人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが3月の『キン肉マン』連載をレビュー!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!

希代のストーリーテラーのふたりが3月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

●今回の「先月の肉トーク」テーマ

第375話 絶望に瞬く光!の巻(3月7日分)
第376話 希望の果てに見た未来!!の巻(3月14日分)
第377話 火事場のパロ・スペシャル!!の巻(3月19日分)

【あらすじ】超人vs超神のバベルの塔決戦3戦目。ウォーズマンに対峙するは、維新の神・オニキスマン。序盤、体の一部が機械同士の闘いに大苦戦するウォーズマン。ところが、キン肉マンの名セコンドで本能に目覚め、勢いに乗ったウォーズマンはまさかの必殺技を繰り出す......

■やられっぷりに〝色気〟が出るウォーズマン

燃え殻(以下、) まず、本当にベストバウトだよね、ウォーズマンvsオニキスマンは。

爪切男(以下、) 本当にそう、激しい技の応酬でかなり読み応えがありました。

 試合展開がスゴくいいし、超神・オニキスマンもキャラクターが立ってきてる。

 キン肉マンの、名セコンドぶりもいいんですよね。昔の「夢の超人タッグ編」のときも、テリーマンがジェロニモに「キン肉マンだったら、ここでこういう言葉をかけてくれた」と言ったりして。実はめちゃめちゃセコンド能力が高い。本人は気づいてないけど。

 ああ、そうだよね。

 珍しいですよね、主人公なのにセコンド能力も高いって。

 それからウォーズマンは、やっぱりボコボコにされ放題だったね。

 ボコボコにされるのが画になりますからね、毎回。

 プロレスラーでも、ハードヒッターの技を受ける側としてのいいレスラー、いるじゃない? プロレスラーでは表現できない、受けた後の壊れ方もいい。ゆでたまご先生も、ウォーズマンはボロボロに描きたくなっちゃうんだろうね。

 そうかもしれない。

 技を受けたときのダメージが、画になるもんね。負け方にもいろいろあるじゃない? ジェロニモだと首を切り裂かれたけど、ウォーズマンは全身をバリバリに壊される。

 壊しがいがあるというか(笑)。

 ハードヒットがすぎるよね。ネプチューンマンのあの試合の後だと考えると。プロレスだったら団体が違うんじゃないかと思うくらい。

 (読み直しながら)いやあ、食らってんなあ、ウォーズマン......しかし、こんなに好きだったんですね、キン肉マンのことが。前のビッグボディのとき(キン肉マン スーパー・フェニックスと結成したタッグ、ゴッドセレクテッドでの闘い)もそうだったけど、ちょっとBL的な。

 ああ、そうねえ。

 キン肉マンへの気持ちが迸りすぎていて、熱い。

 ウォーズマンがこんなにしゃべるんだ?っていうのにも、びっくりしたしね。

 だから、それも怖いんですよね。負けるキャラクターほどよくしゃべる、という。

 ああ、そうか。ウォーズマンは負けも多いだけにね。

 昔の少年マンガだと、よくしゃべるキャラは絶対死にますから。

 そうだねえ。

 でも、今回は一貫して、超神側がウォーズマンを認めないですよね。「甘い」「ポンコツだ」「罰だ」とか言って。

 うん。でも、その結果、いい試合になってる。

 そうですねえ。お互いのアイデンティティの対立が、最後までずっとあって、だからいい試合になるんですね。

 今回初登場のキャラであるオニキスマンだけど、今までの超神の中では一番インパクトがあるよね。

 そうですね。初めて来日した、よくわからない外国人レスラーを好きになるときみたいな。試合が良かったから、好きになる、そんな感覚に近いです。

 うん。バベルの塔に来てからの闘いの中では、今回が一番いい試合になりそう。

 近年の『キン肉マン』の中でも、ベストバウトに近いんじゃないですか?

 そうかも。ウォーズマンの受け身あってこその、だけどね。仮面が外れて別の顔があるとか、傷口から機械が見えるとかが、画として映えるというか、いい感じでオニキスマンとのシナジー効果が生まれてる。

 カッコいい超人だっていうことの証明ですよね、やられっぷりがいいっていうのは。色気ですよね、だから。

 ああ、そうだね。

 サンシャインだと、こうはいかないかな(笑)。

 ラーメンマンも、ボコボコにされるの似合うよね。

 ああ、ラーメンマンとウォーズマンは、やられているのが画になる、色気が出る。

 やられているところが色っぽいふたり。昔のラーメンマンとウォーズマンの試合(JC8巻)、よかったもんね。

 現実のプロレスラーを見ていても、やられっぷりがカッコいいっていうのは、持って生まれたセンスじゃないですか?

