『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

今回は、最新監督作『エッシャー通りの赤いポスト』が12月25日(土)から全国公開予定の園 子温(その・しおん)監督にお話を伺いました!

■洋画劇場で映画マニアに! "元カノ"には興味なし

――小さい頃に見て印象に残った作品はなんですか?

 難しいですね。小学生の頃から映画マニアだったから、ありすぎちゃって。割合で言えば、アメリカ映画が90%、ヨーロッパ映画が10%で、日本映画は皆無。高3ぐらいまでずっと洋画で日本映画はほとんど見たことがなかった。あ、でも『ゴジラ』とか『ガメラ』は見てたかな。

――映画マニアになったきっかけはなんですか?

 僕の子供の頃はテレビで毎日のように洋画が流れていたんですよ。『洋画劇場』とかね。それを全部見れば、基本的には洋画通になっちゃう。

今思えば、通が見る映画ばっかり流していましたよね。もちろん、流す側も見る側もそんな意識はなくて、例えばヒッチコックの『鳥』(1963年)がやってても、スピルバーグを見てるような感覚でしたから。だから、ヒッチコック、トリュフォー、ゴダールと全部平等に、優劣つけずに見てましたね。

――洋画だけを見続けていた方はこの連載で初めてです。

 ほかの人が書いた映画ランキングのパネルを見させてもらっていて思ったんですけど、みんな数作をよく選べますよね(笑)。僕なんか、「これだ!」という作品が全然浮き上がってこないですよ。そりゃあ印象的だった作品はありますけど。

例えば、中学生のときに見た『ジョーズ』(1975年)とか『エクソシスト』(1974年)とか、そういったものは当時は画期的だったし、印象的でしたよ。だって、見たのが中学生だったし。でも、高校生ぐらいからは感動慣れもしてるから......。

――ご自身がプロになってから印象的な作品は?

 んー、今なんとかひねり出そうとしてますけど......。

――では、ご自身が作られた作品ではどうですか?

 "元カノ"ですからね......。いいとこを挙げようと思えば挙げられるけど、もう興味ないっつーか。当時はむちゃくちゃ愛してたけど、今どうかって言われれば、思い出せばヤれるけど、どうかなって(笑)。もう一回会って付き合いたいかという意味だと、何作品かはあるかなあ。

――というと、園さんはパート2はあまり作りたくないってことなんですかね?

 いや、ちょっと待って。ヨリを戻すってパート2って意味?(笑)

――では再婚で(笑)。

 "元嫁"としてなら......まあ、少しあるかな、くらい。でも、そんなことするなら、新しい嫁を探したいな。

ほら、傷つきやすい乙女って、元カレがスポーツマンなら次は文系にいくでしょ? 僕もそういうところがあるんですよ。「ここはもう飽きた」ってなると、違うところに飛びたくなる。だから、ハリウッドに行っちゃったり、今回みたいに自主映画を撮ったり。

――僕がプロデュースしていたバラエティ番組『オトナの!』(TBS、2012~16年)にゲスト出演(2013年)していただいたとき、園さんは「大人とは、質より量」とおっしゃっていましたよね。

「来た仕事は全部受ける。バカバカ作っていれば、結果的に数作、名作が生まれる」とおっしゃっていて、そこから僕も仕事を断らないようにしてまして。

 え、すごいですね(笑)。でも実際、そのモットーでずっとやってましたね、僕も。

――そもそも、映画監督になろうと思ったきっかけは?

 いや、きっかけなんかないですよ。僕はもともとシンガー・ソングライターかマンガ家になりたかったんです。集団主義が苦手で、文化祭とか逃げ回ってるほうだったので、ひとり作業のほうを目指していろいろやってて、最後に残ったのが映画だった。

ただホメられたことを伸ばしただけです。『俺は園子温だ!』(1985年)で自分を撮って「珍しい」と言われ、その後に感動するドラマを撮ると賞が取れると思って、いざ撮ったら本当に賞が取れて。

そこからは「映画やるしかないのかなあ」ってぼんやり思うようになったんですけど、ずっと、ちょっとだけ思ってるのは「道を間違えたかなあ」ってこと。ほかの映画監督たちの顔を見ても、「僕が属するグループの顔してないな」「なんかタイプが違うんだよな」って思うんです。

でも、映画監督になって得したなと思うこともありますよ。それは、自分の中で中途半端に終わったことを映画でやれること。今回の作品は音楽監督もしているし、絵コンテにはマンガが、セリフには詩の経験が生きているから。「中途半端なものを全部合わせると100%になれた」ってことかな。

■園子温作品にしては珍しく元気が出る

――新作『エッシャー通りの赤いポスト』について伺いますが、久しぶりの自主製作映画ですが、この作品を撮りたくなったのは、ハリウッドデビュー作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』(2021年)の次だったから?

 いえ、実はその前に撮影してたんです。心筋梗塞(こうそく)でぶっ倒れたとき(2019年)に、もともと撮る予定だった『プリズナーズ...』が延期になって、予定ががら空きになっちゃって。

それで僕も死なずに復活して、「やることねえな」と思ってたら、「ワークショップやってみませんか?」と言われて、どうせなら映画も撮っちゃおうってことになったんです。

これが意外と無心になれてね。そもそも公開するとも思っていなくて、昔撮った8ミリみたいに、仲間内で見て終わると思ってたから、今すごく評判がいいのは意外だし、「こんなふうに撮れば、みんなこんなに面白がってくれるんだなあ」という驚きがあります。

――驚き、ですか。

 僕はみんなの感想を寄せ集めて、「結果的にこういう映画だったな」って思うタイプなんですけど、「元気が出た」とか「勇気をもらった」みたいな声が多くて、自分の映画にしちゃ珍しい(笑)。

――園子温らしさもあるんだけど、普通に楽しめますよね。

 ただ無心に撮ってただけなんですけどね。「自分の家で見りゃいいや」くらいの感覚で。いつも人を憂鬱(ゆううつ)にさせる映画ばっかり撮るから、久しぶりの感想だったけど、悪くないなって思いますね。

――悪くない、なんですね。

 昔、泣けるドラマを狙って作って賞を取ったように、そういう作品も意外とやれなくもないから、これからは人を元気にさせてみようかな......という卑しい気持ちがあります(笑)。

●園 子温(その・しおん)
1961年生まれ、愛知県出身。主な監督作は『自殺サークル』『紀子の食卓』『エクステ』『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『恋の罪』『ヒミズ』『希望の国』『地獄でなぜ悪い』『TOKYO TRIBE』『新宿スワン』『ラブ&ピース』『リアル鬼ごっこ』『映画 みんな! エスパーだよ!』『アンチポルノ』『愛なき森で叫べ』『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』など

■『エッシャー通りの赤いポスト』12月25日(土)から全国順次公開予定

配給:ガイエ ©2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会

【★『角田陽一郎のMoving Movies』は毎週水曜日配信!★】