『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!

希代のストーリーテラーのふたりが9、10月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

■ジェロニモは〝蛙亭的プレッシャー〟をつくった

燃え殻(以下、) 前回の対談(9月13日発売『週刊プレイボーイ』39・40号「特別編 ゆでたまご嶋田先生降臨!!の巻」)は、初戦がジェロニモ、どうなるんだろう、という心配で終わったんだけど。

爪切男(以下、) そうですね、最初がジェロニモだから、っていう。

 でも、ジェロニモがどう勝つのか?っていうのが、プロレス論としては、語れますよね。

爪 そう。新日本の〝ヤングライオン〟でよくある「本当におまえで大丈夫なのか?」って先輩に言われながら「俺が行きます!」みたいな。

 で、ちょっと意地悪な、鈴木みのるみたいな先輩がアシュラマン(笑)。

でも、ジェロニモが闘った超神、ジ・エクスキューショナーが、実は昔ジェロニモと関わりがあった、というのは意表を突かれましたね。

爪 ジェロニモが人間から超人になるときに、引き上げてくれた神様だった。

 「ええ、そこ?」っていう。でも、それが『キン肉マン』っぽくておもしろい。

 あれ、試合中に気がついた人っていたんですかね、読者で?

担当編集 鋭い意見の方いましたね、ツイッターとか見てると。

 いたんだ? スゴい! コアファンすぎる、それは。

爪 もしかして、この先も、超人たちひとりひとりが闘う超神と、「実はあのときの......」っていう因縁があるのかもしれないですね。

 あ、それおもしろいね。

爪 そう考えたら、今回の8人はみんな、何かしらのテーマがあって選ばれた、ってことになりますもんね。確かにみんな、過去に何か因縁がありそうなメンツなんですよね。

あと、ビックリしたのは、ジェロニモの「アパッチのおたけび」、こんなに効くんだっていうのが、初めてわかりました。

 はははは!

 浴びるとあんなに体が崩れたりするんだ?と。でもあの描写、エグかった。喉を切られて、それを手で押さえて叫び続ける。

 『キン肉マン』でたまにある、血は出ないけどグロい描写、ミート君をバラバラにするとか。

 そうそう。子供からしたら、スゴいショックな。

 アトランティス戦のときのロビンマスクも、エグいやられ方したじゃない? あと、スプリングマンにウルフマンがボロボロにされた試合とか。かわいいスプラッタというか、キンケシの足をハサミで切っちゃうのに近い、というか。

 よくやりましたよね!

 そういう意味では、久しぶりにヘビーな試合だったな。喉に空いた穴を手で押さえて「アパッチのおたけび」を続けるって、大日本プロレスでもやらないよね(笑)。

 でも、ジェロニモが勝ってよかったなあ、ほんと。

 あと、ジェロニモ、テリーマンのテキサス・クローバー・ホールドからフィニッシュに行ったじゃない? あれはよかった。

 すごくいいですよね。

 テキサス・クローバー・ホールドって、現実のプロレスでも地味な技じゃない? でも、たまに外国人選手が使うとうれしい。

 そこからのフィニッシュ技も、すごくよかった。テキサス・クローバー・ホールドからの、ニュー・マシンガンズカウベルスタンピード。この技、DDTのレスラーとか、誰かマネしそうな気がする。

 できるかなあ?

爪 コーナーポスト上で揉み合い、固めて、そのまま落とす、とか。

 でも、難易度が高いから、両方とも相当うまくないと危ないね、かけるほうもかけられるほうも。

 上野勇希と遠藤哲哉(*それぞれ学生時代に器械体操、新体操を経験)だったらできるかも。マネしたくなる技ですよね。プロレスラーがやれそう。だから、すごくいい技なんですよね。やれそうな技って、めっちゃいい技だから。

 そうね。久しぶりだもんね、『キン肉マン』で実際にやれそうな技って。

 それにジェロニモ、一番僕らに近い超人だから。もともと人間で、弱いところから這はい上がってきて。でも、これまでずっとパッとしなかったから。

燃 そうだねえ。

 ようやく日の目を見たから。これが最後のスポットライトでないことを、祈るばかりですよ。

 ビッグボディの試合もそうだったけど、総決算感がすごいというか。最後にひとりずついいところを見せて、総ざらいしていく。これからもそうなるのかな。

 どうなるんでしょうね、これから。とりあえず今回は、僕は十分に満たされたけど。プロレスを会場に見に行って、帰るときの満足感、「いい試合見たな」「いい興行見たな」っていうのが、今回のジェロニモ戦にはありました。

■ジェロニモの次は誰であるべきか

 その次の展開がね。ジェロニモ以外の超人7人が、競い合いながら最上階に向かう。平穏が来て、また乱れて、争って、というのは、プロレス論としては正しいんだけど。

 うん、正しいですね。

燃 あと、『キン肉マン』の昔からのいいところとして、途中、平気で路線が変わる、みたいなところがあるじゃない? 昔、「7人の悪魔超人編」とか悪魔六騎士のあたりで、話が進んでいくうちに、人気があるか、ないかみたいなパワーバランスに、だんだんなっていって。「リアル・ディールズ(真の男たち)」のメンバー間でも、バッファローマンは、格でいったらアシュラマンより下なはずなんだけど、人気があるから同等になっていったり。プロレスと同じで、売れてるキャラクターはとことん売る、みたいなね。