 そうだね。今の選手だと、誰かな?

 新日だと、内藤哲也はハードバンプ(*高角度や激しい技を受けること)が似合うな、って思いますけどね。(エル・)デスペラードさんもそうですね。

 うん。ほかにはいるかなあ。

 誰かなあ......あ、WWEに行く前の中邑真輔は、いろんな人の技をハードに受けていた印象がある。

 ああ、そうだった。

 飯伏幸太の、ロープに飛び乗ってのスワンダイブ式投げっぱなしジャーマンを受けたのは中邑だから(2015年1月4日に行なわれた「WRESTLE KINGDOM 9」)。

 そうだ、東京ドームで。

 あれは中邑が受けたから、印象づけられたというか。ほかのレスラーだったら、ここまで記憶に残ってないと思う。確か、新日本プロレスと『キン肉マン』でコラボTシャツを発売したとき、中邑は悪魔将軍を選んでいたけど、将軍のようなカリスマ性も持ちつつ、激しい技にも耐える技術もあったんだと思います。

 確かに、うん。

■デカい超人に抱かれたい!?

 (目の前の資料を見ながら)学研の図鑑『キン肉マン「超人」』がある!

 うん。スゴいねこれ! 欲しい、この図鑑(ページをめくりながら)......子供の頃、実はこの超人が好きだった、とかある?

 (ページをめくりながら)いろいろ見ていて思ったのが、今、大人になってから見ると、デカい超人、好きかもしれないです。キング・ザ・100トンとか、パルテノンとか。

 ああ、100トン、いいよね! フィギュアもいい。

 100トンとザ・魔雲天の試合とか、見たかったよな。

 魔雲天、いいよね!

 そう。コーカサスマンと闘ったマンモスマンもそうだけど、デカいの、いいなあ......、包まれたい。疲れてんのかもしんないな、俺。

 はははは! 疲れてると、デカいものを欲するの?

 デカいものに憧れる。たぶん、デカい超人に抱き締めてもらいたい、と思ってるんじゃないですか? パルテノンとかキング・ザ・100トンに。僕、中学で陸上部だったとき、走り幅跳びと砲丸投げと400mで合計得点を競う三種競技っていうのをやっていて。で、砲丸投げのヤツらと仲良くなったんですね、体デカいのと。

 (笑)。ああ、ああ。

 話がしやすかったんですよ、体がデカいだけで。そのデカいのに囲まれていると、すごく落ち着いたんですよね。相手がキング・ザ・100トンだったら、今、僕だいぶ、悩みを言えるもんな。

 はあー......。

 キング・ザ・100トンとパルテノンに抱き締めてほしい......やっぱり疲れてる(笑)。だって僕、もはやマッスルカフェに行きたいですもん。行きません?

 行かないよ!(笑)

 筋肉だらけに囲まれたい。

 そうだ、前に俺が働いてた会社の部下が通ってるスナックがあるんだけど。写真を見せてもらったら、ママがスッゴい太った人で、そのママに抱かれるのが好きなんだって。ギュッてハグされるのが。

 ああー、わかる!

 そいつね、メチャクチャモテるヤツで、それまではいろいろ遊んでたんだけど、最終的には、そのスナックでひとり飲んで、泣きながらママに抱かれるのが好きになっちゃったの。

 わかる。僕も最終的にはそこに行き着くかも。

 そいつ、今となっては店が始まる前に行って、掃除機かけたりしてるんだって。

 (笑)。ボーイじゃないですか。でもわかる。体格のいい女性にほれる気持ち、わかりますもんね。魅力的だし、何より落ち着くんだろうな。

 それって、魔雲天が好きっていうのと同じで、安心したいとか、包容力みたいなのを感じているのかも。

 燃え殻さんが好きだった、渋い超人は?

 この間、ラーメンマンとモーターマンの試合を読み返したんだけど。モーターマン、すげえ好きなんだよ。俺、モーターマンのキンケシ、持ってたんだよね。

 モーターマン、いいですよね。かわいいし、手が電池っていうのもいい。

 ラーメンマンに、キャメル・クラッチで真っぷたつにされたんだっけ(JC28巻)?

