『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

9月1日(木)公開予定の映画『さかなのこ』で監督を務める沖田修一さんが影響を受けた作品について語ります!

■「よむよむ」に通いつめた青春時代

――幼少期に見て印象に残っている作品はなんですか?

沖田 『グレムリン』(1984年)ですね。小学生のときに『ゴーストバスターズ』と2本立てでやっていて。実家の近くの映画館に家族で見に行って、すごく怖かったんです。でも面白くて。めちゃくちゃ覚えています。

――僕は『ゴーストバスターズ』より『グレムリン』のほうが好きだった派です。

沖田 同じですね。『ゴーストバスターズ』はあまり印象に残らなくて。

――当時から映画はお好きだったんですか?

沖田 もともと自分で撮るほうが先で、見るようになったのは後からでした。そのきっかけは、NHKで流れていた『シベールの日曜日』(1963年)。モノクロの映画で、記憶を失った男が12歳の少女と出会って仲良くなる話なんです。ドラマチックなような、ドラマチックじゃないような、ちょっと気持ち悪い話なんですけど、すごく面白かったんですよ。

それまでジャッキー・チェンとか、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で放送される作品ぐらいしか知らなかったんですけど、 『シベールの日曜日』を偶然見たことで、映画っていろいろあるんだなと思って、レンタルビデオ店に通うようになりました。

近所に「ブックセンターよむよむ」という書店があって、そこの2階がレンタルビデオ店だったんです。だから、僕の青春は「よむよむ」なんですよ(笑)。

――いい話ですね~。映画少年っぽい!

沖田 高校生になる頃にはバカみたいに映画を見てました。高校の近くに文芸坐があったので、そこに通って、リバイバル上映を見て。親に弁当代をもらうんですけど、そのお金を2、3日ためると映画代になるという(笑)。

――またまたいい話ですねえ。

沖田 それで、高校生のときに出会ったのが松田優作さん主演の『家族ゲーム』(1983年)でした。一番大きな出会いかもしれませんね。もうバカみたいに面白くて、「何これ!?」って。

あとは『時計じかけのオレンジ』(1972年)。当時から(スタンリー・)キューブリックがすごい好きで、彼の映画は何回も見ました。『2001年宇宙の旅』(1968年)って、やっぱり最初は飽きちゃって最後まで見られないんだけど、「絶対見てやるぞ!」って。

――眠くなるんですよね、骨投げたぐらいから(笑)。

沖田 そうなんですよ(笑)。でも、映画青年の心を満たすものがあるんですよね。

――ほかにはどんな映画が印象に残っています?

沖田 『死の棘(とげ)』(1990年)という映画があるんですが、これがもう面白くて。夫の浮気がバレた後の夫婦の話なんですけど、 ふたりで歩いていたら、夫役の岸部一徳さんがいきなり奇声を上げて走り出すシーンがあって、それを見てゲラゲラ笑っちゃって。笑うシーンでは全然ないんですけど。

――岸部一徳さんの演技だと笑っちゃいますよね。

沖田 そこから、マジメなのに笑っちゃう映画がすごく好きになって。ミヒャエル・ハネケの『ピアニスト』(2002年)って映画があるんですけど、それを見たときも爆笑しちゃって。マジメすぎるからこそ、笑えてきてしまう作品なんです。こう言うと怒られるかもしれないけど、僕にはコメディ映画に思えるんですよね。

――沖田監督ご自身の作品も、『横道世之介』(2013年)や今回の『さかなのこ』とか、その雰囲気ありますよね。

沖田 そうかもしれないですね。そういう意味では、さっき挙げた『家族ゲーム』もそうですよね。

――有名な食事のシーンも、冷静に見ると笑えますもんね。

沖田 どこまで作り手にその自覚があるかわからないけど、そういう作品が好きなんですよね。

■さかなクンと女優のんさんの共通点

――9月1日公開の『さかなのこ』、すごく感動しました。さかなクンの半生を描いた自叙伝が原作ですが、監督としてはどういう気持ちでこの作品を作ろうと?

沖田 さかなクンに対して、「魚がすごく好きで、日本中から愛されているさかなクンって、いったいどんな人なんだろう?」という思いはもともとあったんです。そんななか、さかなクンの映画の企画があるという話を聞いたので、真っ先に名乗りを上げました。

――主演がのんさんというのも面白いです。

沖田 なんか似ているんですよね。絵も描くし。でも一方で、「さかなクンに似た人がさかなクンの再現ドラマをする必要はないのかな」という思いもありました。さかなクンを演じる上で、性別は重要ではない気もしましたし。

――魚って性別変わったりしますしね。

沖田 そこも意識したポイントでした。結果、のんさんなら、一番キュートに演じてもらえると思ったんです。

――個人的には母親役の井川遥さんがすごく良かったです。

沖田 現場では、子役のコの相手をすごくしてくれました。そんなに出演経験の豊富なコじゃなかったから、本当のお母さんのようですごくやりやすかったみたいです。

お母さんの話が出ましたが、実は僕、さかなクンのお母さんともお会いしたんです。すごく不思議で面白い人で、「このお母さんあってのさかなクンなんだな」と感じました。おおらかさを感じましたし、きっと子育ての面でも「普通はさせないでしょ」ってことを許して、認めてきたのかなって。

――さかなクン、番組でご一緒したことがあるんですけど、ずっとあの感じですよね。

沖田 そうなんですよね。僕も初めて会ったときに「さすがにテレビのまんまじゃないだろうな」って思っていたら、本当にあのままのさかなクンが来て。

――のんさんもそうですよね。

沖田 まんまだし、それがもし裏だったら、裏のままひっくり返らなくなっちゃったんじゃないかなとすら思いますよね。

――最後に、この作品をどんな方に見てほしいですか?

沖田 どの年代の人が見ても、誰が見ても、何かしら思ってもらえる映画になっています。ゲラゲラ笑って、何かを思ってくれたらうれしいですね。

●沖田修一(おきた・しゅういち)
1977年生まれ、埼玉県出身。2006年、『このすばらしきせかい』で長編映画デビュー。2009年、『南極料理人』で商業映画デビュー。その後、『キツツキと雨』『横道世之介』『滝を見にいく』『モヒカン故郷に帰る』『モリのいる場所』『おらおらでひとりいぐも』『子供はわかってあげない』など、多くの映画を手がけている

■映画『さかなのこ』
9月1日(木)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー予定
配給:東京テアトル
©2022「さかなのこ」製作委員会

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