったテリーマンが改心、やはり読者に背中を向けてキン肉マンを助けに行くラストでした。しかしあのときの勇ましい背中ではなく、今回はせつなさに満ちた哀愁の背中。それを思うと、テリーマンというのはつくづく背中で語る男だなと。その闘いの結末はまさにドラマです!

そんな多種多様な魅力が、絶妙なバランスで共存するこの第3巻。特に、おぎぬまのようなテリーマン好きにはバイブルともなりうる1冊。今回も超オススメです。

こんな見どころにも注目!

面白ければ、細かいことはどうでもいい。そんなゆで先生の割り切りが、強烈に感じられるのがここ。スカイマンに追いつめられダウンしたテリーマンに、スペシャルマンが声援を送りに行くという感動的なシーンですが、ダウンカウントは通常10のはず。しかし、その危機を病室のテレビで見たスペシャルマンは、なんとかはい出し見事10カウント内にリングサイドへ。起死回生につながる声援を送ります。考えてはいけません。それより感動を大切にしたい。私はそう思うのです!

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載、『ジャンプSQ.』12月号にて幕を閉じた。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!

11月22日(月)発売『週刊プレイボーイ』49号は休載特別『キン肉マン』コラム4本を掲載!!

さらに!!!

"いい肉の日"11月29日発売『週刊プレイボーイ』50号は、「『キン肉マン』超人総選挙2021」結果発表特集を掲載!
裏表紙には、ゆでたまご中井先生描きおろしの総選挙29位超人が登場!!

●JC『キン肉マン』76巻、好評発売中!!