人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが2月の『キン肉マン』連載をレビュー!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!

希代のストーリーテラーのふたりが2月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

●今回の「先月の肉トーク」テーマ

第372話 新たなる超神の正体!!の巻(2月7日分)
第373話 ロボ超神VSロボ超人!!の巻(2月14日分)
第374話 笑顔(スマイル)の代償!!の巻(2月21日分)

【あらすじ】ウォーズマンVSオニキスマンのバベルの塔決戦3戦目がついにスタート。敵のオニキスマンは、スクリュー・ドライバーやパロ・スペシャルに酷似した技を操り、さらに体が機械であったり、ウォーズマンと重なる部分が多く、自分と似た相手との闘いに苦戦する。

イデオロギーのぶつかり合いがおもしろい

燃え殻(以下、) ウォーズマンが闘っている超神のオニキスマン、エル・デスペラードさんが「フィギュアが欲しい」ってツイートしてたけど。確かにいいデザインだし、闘ってる間に、魅力的に見えてきた感じがするね。

爪切男(以下、) カッコいいですよね。あと、向こうもロボっていう共通項を出してくれたから、そのなかで考え方に違いがあってよかったというか。「ロボットとは何か」「超人とは何か」「神とは何か」みたいなところで、イデオロギーがぶつかり合う試合は、わかりやすい。プロレスの場合も、お互いの考え方が、試合としてぶつかり合うからおもしろいわけじゃないですか。俺が世代的に間に合わなかった、最初のUWFと新日の戦いのような。

 ヒリヒリしてたよね。

 あと、やっぱり自分を重ねちゃうんですよね、プロレスラーのやられても頑張って立ち上がる姿とかに。だから今回も、ウォーズマンに自分を重ねてしまうというか。

 そうそう。あと、一見さんでも楽しめる感じもあるのが、この試合のいいところだと思う。体の壊れている所が見えて、それが肉体じゃなくて機械だったりする。『キン肉マン』を理解していない人が見ても、ビジュアル的におもしろいじゃない? そういう意味で、間口が広いよね、ウォーズマンのこの試合。攻守も入れ替わりまくりで。

 でもこの試合、ウォーズマンの集大成みたいな感じがしちゃうから、逆にちょっと不安でもあるんですけど。今のイメージのままのウォーズマンを、今後も見ていきたくなってしまうんですよ。今回の試合で、自分で自分の体を傷つけて、放電させて、コンピューターを始動させないようにして、本能で技を放つ、ということまでやっちゃったんですよね。

 そうだよね、相手に技を読ませないために。

 っていうことは、これからは放電させなくても本能で動く、新しいウォーズマンに進化する、ってことなのかな。

 どうだろうね。毎回、後がない闘いを、ずっとやってる感じだもんね。

 でも今回のウォーズマンは、現代を生きてる人にも当てはまりそうな感じがしますね。ロボットみたいに生きてる人もいると思うから。プロレスのいろんな団体に、破天荒を気取ってるけど、会社の言うことを聞いている、サラリーマン・レスラーっているじゃないですか。

 ああ、××ですか?

 とか、××××とか。言うたら昔の××××ですけどね、実は一番頭がいい。

 優等生な、ね。

 いい試合は間違いなくするけどおもしろくない、サラリーマン・レスラーって各団体にいるけど。そういうやつになりかけだったところで、おもしろくなってきたのが、今のウォーズマンっていうか。だからこのまま、今WWEにいる中邑真輔みたいになってほしいですよね。

 ああ、なるほどね。

 俺の中で、中邑って最初は優等生だったんですよね。

 確かに!

