『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

今回は、最新出演映画『189』が公開中の女優、夏菜さんが登場。幼少期から好きだった"怖い作品"や転機となった出演作を熱く語ります!

■10歳で衝撃を受けた『羊たちの沈黙』

――幼少期に見て印象的だった映画はなんですか?

夏菜 小さいながらに記憶に残ってるのは『羊たちの沈黙』(1991年)ですね。お父さんがWOWOWに入っていて洋画ばかり見てました。

――何歳頃ですか?

夏菜 本当にちっちゃいですよ。まだ10歳くらいの頃に見て衝撃を受けて。そりゃそうですよね(笑)。

――(笑)。どんな感想を持ちましたか?

夏菜 「すごく気持ち悪いんだけど、もう一度見たい」って思って、何回も見た記憶があります。もともと怖い作品が嫌いじゃなくて、逆に興味を持つタイプの子供だったんだと思います。ほかには『キューブ』(1998年)とかも、同じくらいの年齢で見てて。

――『キューブ』も!?

夏菜 そうなんですよ。マンガとかも『殺し屋1(イチ)』とか好きだったりするんで(笑)。でも、『13日の金曜日』(1980年)みたいなホラー映画は特に好きじゃないんですよね。ストーリー性や謎解きがあって、犯人の思惑みたいなものが見える作品だと、けっこう好きになることが多いです。

――ちなみに、そういう作品と出会って、「出たい」と思いましたか? それとも「作りたい」と思いましたか?

夏菜 「出たい」とか「作りたい」って気持ちはまったくなかったです。どちらかといえば「解明したい」かなあ。そのときはまだ、まさか自分が女優になるとは思ってもいなかったので。

――では、この世界に入ってから「出たい」と思ったのは?

夏菜 『ラスト・フレンズ』(フジテレビ、2008年)です。「こういうドラマに出たいな」と思った記憶があります。

――そうなんですね! 『羊たちの沈黙』から好みが一貫していますね。

夏菜 私、ちょっと変わってるかもしれないですね。恋愛ドラマに出たいという気持ちもあんまりなかったですし。人生観を問うような作品に惹(ひ)かれることが多いです。

――では、ご自身が出演して人生が動いた作品は?

夏菜 間違いなく『GANTZ』(2011年)でしょうね。作品としても、私が出たかった路線ですよね。原作が青年マンガだったので、オーディションまで読んだことはなかったんですけど、今振り返ってもあんなにハマったマンガはないし、今でも一番好きな作品です。だから、その中に自分が入り込めるうれしさは大きかったですね。

撮影中も、佐藤信介監督のすごさを感じていました。とてもスマートで、感情の波も基本的にはないような方なんですが、繊細で演出も細かいですし、その結果、あんなエグいものができて......。表裏一体なんだなと思いました。

――夏菜さんといえば、『ピカルの定理』(フジテレビ、2011~12年)の印象も強いです。

夏菜 バラエティで一番好きだったのが『水10!』(フジテレビ、2002~07年)で、『ワンナイR&R』とか『ココリコミラクルタイプ』とかが大好きな子供でした。あと『笑う犬の冒険』(フジテレビ、1998~2003年)も大好きでしたね。はっぱ隊のマネをしたり、みんなが好きなものが好きな普通の子供で。

だから、『ピカル』に出られたのは『GANTZ』と同じように、憧れた世界に入り込めた感覚がありました。最初はできるとも思ってなかったんですけど、やってみて一番楽しかった番組でしたね。

――話を戻して、最近見て特に面白かった作品をお聞きしたいです。

夏菜 少し前ですけど、韓国映画の『オールド・ボーイ』(2004年)は衝撃でしたね。「マジか!」って展開だし、やっぱり救いようのない作品が好きなんですよね。

――エグい作品ですけど、ストーリーも面白いですもんね。

夏菜 「もっと悲しい、どうしようもない展開が出てこないかな」って普段から思ってるんですけど、それがけっこう韓国映画や韓国ドラマにはあるんですよね。

■「189」という番号だけは覚えてほしい

――最新出演作『189(イチハチキュウ)』について聞かせてください。児童虐待をテーマにした作品で、タイトルは児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」にちなんでつけられているんですよね。

夏菜 この作品に携わるまで、そういった番号があることも知りませんでした。虐待は避けられやすい話題でもありますが、この作品はみんなが真正面から演じています。

私は弁護士を演じましたが、子供との距離感が難しかったです。児童福祉司役の中山(優馬)くんほど真正面から向き合う立場ではなかったので、近くなりすぎてもダメだし、引きすぎてもダメで。虐待の瞬間も目の当たりにしていないので。

――今日の取材、虐待する父親役の吉沢悠(ひさし)さんじゃなくてよかったです(苦笑)。何を聞けばいいんだって思うくらい、壮絶な役柄だったので。

夏菜 はい、この役をよくやってくださいましたよね。

――現場でのディスカッションはありました?

夏菜 たくさんありました。私よりも年下なんですけど、中山くんがすごく引っ張ってくれる男らしいタイプの方で。とにかく熱くて、熱すぎて。私は時々右から左に流すくらいでした(笑)。役柄的には私のほうが引っ張る感じですけど、実際は中山くんが座長として引っ張ってくれましたね。

――リアルな分、ほかの作品よりも「踏み込めない部分」が描かれている印象でした。

夏菜 この作品は児童相談所の物語である一方で、個々の物語でもあるんだろうなとすごく感じました。お母さんやお父さんの中にも、DVをしたくてしてるわけじゃない人もいっぱいいて、だけど吐き出すところがない方が多いんだろうなって。

私も今妊娠していて、これから子供を育てていく身ですけど、吐き出せるところは必要だし、甘えるところは甘えながら子育てしていこうと思いました。

――どんな方に見ていただきたいですか?

夏菜 見なくてもいいから「189」って番号だけは覚えてほしい......というのは冗談ですが(笑)、苦しんでいるお母さんやお父さん、周りにそういう人がいる方に見てもらいたいです。「どうにかなるかもしれない」という救いのひとつとして知っておいてほしいですね。

児童相談所の問題を解決するには国に問いかけなきゃいけないので、本当はそういう人たちに見てもらえるのが一番なんですけどね。

●夏菜(なつな)
1989年生まれ、埼玉県出身。女優として映画やテレビドラマ、CMに出演するだけでなく、バラエティ番組やYouTubeなど多方面で活躍中。映画『GANTZ』シリーズ、『君に届け』『監禁探偵』、NHK連続テレビ小説『純と愛』、ドラマ『らんま1/2』『ハケンのキャバ嬢・彩華』など多数出演

■『189』全国公開中
配給:イオンエンターテイメント
©映画「189」製作委員会 ヴァンズピクチャーズ

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