キン肉マン大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス5巻を熱く語る

超人オリンピックで優勝を果たしたキン肉マン、栄光のベルトを引っ提げて防衛戦を展開していく新章「アメリカ遠征編」へ。
物語の雰囲気はガラリと変わるも......!?

『キン肉マン』5巻

●アメリカ遠征編の神髄は『ヤングキン肉マン』!?

最初に告白します。『キン肉マン』のすべてを愛するこの私、おぎぬまXがその中でも一番好きなシリーズを挙げろといわれたら迷わずここ、アメリカ遠征編と答えるでしょう。それほどの想いを抱えた私が、そこを収めた5巻、6巻の魅力をどこまで皆さんに伝えられるか。今回は、いつも以上に緊張しながら語っていきたい所存です!

ざっくりシリーズの説明をしますと、超人オリンピックで優勝したキン肉マンが、まだ見ぬ強豪と闘うべく、住み慣れた日本を離れ、世界を転戦していく。しかも、アメリカが舞台ということもあるのか、絵柄までアメコミ調に変わって、キン肉マンの表情やセリフもやけに尖った若さが見える、荒々しい! キン肉マンといえば優しさのイメージが強いと思いますが、このシリーズに関しては精神的な未熟さがものすごく残っていて、今だとやらないような乱暴なこともどんどんやっちゃう。でもそこが、このシリーズならではのキン肉マンのカッコよさ。ネタバレになっちゃいますけどその集大成が、本巻のラストを飾るキン肉マン怒りの絶叫シーン。「てめえらみな殺しだっ!!」。

こんなこと、今の成熟したキン肉マンなら口が裂けても言いませんよ(笑)。それを言っちゃう荒々しさ。このようなシーンがほかにも随所にちりばめられていて、そういうところを見つけて楽しんでいただける人にはたまらない巻です。

そして、ストーリー面における最初の衝撃はなんといってもキン肉マンの黒星から始まるところ。超人オリンピック優勝者が、いきなり負ける。なんとこれ、キン肉マンの公式戦初黒星。それも、メインの相手であるジェシー・メイビアの付き人に。度肝を抜かれますよね。ここまでキン肉マンは絶対負けない、なんだかんだいって最後は勝つと無条件に信じてた人も多いと思うんですが、それを覆すところから始まった。前巻のロビンマスク戦から地続きのテーマ「もうキン肉マンは、ラッキーだけじゃ勝てませんよ」ということをゆでたまご先生はこの初戦で完全に確定させた。物語が新たな次元に移行した瞬間です。ここに至ってキン肉マンはとうとう読者が納得するくらい、本当に強くならなきゃいけない。それが、プリンス・カメハメという一生の師とのエピソードにつながっていくわけです。

●ゆで先生の英断。カタルシスを最優先!

では実際、キン肉マンはどうやって強くなるのか。その強化過程を見せる修行話も、また少年マンガにおいては定番展開。しかしここで、またゆでたまご先生のミラクルが炸裂します。それはなんと......まさかの修行シーン全カット! 弟子入り成立の3ページ後にはもう別人のように完璧に仕上がったキン肉マンが出てくる超絶スピード感。しかしこれも、作家としてはある意味ものすごく合理的な選択をされたとも思うのです。なぜなら、一般的な話として、修行シーンってカタルシスが提供しにくく、言ってしまえば退屈になりがち。じゃあ、そこをどうするか。ゆでたまご先生は、全部そこを切っちゃった。あまりにも潔いこの選択。マンガに描かれた「存在するシーン」に驚かされることは多々ありますが「存在しないシーン」のスゴさに驚かされる。これもまた外せない注目点です。

そして、ジェシー・メイビア戦。見どころはなんといっても決め技の風林火山。ハイライトは2番目の「林」の技、空を駆け上がっていくローリング・クレイドル。「え?」って思いました。だって、普通のローリング・クレイドルはマットの上を転がるだけで、空に駆け上がったりは絶対しません。でも、そんな超常現象じみた芸当こそが超人プロレス。思えば、その元祖はこの技でした。そして決着。紛うことなき強豪相手に、キン肉マンが本当に運要素なしの実力のみで完勝。これも初。まさに作品の隠れたターニングポイントと言っても過言ではない「初」尽くしの名勝負です。

さらに、ついに始まるアメリカ本土での超人協会、超人評議会、超人同盟の3団体勢力争い。この団体間抗争最大の魅力はキン肉マン、ローデス、スカルという各陣営エースの実力が拮抗していて、絶妙なバランスで保たれた対立構造であるところ。ほかのシリーズでは、圧倒的に強いラスボスに、挑戦者のキン肉マンがどう立ち向かうかという構図が多いなか、些細なことですぐに勢力図が激変する、まさに異質の緊張感、先が読めない面白さ。そこもこのシリーズの特異性のひとつでしょう。

その果てに用意されるのは、ロビンマスクとの再戦という奇跡の極上カード。前回は機転で勝ったキン肉マンが、今度こそそれが通用しない状況でどう立ち回るのか。確実にキン肉マンの成長が感じられる試合ぶりは超必見。そして冒頭でも触れた、最後に飛び出すキン肉マンの衝撃的な叫び。何度見直してもこの巻のラスト1コマに、私はただ痺れます。

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!

●1月31日発売『週刊プレイボーイ』7号では、
『キン肉マン』休載特別コラムを掲載!!

『謎尾解美の爆裂推理』2巻、好評発売中!

1月31日(月)発売『週刊プレイボーイ』7号は休載特別『キン肉マン』コラム4本を掲載!!

●JC『キン肉マン』77巻、好評発売中!!