「正しいセルジェンド光線のポーズは、顔に重ならないよう肩らへんに右手を合わせるのがポイント。意外と顔と重ねる人が多いんですよね」(武居監督)

新シリーズの魅力を武居正能(たけすえ・まさよし)監督本人が熱弁! 監督の意外なルーツ、主人公アスミ カナタの"無鉄砲ぶり"にあるキャラクターへのこだわり、巨大怪獣の秘密など裏話たっぷり! さらには「ウルトラマンの"王道"とは何か?」という問いに発展する濃い~インタビューに!

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■ウルトラマンを作る面白さを知った

――ウルトラマンシリーズの最新作『ウルトラマンデッカー』(以下、『デッカー』)が現在放映中です。特撮ファンの間では「現代的で最高に面白い!」と話題ですね。

武居正能(以下、武居 ありがたい! 僕らの狙いどおりに視聴者の皆さんが楽しんでくれていてホッとします。

――武居監督は2001年の『ウルトラマンコスモス』に始まり、15年の『ウルトラマンX』から今回の『デッカー』まで8年連続で助監督、監督として参加しています。そもそも子供の頃からウルトラマンが好きだったんですか?

武居 実はそこが微妙です。僕が小学生から高校生に入るくらいまでは、ウルトラマンのテレビシリーズの新作がなかった時代なんです。

もちろん、昭和のウルトラマンの再放送も見てましたけど、原体験としては『宇宙刑事ギャバン』(1982年)や『仮面ライダーBLACK』(87年)、SFアニメの『機動戦士ガンダム』シリーズ(79年~)や『超時空要塞マクロス』シリーズ(82年~)です。

ちなみに映画・ドラマ業界に入った当初は、どちらかというと特撮ではない一般映画を撮りたいと思っていた人間でした。

――そんな方がなぜウルトラマンに?

武居 ひと言で言うと、ウルトラマンを作る面白さを知ってしまったんです。僕は昔から王道の映画やドラマが好きで、普遍的な正義や愛、友情や絆(きずな)を描きたい人間なんですが、今の時代はとっぴで変化球的な設定やキャラが好まれやすい。王道的なものは作りづらく、はやらない。

ところが子供番組であるウルトラマンの世界を借りれば、それをストレートにやれる。ウルトラマンのお約束を守れば何をしてもいいと気づいたんです。

――今作『デッカー』は『ウルトラマンダイナ』(97年。以下、『ダイナ』)のリブート作といわれています。『ダイナ』は平成ウルトラマンシリーズ屈指の人気作。作り手としてのプレッシャーはありますか?

武居 ないとはいえません。でも、制作陣の多くが『ダイナ』を見たければ『ダイナ』そのものがある。同じものを見せてもしょうがないでしょ?と思っています。

僕らは新しい王道のウルトラマンを作ろうと意識している。『ダイナ』の要素は取り入れていますが、それは僕らにとっては武器のようなもので、武器は多ければ多いほどいい。そう考えています。

■「ウルトラマンシリーズ最強の無鉄砲男」

怪獣災害に立ち向かうエキスパートチーム「GUTS-SELECT」のメンバーたち

――では『デッカー』の中身について触れさせてください。まず舞台は前作『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』(21年。以下、『トリガー』)の数年後の世界だそうですね。

武居 『トリガー』の7年後です。『トリガー』の時代は宇宙開拓が進んでいて、人類はすでに火星に移住しています。そこからもっと遠くに行こうという機運が高まっているのが『デッカー』の時代です。

そこに謎の宇宙生命体「スフィア」が来襲(「スフィア」は『ダイナ』にも登場)。スフィアが地球全体を覆い尽くし、人類が宇宙に出られなくなってしまうところから物語が始まります。

この地球の外に出られなくなるという絶望感は、コロナ禍での僕たちが感じた変化や不自由さをモデルにしている部分があります。

緊急事態宣言が発令された頃、多くの人が外出しづらくなり、普通の社会活動を営むことが難しくなった時期がありました。長いときで撮影が約2ヵ月止まったりしていた。体裁は悪いかもしれませんが、それをメタファーとして描いてみました。

――そこに登場するのが主人公の「アスミ カナタ」(演・松本大輝)。第1話ではスフィアに向けてライフルで乱射。ファンの間では「ウルトラマンシリーズ最強の無鉄砲男」ともいわれています。

武居 ウルトラマンのよくある主人公像って誠実でまじめな男ですよね。でも実はそのキャラクターでドラマを引っ張っていくのはけっこう難しい。

だからといって『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイのように悩み、暗い性格にはしたくなかったし、最近はやりのダークヒーローも違うと思った。ポジティブで行動力があって、自ら物語を引っ張っていくようなキャラクターにしました。