 それこそウォーズマンですよね。年は離れてるけど、猪木さんがバラクーダとしたら、中邑真輔がウォーズマン。でもその中邑版ウォーズマンが、猪木さんの呪縛から解き放たれて、今は「イヤァオ!」になってる。この試合に勝った後のウォーズマンが、「イヤァオ!」とはいかないけど、何か解き放たれてくれたらいいですね。ほんと、中邑真輔になってほしいなあ。

 そう考えると、これまでは大きく目立ったことはないのかもね。

 そう。それはそれで優秀なんですよ。ウォーズマンの役割をやれって言われて、誰でもできるわけではないから。

 それはそうだね。

爪 でも、優秀がゆえに......みたいな。いろんな団体に、そうなっているプロレスラーがいると思うので。いい試合はするし、ファンも認めてるけど、なんかちょっと足りない、もっと熱さとかおもしろさが欲しい、っていう。

 上には行けないけど、おもしろい試合をする人ね。

 でも、人間的魅力が爆発したときに、化ける。そうなったらいいですね、ウォーズマンも。燃え殻さんもウォーズマンじゃないですか?

 ん? どういうこと? 負けるってこと?

 いや、ちゃんといろいろな任務を遂行するから。

 遂行してないよ、全然。遅刻までするんだから(*この対談を翌日だと勘違いして、40分遅刻して来た)。

 はははは、いやいや。

 ここまで煙出しながら来たんだから。

 それもウォーズマンじゃないですか(笑)。でも、誰しもウォーズマン的なところ、ありますからね。言われたとおりにやっておけば、ラクやから。本能を出す前に、「俺じゃなくてもいいかな」って引くとき、ありますもんね。

 ああ、そうねえ。

 だから、読んでいて、自分の中にもウォーズマンがいたらいいな、と思っちゃいますね。本能を出したら、そこには別の自分がいるんだろうな、っていう憧れ。今俺はウォーズマンにすごく憧れている、っていう感じだと思います。「そんなに熱くなるんだな。じゃあ俺も、熱くなっても恥ずかしくないのかな」みたいな。大人になると、ないですもんね。あります? 最近、声を出して怒ったりとか。

 怒られることはある。

 はははは!

●キンケシが実は今話題!? ふたりのキンケシ譚

 そういえば最近、嶋田(隆司)先生が、かなりキンケシを推してるよね、SNSとかで。

爪 ああ、2021年に「キンケシ19」とか「ダイキャストキンケシ」とか、どんどん発売になってるから。

 俺、子供の頃、キンケシはベージュ色の本物が買えないから、まず緑色(*)の偽物を......。
*現在は、公式発売されているものにも緑や赤があります

 ありましたねえ、偽物。秋祭りとかで、テキ屋の兄ちゃんが見たことないキンケシを売ってる。

 そうそう。まだキン肉マングレートが出てないときに、もうグレートみたいなのを売ってたりとか(笑)。目が入ってないやつ。それ見て「怖いな、このキン肉マン」って言ったの、覚えてるもん、俺。で、ちょっと小さいんだよね、本物より。

 そうそう! 屋台のエサに使われてたんですよね。ワタアメ買ったらキンケシをくれる、みたいな。

 でも、偽物のキンケシも、集めてたからなあ。ベージュ色のキンケシを持ってるやつは......思い出した! セットで買えたじゃない? 中が見える箱に入ってるやつ。

 あったあった。

 デパートとかで売ってて、買ってくる金持ちのやつがいるんだよ。俺は、地元の駄菓子屋に行って、赤の、なんかもう紅生姜みたいな色のキンケシを(笑)。形がやけに細いの。で、小さいの、硬いの。

 あったなあ......。

 足とかちょっと曲げたりしたいじゃない? 曲がらないの、カッチコチで。で、商品名も「キン肉マン」とは名乗ってない。「筋肉モリモリ」とか書いてある。

 ははは、そうそう。

 ベージュ色の本物が欲しくて、誕生日かクリスマスかなんかのときに、買ってもらったんだよ。セットで箱に入ってるやつ。そういうのは開けないで持っておくほうがいいじゃない? だけど、うちの妹が開けて、ほんとに大ゲンカした。

 (笑)。でも、キンケシを先輩に取られまくってたなあ。だから言わなかったですもん、いいやつが当たっても。ウワサが広まって、取られちゃうんで。そうなると、先輩が校門で待ってたりするんですよ。で、「はい、すぐ持ってきます......」って。

燃 召し上げられるんだ?

爪 そう、3年間イジめられることを考えたら、キンケシよりも安泰な学校生活のほうを取る、っていう。

 ......今からキンケシ、集めようかな、俺。

 ははは。燃え殻さん、今、集めてる物、あります?