 フックアップされる。

燃 だから、『キン肉マン』特有の「途中で話が変わってねえか?」みたいなふうになってもいいから、おもしろい試合を優先してもいいのかなと思う。ストーリーを大切にするより、試合を大切にしたほうがいいのかな、という。

爪 そもそも、そういう人ですよね、ゆでたまご先生。昔の『ジャンプ』の頃も、試合がよければそれでいい。

 そう、だからジェロニモ戦って、試合がよかったんですよ。

 そうすると、今年の『キングオブコント』(TBS系、10月2日放送)みたいになるんですよね。トップの蛙亭がめちゃめちゃよかったから、それ以降の人たちもいつも以上にがんばるしかない。そういう意味では、最高のトップバッターとしての試合を、ジェロニモも果たしたから。

 ああ、わかる! 確かに。

 だから大変ですよね、これから試合する人は。

 興行のハードルが、1試合目でかなり上がっちゃってるから。

 トップの蛙亭からよくて、審査員が90点以下は出せなかったあの雰囲気のなか、優勝した空気階段的存在がリアル・ディールズにいるかどうかですよね。

燃 『キングオブコント』は、その後男性ブランコ、ニッポンの社長がウケて、これ以上ない空気になってた──。

 にもかかわらず、その後のザ・マミィが、さらにめちゃめちゃウケて、空気階段どうするんだろう、と思ったら、それをさらに超えた。

『キン肉マン』でのカギは、「キン肉マンがいつ試合をするんだ?」というところになると思うんですけど。

 まだ、遠そうだね。

 で、キン肉マンの試合への期待度が、ものすごく上がっていく。しかもキン肉マン、みんなと考え方が違ったじゃないですか。ほかのメンバーは闘い合うモードなのに、「みんな平和に仲良く」とか言ってて。そんなキン肉マンが、これからの試合で何を見せるのか。

 キン肉マンのハードルは上がるね。

爪 っていうか、みんなハードルが上がりましたよね。そもそも、みんなジェロニモよりも格が上なのもある意味ツラいかも。(担当編集に)次は誰なんですか?

担当編集 それを、おふたりなりに予想してもらうのが、このコラムの趣旨です(笑)。

 そうでした(笑)。超神相手にジェロニモが勝ってる状況だから、「次は、誰か負かさないとな」みたいに考えるかな、ゆでたまご先生は。

 そうかもね。負けたときの感じが見えるのは誰かって考えると、ネプチューンマンとウォーズマンなんだよな。

 確かに。でもネプチューンマンは勝ってほしい。いろいろあった人やから。

 ウォーズマンのほうは、負け方に悲哀があるじゃない?

 ありますね。で、今回の場合、一番考えられないのが、アシュラマンが負けてサムソンティーチャーの敵かたき討ち失敗。

 ああ、ないねえ。

 先生と教え子がふたりとも負けた、それはさすがにあっちゃいけないやつだと思う。そうなると、勝敗とあんまり関係ないところにいるのがサンシャインなんですよね。

 ああ、サンシャイン、負けそうかもね。

 でも、キン肉マンが一番寝ぼけたこと言ってんだよな。そのキン肉マンが本気になる要素が、これから出てくるんだろう、と思ったら、怖いですけどね。昔は、キン肉マンを本気にさせるためにミート君をバラバラにしたりしたわけですからね......。

 だから今回も、そのために、相当な犠牲者が出るんじゃないかっていう(笑)。

 そういえば、この記事が載る翌週の『週プレ』は、人気投票(10月25日~11月8日の間投票が行なわれた「『キン肉マン』超人総選挙2021」)の結果が出るんですよね。

燃 あ、そうかそうか。

爪 ひとり3票入れられるシステムですけど、もしひとりに絞るとしたら、どうします?

 俺はザ・ニンジャ。超好きなの。ザ・ニンジャの負け方が好き。

 僕はミスター・VTR。嶋田先生と前回の対談でお話ししたときに、先生のお気に入りだったから。

 ああ。爪さん、ちゃんとしてる、そういうとこ。

 先生のお話聞いてミスター・VTRのところを読み直してみたんだけど、確かにキン肉マンを追いつめてるし。VTRだから巻き戻しとかできる。スゴい能力ですね、今思えば。

 はははは。

 でも、こうして人気投票が盛り上がるのが『キン肉マン』のスゴいところですよね。

 そう思う。それだけキャラクターが立ってるマンガって、ほかにないよね。

 11月29日発売の『週プレ』50号(*全国書店コンビニでの販売は終了)で発表だそうです。

 ああ。爪さん、ちゃんとしてる、そういうとこ(笑)。

●燃え殻(MOEGARA
1973年生まれ、神奈川県出身。テレビ美術制作会社に勤めながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、2016年、90年代の若者を描いた『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)で小説家デビュー。本年、同作が森山未來主演でNetflixより全世界同時配信予定。最新著『これはただの夏』(新潮社)も好評発売中

●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。昨年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。本年2月より『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、3月『働きアリに花束を』(扶桑社)、4月『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)、の3ヵ月連続のエッセイ集刊行でも話題となっている

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