とはいえ、彼はまだ若くて未熟な青年なので、物語の中でどんどん成長していきます。その姿をぜひ見てほしいですね。

――アスミ カナタはある出来事をきっかけにウルトラマンの能力を獲得します。変身後の『デッカー』のデザインは、一見『ダイナ』風ですが、胸に「左右非対称の巨大な宇宙」がデザインされています。

武居 かなり冒険的な造形になりました。ウルトラマンの原理原則として「左右対称のデザイン」というのがあります。これは撮影した映像を左右反転して使用しても違和感がない、という利点がある。

だけど『デッカー』は左右非対称なので、映像を反転させるとバレちゃう。その分、ちゃんと撮影しないといけない(笑)。でも左右非対称であることで、怪獣との格闘シーンがよりダイナミックに見えるはずです。

「とにかく怪獣を大きくしたかった」と話す武居監督。写真は第2話登場の破壊暴竜デスドラゴ

――『デッカー』に対峙(たいじ)する怪獣も注目です。第1話では「スフィアザウルス」という異形の怪獣が登場。『デッカー』よりもめちゃくちゃでかい!

武居 僕はとにかく怪獣を大きくしたかった。大きくて絶対に勝てそうもない怪獣にウルトラマンが挑む。そしてどうにか勝利する。そこで初めてウルトラマンの強さを伝えることができるはずだ、と考えました。

だから、制作初期の会議では小さいウルトラマンと大きい怪獣のソフトビニール人形を持っていって、「このサイズ、この対比でやりたい!」って強く言いました。ただ、今までの怪獣よりも大きいのでスーツアクターさんは大変だと思います。

■「ウルトラマンの王道」とは?

――戦闘シーンも多彩です。第1話ではデッカーvsスフィアの空中戦、第2話、3話における可変式戦闘機「GUTSファルコン」「GUTSホーク」の空中戦は、アニメ『超時空要塞マクロス』の「板野サーカス」(ミサイルや戦闘機など高速で動く物体を高速で動くカメラが撮影し、立体的な戦闘シーンを表現する作画技法。アニメ監督・CG監督の板野一郎氏が発明)を連想しました。

武居 実は僕が助監督をやっていた『ウルトラマンネクサス』(04年)、『ウルトラマンマックス』(05年)に板野さんが参加されていたんです。そこで板野さんの手法を直(じか)に学びました。今回の演出でもかなり役立っています。

さらに言うなら、今回のシリーズ構成を担当されている根元歳三さんは、近年の『ウルトラマン』シリーズの脚本家でありながら、最近の『マクロス』シリーズ、映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』のシナリオも担当されています。

今回の『デッカー』は僕が一緒にやりたかったスタッフ、やりたかった映像テクニックを総動員しているんです。そうでないと、僕が考える新時代の王道のウルトラマンは描けないと考えています。

――先ほどから「王道のウルトラマン」というフレーズがたびたび登場しますね。武居監督にとっての「王道のウルトラマン」ってなんでしょう?

武居 平成シリーズに10年近く関わり、その美学を刷り込まれた人間からすると、あくまで平成シリーズ以降「王道のウルトラマンとはヒーローものである」ということに尽きます。SF的な要素も、そういったヒーロー性を引き立てるための要素のひとつです。

実は昭和のウルトラマンシリーズを見ていた方ってウルトラマンを「怪獣もの」って言うんです。あくまで個人的な印象ですが、映像を見ると怪獣の持つ背景を中心に物語が展開するように作られていることが多い。

一方で平成以降のシリーズにはウルトラマンそのものにヒーロー性が強く、変身する前の主人公にもなんらかの意識や目標があって、それを達成するためにウルトラマンに変身するというケースが多い。別の言い方をすれば、昭和シリーズよりも平成シリーズのほうが、ウルトラマン自身の物語に焦点を当てていると思います。

もちろん、冠(かんむり)に「ウルトラマン」とついている限り、どんなものでもウルトラマンです。いろんなウルトラマンがあってもいい。だけど、重要な要素として、僕は平成ウルトラマンの特徴だったヒーロー性を重視しているし、その王道を描きたい。それを具現化させたのが『デッカー』なんです。

ウルトラマンシリーズに疎(うと)い方にも見やすく、知っている方にはより深く楽しめるように作っていますので、ぜひご覧ください!

●武居正能(たけすえ・まさよし) 
1978年生まれ、山口県出身。テレビシリーズの2010年『TAXMEN』(TOKYO MX)および『宇宙犬作戦』(テレビ東京)で監督デビュー。2018年『ウルトラマンR/B』(テレビ東京)で初のメイン監督に抜擢。以後、『ウルトラマンタイガ』(2019年、テレビ東京)、『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』の監督を務めるなど活躍を広げている