プロダクション代表を務める千葉一郎氏
『キャプテン』『プレイボール』など、いまだ愛される名作で知られる漫画家・ちばあきお氏が、当時連載中の『チャンプ』人気絶頂の最中に突然の急死、驚きとともに多くの人から惜しまれたのが1984年のことだった。

時が経ち、その続編『プレイボール2』がコージィ城倉氏によって作品化、再び人気を博し、現在は『キャプテン2』が「グランドジャンプ」誌上で連載を継続。今年は『キャプテン』初連載から50周年の節目を迎える。

そのメモリアルイヤーに一冊の評伝が刊行、タイトルは『ちばあきおを憶えていますか』――早逝した作家の遺児であり、現在はプロダクション代表を務める千葉一郎氏が自ら家族や近しい関係者に取材、赤裸々に綴(つづ)った父親の素顔、創作の裏にあった壮絶な苦悩とは......。

長兄・ちばてつや氏を筆頭に漫画界で知られる"ちばファミリー"の歴史でもあり、一家の絆を窺(うかが)い知る貴重なインサイドストーリーとなる本作の副題は「昭和と漫画と千葉家の物語」。そこで、前編記事に続き、執筆した思いなどを著者に直撃、語っていただいた。

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――自身にとってはパンドラの箱を開けるような怖さもあったでしょうが、知られざる父親像と向き合い、今となっての心境は?

千葉 自分も9歳という年齢で父親が亡くなったことはもちろんすごく残念なことではあるし、正直ぐれた時期もあったりして。いろんなことから逃げ回って、それも今の自分になるために成長させてもらう機会になっていたのかなと。ここまでいろんなことを考えられるようになったのも、そのおかげというか。

――そういう気づきもあって、大きすぎる父親の存在と喪失をようやく受け止められるように......。

千葉 そうですね。逆に、父が生きていたらもっと甘えてしまって、自立もできないろくでなしになったんじゃないかとも思いまして(笑)。

――親の七光りで、比べられるプレッシャーも二世にはありがちですね。

千葉 それで大変なことをしでかして、世の中を大騒ぎさせていたかも(苦笑)。

――そこで千葉ファミリーの存在や、あきおさんを慕って愛してくれた周囲の存在も支えとなってくれたはずですが......。

千葉 本当にみんなが近くにいてくれましたからね。そういう意味では、すごい幸せ者でした。ですから、そういう皆さんに何か恩返しをというのもありますし。こういう形で残していかないとなって。

最近、てつや伯父も入退院を繰り返したりしてましたから、元気なうちにいろんなことができたらいいなと思いますね。

――以前、てつや氏に『プレイボール2』の刊行記念対談にご協力いただき、そこで千葉ファミリーの話をNHK朝の連続テレビ小説でドラマ化できたらと盛り上がりました。

千葉 初代担当編集者の谷口(忠男)さんとの対談ですよね。てつや伯父も「俺の役は誰がやるの?」なんて言って、結構喜んでましたよね。

――ご本人は「照れ臭いから死んでからにしてよ」とも仰ってましたが(笑)。

千葉 いや、そう言ってるだけで本人も観てみたいんじゃないかと思いますけど。子どもの頃に一家で満州に移り住んで、敗戦の混乱の中を生き延びて帰国して。戦後のとんでもない貧しい生活で大変なところをてつや伯父が漫画家になって一家を支えて......ずっとその時代時代を生きてる感じですもんね。

――連載中の『ひねもすのたり日記』でも詳しく回想されてますよね。対談では、満州で生まれて病弱で体も小さかったあきおを主人公にすればいいとも語っていました。

千葉 ほんと、そういう想像するのも楽しいですよね。父から受け継いだ作品や登場人物たちの世界を残していきつつ、向き合っていかなければと思いますし。作家が死んでからの守り方っていうのも大事ですけど、いろいろ考えていくべきことは多いなと。

――兄弟みんな、千葉ファミリーが生み出した作品や関連物を集めたら、魅力的なミュージアムなどもできるのでは?

千葉 それこそ大変な作業になるでしょうけど、千葉家というくくりにすることでまたファンの方々が一堂に触れることができるというのはあるかもしれませんね。

ひとつひとつやっていくことが間違いではなく、周りにも皆さんにも喜んでもらえるものなら嬉しいですし、その先に続けていければなと思います。

――それがまた今は亡き、あきおさんに喜んでもらえることでもあるかと。杯を片手に照れながら、にやにやしてるかも......。

千葉 それはすごくありますね(笑)。いや、でもほんと叶(かな)うのであれば、今の自分が一番したいこととして、父親と飲んでみたいってのはすごいありますよ。

武論尊先生からも今回、父と飲んでた頃のお話をいろいろ聞けて、ここに一緒にいて飲めるなら飲んでみたかったなぁと想像しながら、どんな話になるのかなとか......。生きていたら、もう80歳近くになってるんで、その歳になった父親なのか、当時の今の私より若い父親なのか、それが難しいんですけどね(苦笑)。

――場所は、本作にも出てくる近所の寿司店ですかね(笑)。そこで「おまえが一番、千葉家らしい顔つきになったな」とか言われるかも?

千葉 それはいろんな方から言われます(笑)。千葉家の血をすごく強く継がせてもらったのかなと。おじたちも皆、すごく見た目も似てるので。

――逆に、あきおさんには自分から何を話すか考えたりは......。

千葉 うーん......やっぱり、どこかで生きててほしかったという思いは強いので。「そんなに全力疾走する必要はないんじゃないかな、どう?」って。そういう話が出ちゃうんじゃないですかね、たぶん。

さんざん頑張ったんだから、ちょっと箸休めしてもいいように思うよって。

――それはやはり、その当時の父親へ、年齢を超えてしまった息子が語りかけるイメージですね。ドラマ化実現の折には、そんな架空のエピソードがあってもいいような。

千葉 まぁ、父親には反面教師となった部分とか、千葉家もいろいろあるんで大変でしょうけど(苦笑)。想像するだけで楽しくないか?って気はしますし。今後、何かいい方向でいろいろできればと願っています。

――そのためにも、まずはこの評伝が多くの読者に届いて、可能性広がるものになればと。本日はありがとうございました!

●千葉一郎 
1975年東京都生まれ。ちばあきおの長男。現在は作品の企画・管理をする、ちばあきおプロダクションの代表を母より引き継ぎ、父の作品の商品化プロデュースに携わる


■『ちばあきおを憶えていますか』(集英社)