 そうです、そうです。

 それもね、いい!『キン肉マン』的な残酷描写なんだけど、モーターマンだから機械じゃない? だから見れるの。ラーメンマンとブロッケンマンの闘いで、生の体が真っぷたつにされたとき(JC3巻)の、残酷で怖い感じとは違って。昔、けっこう残酷だったよなあ。ミスターカーメンもね(JC11巻vsブロッケンJr.)。

 ミスターカーメンは残酷でしたね。僕は先端恐怖症だったから、ストローで相手の体液を吸うのが怖かった。

 (笑)。レフェリーがやられちゃうんだよね。

 イヤで仕方なかった。

■最新78巻好評発売中です!

 そういえば、4月4日に単行本の78巻が出たけど。帯が錦鯉さんだったよね。YouTubeに『キン肉マン』漫才の動画も上がっていたし。

 見ました。確かに(長谷川)雅紀さんは、ちょっとキン肉マンを地で行く感じが......。

 ああ、するね。

 本人は狙っているワケでもない上で、間が抜けた感じに見える、そこが魅力、っていう。その雅紀さんに、渡辺隆さんがほれてるじゃないですか。ちょっと似てますよね。キン肉マンが雅紀さんで、その周りに、彼のことを好きな超人たちが......渡辺さん以外も、雅紀さんを好きな芸人さんって多いから。

 確かに。

 錦鯉はいいな。『キン肉マン』にぴったり。

 担当編集に聞いたんだけど、錦鯉の出た『情熱大陸』(1月9日放送)を見ていたら、隆さんの部屋の本棚に『キン肉マン』が並んでいたから、オファーしたんだって。そしたら期待以上に『キン肉マン』を大好きだった、っていう。

 へえ! そういえば、日常生活が僕と似てるんですよね、隆さん。DVD屋に行って、何時間もエロDVDをあさったりしてて。「朝霧浄監督の作品が大好き」って語ってて、「話が合いそう!」って思ったなあ。

 (笑)。あと、気になったのが、コミックス発売のタイミングで「なぜ、神様がこんなにすぐ死ぬのかわからない」とか、読者からも厳しい意見があったことなんだよね......。

 そういう人は、プロレスファン的には「そこを言っちゃあ、おしまいよ」っていうのを喜んで言う人たちじゃないですか。マジックを見て「タネがあるもんじゃん」と思う人は、『キン肉マン』を楽しめないというか、マンガ自体を楽しめないんじゃないかな。

 そうだね。今は伏線をちゃんと張って、後半で回収して、みたいな、キレイな構造のマンガが多いじゃない?

 ああ、確かに。

 普段、そういうマンガに慣れてるから、それに照らし合わせてしまうと、『キン肉マン』といえど、そう感じるのかな。

 でも、そういうのじゃないところで楽しめるのが、本来のマンガのいいところなわけで。前に嶋田先生がこの対談に来てくれたとき(2021年9月13日発売39・40号)に、「とにかく伏線を張って回収すればいい、という風潮に違和感がある」という話をされていましたけど。

 ああ、そうだね。ちゃんと構成されていて、結末に向かっていくマンガが多いから、『キン肉マン』をむちゃくちゃに感じるのかもしれないけど......。

 そここそが、『キン肉マン』のよさですからね。

 そうなんだよ。

 僕たちも、自分が本を書くとき、重箱の隅をつつかれたらイヤですもんね。伏線とか考えてないから。

 ないねえ。

 「伏線が回収できていませんよ」とか「前半と後半でつじつまが合っていませんよ」とか言われても、「いいやん」としか思わないし。前半を書いたときはそう思ってたけど、後半を書いたときには考えが変わっていた、というだけだから。

 本当の人生は、伏線、回収できないからね。

 そうそう。いいこと言いますね(笑)。

燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。デビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)がNetflixで全世界配信中。最新著は『それでも日々はつづくから』(新潮社)。『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)が成田凌主演でドラマ化

爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。昨年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。本年2月より『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、3月『働きアリに花束を』(扶桑社)、4月『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)、の3ヵ月連続のエッセイ集刊行でも話題となった

●5月30日発売『週刊プレイボーイ』24号では、
『キン肉マン』休載特別コラムを掲載!!

●JC『キン肉マン』78巻、好評発売中!!