放送されるたびに、大きな話題となるNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。

その脚本を手掛ける三谷幸喜は、自身の作品に同じ役者を繰り返し起用することでも有名だ。

今回は『鎌倉殿の13人』で活躍する役者が出演した、過去の三谷映画作品をご紹介! 映画ライターのヒナタカ氏の解説とともに、楽しみ方を紐解いていこう。

★佐藤浩市の素顔を知れる勘違いコメディ

『ザ・マジックアワー』(2008年)

『鎌倉殿の13人』では、凄絶な死に様で視聴者にインパクトを与えた上総介(上総広常)。この悲劇の男を演じた佐藤浩市の主演作が『ザ・マジックアワー』だ。

「『サボテン・ブラザーズ』や『ギャラクシー・クエスト』のように、〝映画の撮影だと思っていたのに実は本物だった〟という勘違い系コメディで、シンプルに笑えて三谷さんの映画への敬愛も感じる作品です。主役の売れない俳優・村田大樹の負けず嫌いっぷりは、現場での佐藤浩市そのままの素顔を三谷氏が描きたかったんだとか」(ヒナタカ氏、以下同)

いったい、どんなところが佐藤浩市の素顔なのか、それは見てのお楽しみ。『鎌倉殿の13人』でも随所に見せた滑稽さや悲哀が本作では全開に表現されており、佐藤浩市の生かし方を知り尽くした三谷氏の傑作だ。

★豪華キャスト陣を長回しで見られる贅沢さ

『THE 有頂天ホテル』(2006年)

同じく佐藤浩市も出演する『THE 有頂天ホテル』は興行収入60.8億円、2006年邦画ランキング第3位のヒット作。

「三谷作品のいいところのひとつは、まずキャストが豪華であること。本作も役所広司、松たか子、香取慎吾、篠原涼子、オダギリジョーなどが出演し、その例にもれません。また、三谷氏お得意の長回しは本作でも見られ、豪華キャストが一堂に会し、その芝居をカットを割らず見られるというのは非常に贅沢。三谷氏は脚本家だけでなく、監督としての実力も世間に示した作品です」

クラシック映画の名作『グランド・ホテル』のオマージュも、映画ファン的にも注目ポイント。

★頼朝と秀吉、大泉洋の演じ分けが絶妙

『清須会議』(2012年)

『鎌倉殿の13人』で、支配者としての恐ろしさをだんだんと表してきた源頼朝。これを演じる大泉洋は、三谷作品では豊臣(羽柴)秀吉役で『清須会議』に出演している。

「両者ともに政治の天才という役柄でも、『鎌倉殿の13人』の頼朝はマジメさが前に出ているのに対して、『清須会議』の秀吉はもっと狡猾で虎視眈々としている。その演技の振り幅を見比べるのも面白い。秀吉に柴田勝家(演:役所広司)が挑むも、ことごとく秀吉が一枚上という無情感も胸にきます」

合戦も武士道も描かず、会議という地味な舞台ながら、観客動員ランキングでは、公開から2週連続で1位を獲得した。

★西田敏行のコメディセンスが爆発

『ステキな金縛り』(2011年)

『鎌倉殿の13人』の狡猾&コメディ担当といえば、西田敏行演じる後白河法皇。西田敏行も三谷作品の常連だ。

「落ち武者の幽霊を、現代の裁判で証言させるためにあの手この手を尽くす、というファンタジーに振った設定。ストーリーの若干の破綻は三谷さん本人も認めるところですが、西田敏行と弁護士役の深津絵里の掛け合いは理屈抜きで楽しめます」

落ち武者なのに現代語を話す。これは、『鎌倉殿の13人』の北条義時ら武士にも共通して見られる。時代劇をカジュアルに見せたい、という三谷氏の一種のこだわりなのだろう。

★茶化したなかにも人間の普遍的テーマあり

『記憶にございません!』(2019年)

頼朝を支え、その亡き後も鎌倉幕府で重要な役割を担う北条政子を演じるのは小池栄子。彼女が過去に出演し三谷作品が『記憶にございません!』。

「ロッキード事件を元ネタに、政治家お決まりのセリフを茶化した設定。それでも、短絡的に『うわ、最低!』と怒るだけでなく、人それぞれの人生の価値観や、失敗を成功につなげるという教訓、主義主張は通そうとする人間の姿といった普遍のテーマも盛り込んだ、ヒューマニズムが根底にある作品だと思います」

現代の政治情勢と照らし合わせて見たい作品?

★作家・三谷幸喜の苦悩が見え隠れ

『ラヂオの時間』(1997年)

三谷幸喜が主宰する劇団、東京サンシャインボーイズで上演した名作舞台を映画化。同氏初めての映画監督作品だ。

「群像劇としても非常に面白いし、のちに『カメラを止めるな!』などにも影響を与えました。三谷さんはやっぱり"何かの舞台裏"を描くのに長けた人。それが色濃く出ているのが『ラジオの時間』でしょう。また、ラジオドラマの脚本を生放送で何度も書き直しさせられて現場が振り回されるというのは、自身の脚本をプロデューサーに何度もダメ出しされた、当時の憂鬱も投影されています。笑えるだけでなく、作家・三谷幸喜の苦悩を垣間見ることもできます」

『鎌倉殿の13人』で視聴者から厄介者扱いされる暗殺者・善児役を演じる梶原善は東京サンシャインボーイズ所属。ということで、この作品に限らず、多くの三谷作品に出演している。

★マイホーム購入で起きたドタバタをそのまま映画化

『みんなのいえ』(2001年)

こちらも『ラヂオの時間』と同じく、三谷氏自身の実体験を作品化。

「自身が家を建てるときに起こった家主とデザイナーと大工さん、という三者のやり取りをそのまま物語にしているそうです。パーソナルな経験を元に普遍的なメッセージを込める、これも三谷さんの作家性なんです」

前述の梶原善もちょい役で出演。主演は『ラヂオの時間』『THE 有頂天ホテル』などにも出演する、こちらも三谷作品の常連、唐沢寿明。

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以上、『鎌倉殿の13人』俳優が出演する三谷映画7選でした。このような三谷氏の映画製作に対する思いは、対談本『三谷幸喜 創作を語る』に詳しい。

もちろん、三谷氏はドラマも多数手がけており、Amazonではオリジナルドラマ『誰かが、見ている』も配信中。『鎌倉殿の13人』ファンも、そうでない人も、今改めて三谷作品を振り返ってみるのもいいのでは!