燃 なんにもない。爪さん、ある?

 俺は......もう閉店したけど、中野のブロードウェイにトリオって店があって。アイドルの写真集とか、すごい安値で売ってて。青春時代に買えなかった、新山千春とか、平山あやとか、200円くらいなんですよ。週に一回行って、そのたびに10冊ぐらい買ってたら、500冊を超えました。

 えーっ!

爪 この間、けっこうな量を整理しましたけど。さすがに場所を取りすぎて。

 はあー。すごいなあ。

 でも、考えてみたら、キンケシなんですよね。人生で最初に収集癖をくすぐられたのは。

 そうかもね。俺、単行本も、初めてそろえたのは『キン肉マン』と『ハイスクール!奇面組』だ。

 『キン肉マン』って、そういう側面も大きいですよね。最初はキンケシからでしたよね。キンケシを持っておきたいと思わせる感じって、フィギュア的なものを集めるみたいなブームのはしりですよね。

 確かにそうだ。ガシャポンはキンケシよりも前からあったみたいだけど、あんなに普及したのって、キンケシからだもんね。で、ダブリとかね。

 ダブリっていう概念を教えてくれたのはキンケシですね。ダブリ、トレード、奪われるのもそうですけど、どれも初めて経験させてくれたのは、キンケシだった。

●社長、テロリスト......キンケシで学んだ社会

燃 そういえば、地元にみんなで「社長」って呼んでた金持ちがいたんだよ、同級生で。そいつのお父さん、なんかの社長なの。で、そいつ、金持ってるから、ガシャポンを連発でやるの。みんな周りで待ってて、社長がダブリを出したら......。
爪 ああ、くれますよね。

 そいつ、ガシャポンの前にしゃがんでて、その上に置いていくの、ダブリでいらないのを。「これダブってるから」「あっ、はいっ」みたいな感じで。完全な同級生なんだけど、はっきりとしたヒエラルキーが。「ありがとうございます! じゃあ、こっちで......」って、下々の者同士で、そいつのダブリを分け合うっていう。「こっちはこっちで仲良くしようね」っていう。

 下々は仲いいですよね。だから、その頃もうありましたね、親ガチャの概念って(笑)。キンケシで学んだ。

 確かにね。ファミコンやりたかったら、金持ちの家に行く。うちにはないから。

爪 人がファミコンとかスーファミでゼーゼー言ってるときに、あいつらPCエンジンとか買ってましたから......。

 だから、不可能なこともあるっていうことを、その年で学んだ。

 で、金持ちって飽きるから、そしたら貸してくれるんですよ、ゲームの本体ごと。そのときのために、『太閤立志伝』みたいに、忠誠心を上げとかないと。一番忠誠心が高いやつに貸してくれるんで。

燃 確かにねえ。そうだった。

 へたしたらくれますから。それを狙って、なかなか返さないとかね。「もういいよ、やるよ」のひと言が欲しいから。俺、それでメガドライブもらいましたもん、金持ちから。

 でもほんと、キンケシで、自分の家の身分とかがわかったなあ......。

 テロリストみたいなやつもいましたからね。キンケシを恨んでいて、キンケシを溶かして回ってるやつ。

 何それ?

 魔女の鍋みたいな入れ物に、アルコールランプやライターで溶かしたキンケシの残骸を入れてるんです。

 はははは!

 みんながキンケシに夢中なのに、自分は貧乏で仲間に入れないから、キンケシを恨むようになって。目に入るキンケシを、全部溶かしてた。

 怖いなあ。

 そいつ今、町会議員ですからね、地元で。

 ええっ!?(笑)

●燃え殻(MOEGARA)

1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。デビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)がNetflixで全世界配信中。3月の『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)に続き、4月27日には『それでも日々はつづくから』(新潮社)を刊行

●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。昨年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。本年2月より『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、3月『働きアリに花束を』(扶桑社)、4月『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)、の3ヵ月連続のエッセイ集刊行でも話題となった

●4月25日発売『週刊プレイボーイ』19号では、
『キン肉マン』休載特別コラムを掲載!!

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